第十六話 新しい友達! 細田さん!!
スクフェス五周年、おめでとうございます!!
*
日本人が慎み深く、感情を表に出さない国民性である、とよく言われる。
しかし、国民性=日本人の性格というわけじゃない。
全体的にそういう性格が多いというだけで、中にはオープンな性格を持つ人やド外道だっている。
つまり、群衆の中には必ずしもその性質と合致しない少数のイレギュラーがいるということである。
それは、亜人種であるゴブリンも然り――。
「――今日からアンタを“姐御”と呼ばしてくれッ!! いや、呼ばしてくだせェ!!!」
「…………はい?」
「お前――ッ!? 自分が何を言っているのか分かっているのか!?」
――ということで、私はゴブリンの舎弟を持つ“姐御”になっちゃいました。
これには私だけでなく同族のBすらも驚愕の色を顔に浮かべていた。
しかし、Aはいたって真剣そのもので、両手を太腿の上に置いて首を垂れて懇願している。
いやいや、待ってほしい……私は別に彼らを子分にしたくてBの命を助けたんじゃない。
単に『友達』になりたかっただけだ。それに、“村長”として器すら怪しい私に“姐御”なんて大層なもの務まるわけがない……。
「ねぇ、ゴブリンさん。そんな“姐御”なんて大袈裟なものじゃなくて、お友達じゃダメなの?」
「いえ、姐御の朋輩なんて今の自分には務まりやせんッ! 自分は姐御の舎弟になりたいんです!!」
「ほ、朋輩!? ずいぶん難しい言葉を知ってるんだね……。まぁ、それはいいや。でも、なんで舎弟なの? こう言っちゃ悪いけど、私“姐御”なんて器じゃないよ」
「なに言ってるんですか! 姐御は命を狙ったオレの仲間を助けてくださった恩人ってだけじゃなく、ニンゲンと俺達、種族の見境なく手を取り合おうとするその姿勢――そんな器のデカいお方を“姐御”と呼ばずしてなんと呼びやしょうかッ!!」
………………――。
なんというか、妄信的なまでにAの中で私の株が急上昇していた。
これは、あれだね、もう何言っても効かないやつだ……。
私はAのあまりにもキラキラした瞳に諦めのため息を吐いた。
Bも呆れるあまり蟀谷を抑えて俯いている。
いるよねー、こういう無茶苦茶なキャラに振り回されて頭痛めてるインテリ系のキャラ……。
「あ、あははは――はぁ…………」
「なんというか……すまない。こいつは義理に固く、情を重んじる性格なのだ。まさか、ニンゲンの舎弟になりたい言い出すとは…………」
「まぁ、私は全然いいよ。なんか面白そうな子じゃん」
「面白そう……か。確かに、貴女のようにそう言ってくれる寛大な方ならいいかも知れんが、少なからず我々に敵意や害意を持っている人間はいる。まったく、あいつ一人では命を落としかねん。――――すまないが、名前をまだ聞いていなかったな、貴女は何という名前なのだ?」
突然、Bから名前を尋ねれれて驚いた私はすぐに応えることができなかった。
そういえば、名乗ってなかったけど、なぜこのタイミングで……?
まるで、Bの意図が分からない私はとりあえず名前を教えることにした。
「私は愛知 乃香よ。改めてよろしくね、ゴブリンさん」
「なるほど、ノカ……か。わかった、これからもよろしく頼む」
「えっ……ッ!? それって、どういう――?」
「私も貴女の舎弟になる、ということだ。奴一人では貴女も苦労するだろう」
あぁ、なるほど、いわゆるお節介系ツンデレってやつだね。
なんだかんだ言いながら、Aのことが心配なのだろう。
どっかのおじいちゃんそっくりだ♪
「そうね、こうなったら一人も二人も同じことね。よろしくね」
「ふむ……それはいいのだが、ノカ、早速だが貴女に一つ頼みたいことがあるのだ」
「おいッ! お前、いきなり姐御に頼み事とか図々しいにも程があるぞッ!!」
「まぁまぁ、別にいいよ。それで、私にできる範囲ならなんなりと――」
いきなり頼み事かぁ……なんだろう? 金品はなにも持っていないから差し出せるものなんかないんだけどな……。
ハッ! まさか、私の身体が目当て――ってそれはナイナイ!
「私達の『呼称』についてなのだが――」
「あ、本当に違った……」
「? なにが違うのだ?」
「いえ、続けてください……」
期待は最初からしていなかったとはいえ、外れたら外れたでなんかショックだなぁ。
まぁ、いいや。
で、Bは自身の呼称について頼みごとをしてきたが、『ゴブリン』ということになにか問題でもあっただろうか?
「私達の種族はニンゲン達が勝手に付けた『ゴブリン』という呼称を嫌うのだ。そこで何か私達に新たな呼称をつけてもらいたい。それが、舎弟として貴女への頼み事だ」
「おお! そりゃ、確かに! まぁ、オレは姐御に『ゴブリン』って呼ばれのは我慢できるが、他のニンゲンに言われるのはなぁ~。だから、姐御! オレからもお願いしやす!」
「そっか……確かに、その名前は人間が勝手に付けたものだもんね。そうだな~、なにがいいかなぁ――――」
さて、困ったぞぉ……私のネーミングセンスはお世辞にも良いとは思えない。
なんなら、ゴーレムにつけた『岩田さん』って名前も今、考えるとどうかと思う。
まぁ、でも岩田さん系列で考えるなら――鬼田さん……は、なんか違うんだよね~。
だって、角生えてないし、鬼要素があんまりないし……ってなると、他に特徴は――腕が細いとか……。
「じゃあ、“細田さん”ってのはどう?」
「ホソダサン? それはどういう意味があるのだ?」
「意味、意味ねぇ~」
そ、そんなこと言われたって、理由なんて「腕が細いから」なんだから、ほぼ無いも同然なんですけど……。
「ま、まぁ、意味なんて求めているうちはまだまだよ! 私はあなた達にその意味を考えさせる為にその名を与えたの!」
「……は?」
「さっすが、姐御! オレたちの成長を考えてあえて真意を言わないとはッ!」
「ふっふっふっ……そういうことよ♪」
「…………。まぁ、そういうことにしておこう」
よかった! Aが素直な子でよかったッ! Bはなんとなく疑いの目を向けたけど、Aの純情さに負けて納得してくれたから良しとしよう!
噓も方便、時には多少無理のある嘘も強引に事を進めることも重要なのです! そんなね、いちいち真実や理由なんて追及してたら“村長”だの“姐御”だのやってらんねーですよ。
「じゃあ、Cも起こしてくれる?」
「Cとは誰のことだ?」
「あなた達を“細田さん”って呼ぶのはいいけど、全員が全員“細田さん”じゃ、見分けがつかないでしょ? だから、舎弟一号の君を細田さんA、二号の君をB、そこで寝ている子をCって呼び分けることにしたの」「なるほど! さすが姐御!!」
「了解した」
Bは短く頷くと、未だに道端で気を失っているCの身体を揺らす。
しかし、あれだけ騒いでいたのによく目を覚まさなかったな……。
「おい、起きろ、C。いつまで気を失っている」
「Zzz……」
「こいつ、寝てやがる……」
「なんて無神経な奴なのだ……」
「Zzz……う~ん、パクチー……」
なんでパクチー? 好物なのかな……? 私は大嫌いだけど。
しかし、この状況で寝言を言えるほど熟睡できるとは――実はCが三匹の中で一番の大物なのかもね。
その後、いくら揺らしてもCが起きないことに腹を立てたBが彼の耳に魔法で生成した水を入れるという地味に残酷な『寝耳に水』作戦を行って、Cがようやく目を覚ました。
普通ならキレてもおかしくないBの所業にもまったく怒ることもなく、AとBが私の舎弟になったことにたいしても「へぇ~、いいんじゃない。俺もなりたーい」と動揺の『ど』の字もなく、あっさりと承諾。
そして、Cは私の三番目の舎弟になった。私が予想する中で一番の大物ゴブリンである。
「で、姐御。一つお聞きしたんですが、姐御はオレたちの問題をどう解決するんで?」
「いやぁ……実は、方法についてはまだなんとも」
「まぁ、そんなことだろうとは思ったが」
「お恥ずかしい……。あ、でも、とりあえず会ってもらいたい人がいるんだ」
その人物とは他でもないベリー村長のことである。
他力本願と思うが、ぶっちゃけ村長ならなんとかしてくれるんじゃなかって思っているんだ。
「その人物とは?」
「私の先輩にあたる人で“ベリー”って名前の人。元々、この森の近くの村の村長をしてるんだけど」
「さて、記憶にないな」
「俺たちゃあ、ニンゲン共のことなんか毛ほども興味ねぇしな……」
毛ほどもねぇ……そういうものだろうか? 私なんかあなた達に興味アリアリなのに。
「で、今から我々はその人間に会うのか?」
「あ、いや、今日はダメなの。今日は私と村長、用事あるから」
「ほう、生殖か」
「は?」
「なんだ? 生殖ではないのか?」
「いや! 違うし!? なんでそうなるのよ! この変態ゴブリンがッ!!」
「雄と雌が出会ってすることなど一つだろ。だが、生殖ではないのか……なんだ、つまらん」
Bは本当につまらなさそうに冷めた口調で私を見る。
つまらなくて悪かったわね! ていうか、悪いのは私なの!?
「違うから、今日は村長と街に行くから会うことができないって話よ」
「なんだ、デートならデートと言えばいいだろう。面倒なことをする。まったく、どうしてニンゲンというのは“性”に対して遠回しな表現をするのだ? 意味が分からん」
「おい、その“でーと”ってなんだ?」
「デートとはな、ニンゲンの雄と雌がつがいで街を練り歩く行為だ。どうもそれをしないとニンゲンは生殖ができないらしい」
「はぁ~、ニンゲンってのはつくづく面倒な種族だな」
Aが訳が分からないと肩を竦めながらぼやく。
っていうか、デートでもないから! というか、ゴブリンのお前らがデートを語るなッ!!
私は知らず知らずのうちに早口になっていた。
「面倒な種族ってのは認めるけど、デートについての知識は色々間違ってますから! ていうか、デートじゃねーし!? ただのビジネス! そう! これはビジネス!! 二つの村の村長が協力するためのビジネスですからぁッ!!」
「――と、まぁ、このように慌てながら言い訳をする。こういう場合、十中八九デートと思って間違いはない」
「はぁ~、なるほど。お前、よく勉強してるな~」
「常識だ」
「――違ーーーーーーうッ!!!」
未だかつてこれほどまでに人(?)に振り回されたことはない。
なんだこれは? どうして私はこんなに慌てているんだろう……?
〜乃香の一言レポート〜
この前、おじいちゃん達と一緒にゲートボールをする岩田さん(イヴ)を目撃しました。
どういう成り行きでそうなったのかは分かりませんが、げんき村の人達も岩田さんも順応力が高すぎます。
次回の更新は4月17日(火)です。
次回もお楽しみに!!




