第十八話 突入……。無名都市
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街道を進むこと二時間程、私達は潮風が頬を撫でる港町を見下ろす小高い丘に来ていた。
私は村長の指示通り、そこで車を停める。
「――えっ、でもここ、街から結構離れてません?」
「これから行く街はあまり治安が良くないので、街中に軽トラを置いておいたら盗難されるかスクラップにされかねません。車はここで停めて、街へは歩いて行きましょう」
「あぁ、なるほど……確かに軽トラはこの世界では珍しいですかね」
「そうでなくとも、街中の道は狭くて軽トラでは通れないので、街に入ってからの移動は徒歩が基本になるんですよ」
軽トラから降りた私は二時間運転しっぱなしで凝り固まった身体でうーんと伸びをする。
肩の辺りの骨がボキボキと音を立てて伸びる。姿勢が悪い証拠だ。
「やはり、乃香村長の世界の“自動車”というのは素晴らしいものですね。本来なら馬車でかなりの時間がかかる道のりをこんなに早く」
「ありがとうございます。ですが、この世界の魔法か何かを使えばカルルス=げんき村から、こう……ビューン! と転移できたりしないのですか?」
ベリー村長が私をこの世界に呼び出すことができたのだ、逆説的に考えて対象を目的に飛ばす魔法を使うことができたって不思議じゃないはず。
それとも、呼び出すのと送り出すのとでは理屈が違うのかな?
「できないことはないのですが……その場合、村からここまで転移魔法を使おうとすると往路だけで二日分の魔力を消費してしまいます。それに、乃香村長はきっとあんな所に二日も滞在したくはないと思いますよ?」
「治安が悪いって言ってましたけど、そんなに危ないところなんですか?」
「百聞は一見に如かず、見てみれば分かりますよ。それじゃ、行きましょうか」
「――えっ? あ、はい……!」
ふらりとベリー村長はまるで散歩にでも行くかのような顔をして丘を下る。
その表情や態度はとても今から危険な場所に行くような面持ちじゃなかった。
実はそんなに危ない場所じゃなかったりして……。
きっと、ベリー村長は“治安が悪い”とか“滞在したくない”とか言って私に程よい緊張感を持ってほしかったんだと思う。
りょーかいです! 確かに、初めて行く場所にはワクワクする気持ちも大事だけど、しっかりと気を引き締めないとね!!
「ところで、この街はなんていう名前なんですか?」
「名前はありませんよ。そもそも“街”じゃないですから」
「名前がない? どういうことですか?」
「それは、着けば分かりますよ」
どういうことだろう? 名前がないって……。
それに、街じゃないって……見たところ、けっこう立派な『街』だと思うんだけどなぁ。
くすんだ茶色の建物が立ち並ぶ、その町はやはり如何にも異世界の街という感じでファンタジー好きの私からすれば冒険心をくすぐられる。
まして、『名前がない』、いわゆる“無名都市”なんて言われると余計に好奇心を刺激されて「早く行きたい!」という衝動に駆られる。
「じゃあ、早く行きましょう!」
「あぁ、走ると危ないですよ――」
街に着けば理由が分かるっていうし、早く降りてみよう!
私は村長を追い越して、小走りで丘を駆け下りていく。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
「――おい! それはそっちに運べッ!!」
「なにしてんだッ! 大事な商品だぞッ!!!」
「へましやがったら海の藻屑にすっからなッ!」
「――なんだとコノヤロウ!?」
街の前まで来ると海辺に住む屈強な男たちの威勢のいい喧騒が飛び交っている。
どの言葉も粗暴だが、これはこれで漁師町みたいな感じがしていい。
……だが、肝心の鮮魚販売店がまるで見当たらない。
街を行き交う男達が持っているのは木箱に入ったよく分からない植物(なんか見覚えのあるやつ)、キノコ、花――そして、麻袋。
そして、それらが鮮魚の代わりに露店にところ狭しと並んでいる。
「……………………」
行き交う人々をよ~く見てみると、漁師のように屈強に見えた男たちの肩や胸の辺りには髑髏や十字の骨の刺青が入り、顔にいくつもの傷が見える。
そして、その露店で商品を見ている人達はずる賢そうな大男や卑屈そうな小男までいるが、まぁどれを見てもロクな人間がいなさそうだ。
っていうか、この街にいる人間のほとんどが“愛想”とはおよそ無縁のチンピラみたいな顔をしている。
「…………村長、この街って……」
「分かりました? そう、この街は海賊が作り上げた無名都市です。海賊が海外から密輸入してきた薬物を取り扱うための仲介場にいつの間にか建物が建ち、大きく発展した結果、“街のようなもの”になったのです」
「あの……ここって、ヤバいところ……ですよね?」
「えぇ、ヤバいです」
そんなあっさり言わないでよ~!
なんか変だって思っていたけど……ここはアレだ。
いわゆる大型に発展した『闇市』だ。
で、さっき見た、“見覚えのある植物”もあれは“ケシ”だ。
ってことは、ここは麻薬仲介所ってことじゃんッ!! なんていうところにいるんだよ! ベリー村長の師匠はッ!? やっぱり、アウトレイジだよ!! コノヤロー!
「えっと、ここにベリー村長の師匠がいるんですよね?」
「はい、そうですよ。この世界では基本的にこの街に滞在してますね」
「ってことは、その師匠って……」
「あ、いえいえ、別に師匠は麻薬は取り扱っていないですよ。ただ、いわゆる密入国者のような立場なので面倒ごとを起こさないようにここに隠れているだけですよ〜」
と、あっけらかんとして言うベリー村長。
ふぅ……なんだ、よかった~。麻薬のブローカーじゃなくて……。
――ってなるかぁ! 密入国なんて麻薬売買と大して変わらんでしょ!
というか、面倒ごとを起こしたくないって……そもそもこんな場所に潜伏していること自体が既に面倒な気がするんですが!?
「行きましょうか」
「行くって、この街に入るんですか!?」
「えぇ、でないと師匠が見つかりませんから」
「ウソでしょ……こんなん絶対にヤバいじゃん」
たまに、ベリー村長の緊張感のないその性格と態度が恐ろしく見える時がある。
今がまさにそうだ。こんな誰がどう見たって『ヤバい』と感じれる場所をまるで遊園地にでも行くかのような顔をして入っていくのだ。
正直、帰りたかったが、ここで置き去りにされても困る。
私は泣く泣く村長の後を追って、無法者共が蠢く、海賊街に足を踏み入れるのであった。
「――うぅ……そんちょ〜。やっぱり、マズイですって……帰りません?」
「僕から離れないでくださいね。はぐれたら命はありませんよ」
「ひぃいい……」
いざ海賊街に入るとその、不穏さは入り口の比にならない。
街の奥に行けば行くほど大物がいるのか、入り口での喧騒が嘘のように掻き消え、辺りは酒と怪しい煙の臭いでくらくらしそうだ。
おそらく、入り口で騒いでいたのはまだまだ下っ端、三下の連中だったのだろう。
「おやおや~? お二人さん、こんなところでなにしてんの?」
「ここはシャバの連中が来るところじゃないよ~」
ほーら、見たことか……。
いつかは来ると思っていたけど、いかにも三下くさいチャラ男がイキったような三人組が私達の行く手を阻むように絡んでくる。
こういう輩は無視をするか、無視をするか、無視をするに限るのだが、こともあろうかベリー村長はそのうちの一人に話しかけた。
「あの、すいません。この近くにある“銀の鍵”というお店は開店していますか?」
「はぁ? 銀の鍵だぁ? あそこはテメェみたいなガキの行くとこじゃないだろ」
銀の鍵かぁ……いかにも異世界のお店っていう感じのネーミングだなぁ〜。
こーんな物騒な街になかったら行ってみたいと思うんだけねぇ。
「ちょっとそこに用向きがあるです。お店は開いていますか?」
「はぁ? 知ってたって教えるわけねぇだろうがよぉ〜。ケケケケッ!」
「知らないんですね、分かりました」
「知らねぇわけねぇだろ!? ナメてんのか、テメェはッ!!」
チャラ男の一匹がベリー村長に向かって安っぽい激昂をする。
煽り耐性が皆無……三下のテンプレみたいな人だな。
で、他の二人はというと、ニヤニヤしながらこちらを見ている――こりゃ、またテンプレだ。
「知ってるなら教えてくださいよ。面倒な人達ですね」
「あぁ? ぶち殺すぞ、テメェ!!」
煽り耐性が皆無なのだろう、もはや会話が成立しないほどチャラ男は怒り心頭のようだ。
他の二人もキレるチャラ男を見て楽しんでいるのか、ベリー村長の態度にムカついているのか、ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべている。
対して、ベリー村長は七面倒臭さそうな顔をして、ため息を吐く。
というか、「殺す! 殺す!」言ってる人って大抵、返り討ちにされるんだよねぇ。
あと、私はベリー村長の彼女じゃねーから、そこんとこよろしく。
「はぁ……分かりました。では、力づくで聞くとしましょう。荒っぽいのは苦手なんですけどね」
「あぁ!? やんのかテメェ!!」
「乃香村長、すぐに終わりますので見たくなかったら目を瞑っていてください――」
「よそ見してんじゃねーぞ……おらああああああッ!!」
おにいさんが奇声と怒声の中間のような声を張り上げながらベリー村長に向かって殴りかかる。
わっ!? とうとう始めちゃったよ……! と私が、思ったその瞬間だった――。
ベリー村長の姿が一瞬にして消えると次の瞬間、チャラ男の背後に亡霊のように現れる。
「――へぇ?」
男の間抜けな声が漏れる。
それはまるで、アニメでも観ているような光景だった。
男の背後を取ったベリー村長はとても静かに、しかし恐ろしくドスの効いた声で問いかける。
「“はい”で“いいえ”答えろ。銀の鍵は開いていますか?」
「……ぐっ!」
ベリー村長が質問をした直後に男の顔が苦痛に歪む。
明らかに彼はチャラ男の背後で何かをしている。
それに、この尋常じゃない程の圧力というか、迫力……この人はいったい――?
「もう一度、聞きます。銀の鍵は開いていますか?」
「……は、い…………」
「ご協力感謝します。ありがとうございました」
ベリー村長は淡々とした口調で感謝を述べるとチャラ男の背後からサッと離れる。
彼の拘束から解放されたチャラ男はその場で膝を崩し、すかさず仲間の二匹に介抱される。
男の顔は青ざめており、身体は小刻みに震えている。
それでも、負け犬の遠吠えといわんばかりに必死にこちらを睨みつけている。
「そ、村長……」
「あぁ、乃香村長。怪我はありませんでしたか?」
「いえ、私はなんとも……ですけど、この人は大丈夫なんですか?」
「大丈夫です。ちょっと抓っただけですよ」
ベリー村長は親指と人差し指で摘むような動作をしながら、いつもの調子に戻りヘラヘラと笑う。
いや、違うよね? 絶対、抓ってないよね!? 完全にドスを突きつけていた感じだったよ!?
その笑顔には、さっきの圧力や迫力はまるで嘘のように消えていた。
が、しかし、その笑顔が逆に怖い!
「そういえば、銀の鍵って……」
「えぇ、師匠の潜伏している飲み屋さんです。空いてるということは“いる”というでしょう。行きましょう」
いよいよ、ベリー村長の師匠さんとご対面か……緊張から私が固唾を飲んだその時だった――――
「――よぉ、遅すぎたから迎えに来たぞ。ベルリオーズ」
私達のはるか上のほう、建物の屋根からよく通る女性の声が響く。
――誰ッ!? 私がその声に反射して上を見ようとする前に声の主は地上に落ちてきた――いや、降りてきた、という表現の方が適当だ。
その人は音もなく、わずかな土埃と風だけを残して地に足を着けた。
ベリー村長のと似たような漆黒の外套に全身を包み込み、ウェーブのかかった短い髪は白と黒のまだら模様。
しかし、何より私の目を引くのが目隠しのように顔に巻き付けられた真っ黒な布。
外套と同じ漆黒の布、しかしそれは明らかに外套の物とは素材が違う。
光を反射しない、それどころか飲み込んでいるようにすら見えるほど深い黒――いや、実際は『闇』そのものといったほうがしっくりくる。
「お久しぶりです。師匠。相変わらず不気味ですね」
「それが、久しぶりに師匠にあった奴が口にする言葉かよ。まったく、クソ生意気な弟子だ」
ベリー村長に師匠と呼ばれた女性は狂気的な薄ら笑いを浮かべる。
目元が見えないので気持ち悪さと怖さが倍増している。
瞬間、私の本能が大声で警告を発する――
――――この人は『危険』だ、と…………。
〜乃香の一言レポート〜
空から降ってきたベリー村長の師匠さんを見て一瞬、ニーアオ○トマタの『2B』に似てるなぁ〜って、思ったんです。
あの娘、パンチラ多すぎて最初は「WoW!」ってなっちゃうですけど、終盤まで行くと慣れちゃうんですよね〜。
あ、そういえば今作品は何回かパンツ覗くとトロフィーもらえますよね〜。
え? パンチラ目的でトロフィーとか変態じゃん? いやいや、別に……トロコンの為にやっただけですから!? パンツ目的じゃないですから!? というか、私、女の子ですからぁ!? (※)同性をそういう目で見るわけないじゃないですか〜……。
※本作の『プロローグ②』後書き参照。
次回の更新は4月24日(火)です! どうぞお楽しみに!!




