第十二話 開通! フォガラ大地下水道!!
定期更新一発目! 頑張ります!
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対岸に移った私達は、欠損個所やその他の不備が無いか確認するために、トンネル内を行ける範囲まで徒歩で移動することになった。
ゴーレムもとい、岩田さんの仕事にはほとんどミスがないとはいえ、万が一の可能性を見込んで確認行為というのは必須らしい。
どんなに精密で精巧な仕事をする機械だって、やはり最後の確認は人の目でする、という点はこの世界と私達がいた世界とで同じらしい。
フォガラ大地下水道のげんき村方面のトンネル内部にはまだ、照明用の魔法石が埋め込まれていないため光源は私達が持っていくことになるのだが…………。
「今のところ、目立った欠損は見当たりませんね。トンネルの幅も均一で非常に良い仕事です」
「……あの、ベリー村長、一つよろしいでしょうか?」
「はい、なんでしょう? 乃香村長?」
「あの、その魔法、恥ずかしくないんですか?」
手に持っていける光源といえば、まず懐中電灯、あるいはこの世界の雰囲気から考えて松明、または発行する魔法石を用いると、そう思っていた。
しかし、ベリー村長がとった手段はそんな私の想像をはるかに超えていた。
「恥ずかしい? いえ、別に恥ずかしがるようなことなんてこれっぽちもありませんよ」
――ぴかーーーーーーーッ!!
そう、ベリー村長がとった手段は自らが『光源』になることだった。
今の村長の笑顔は輝いている! そう、比喩ではなくマジで!!
村長は松明も持たず、さも当たり前のように魔法を使って自らを光らせたのだ。
この世界では暗闇にて人間は自らが光るものになる(ビシッ)!!、という圧倒的カルチャーショックに私は言葉を唖然としていた。
「そ、そうですか……は、ハハハハハ。すいません、野暮なこと聞いちゃって」
「お気になさらないでください。文化の違いから戸惑いや混乱が生まれることは当たり前のことです、しかし、それらを経験しなくては相互理解など不可能です。ですので、乃香村長には僕らの文化に触れてどんどん驚いてください」
そう言って、眩しい(物理)笑顔を私に向けるシャイニング村長カルルス=ベリー。
もはや、どこをどうツッコめばいいのか分からない輝ける難攻不落の天然ボケ要塞に私はどうしようもなくなり、黙って彼についていくしかなかった。
「――あっ、道が……」
「どうやら、ここまでのようですね」
しばらく、発光するベリー村長、私、岩田さんズの順番で水路に不備がないかトンネル内を隈なく見ていきながら先に進むと、道の終わりに辿り着いた。
ここまで、曲がりくねったりしたので、なんだかんだ一キロ近く歩いただろう。
それだけの距離をたった半日足らずで掘り進める岩田さん達の力……改めて、この世界の凄さを体感した。
「それでも、まだ続いてるなんて……本当にすごいです!」
「この先は、そちらの村の地下貯水槽に繋がっています。どうやら、問題なさそうですね。目立った欠損もなく、水も問題なく流れています」
この先は、貯水槽と呼ばれる場所。
げんき村が元の世界にあった時は、地下水脈からの水を一時保存する場所だったらしい。
実際、ここがどれだけの広さの貯水槽なのか気になるけど、いくら村長が光っているとはいえ先までは見えないか――と、貯水槽に向かって目を凝らしたその瞬間だった。
「み……える――えっ、なに……、これ…………?」
「乃香村長?」
光が届かない暗闇に飲み込まれているはずの貯水槽の映像が脳に投影される。
無機質なコンクリートに何やらよく分からない数字が記された壁がずーっと連なっている。
そこに大量の水が流れ込んで…………。
「なに、これ!? あ、あぁあ――ぁあああああ!!」
「乃香村長ッ! しっかり! 落ち着いてくださいッ!! ―――ッ! ―――――ッ!!」
ベリー村長が私の肩を揺らしながら何か言ってるがよく聞こえない。
映像はどんどん続いていく――水路を抜けて、森に出て、見知らぬ街の映像が――――空が、人が、海が、森が、映像が濁流のように脳裏に流れ込んでくる。
どれもこれも眼球で見えるはずのものではないのに、これは“本物”だという根拠のない確証だけが胸に残る。
「あ、あぁ…………ぁあ、みえ、る? みえ……る」
「――ッ! ―――――ッ!!」
映像が空の果て、よく分からない光の中に入ったところで突然、脳裏の映像も視界も真っ暗になる。
まるで、情報を一気に詰め込みすぎて強制シャットダウンしてしまったパソコンのように私の意識はブツリッ! と嫌な音を立てて事切れてしまった。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
穏やかな風が頬を撫で、私の意識はゆっくりと戻っていった。
今、どこにいてどういう状況なのかはまるで分からないが、私はどうやら寝ているようである。
「――ちょう。乃香村長。起きてください」
「……んっ、あっ………、あれ? ここは……?」
「地上です。やっと目が覚めましたね」
「わたし、どうして、ここに?」
記憶がひどく曖昧だ。
覚えている最後の光景は、地下貯水槽をこの目で見ようと目を凝らした瞬間までは覚えている。
が、しかし、その後のことはまるでノイズが走ったように思い出せない。
いろんな景色を見ていたのは、なんとなく思い出せんるんだけど……。
「おそらく、乃香村長に宿った“千里眼”が偶然、発動してしまったのでしょう」
「せんりがん?」
呂律が上手く回らない。
口足らずな口調で私はベリー村長の言葉を復唱する。
千里眼……あぁ、たしか、私が宿してるっていう救世主の証だっけ?
「フォガラ大地下水道内は魔法石が多量に埋め込まれている為に大気中の魔力濃度が高いんです。乃香村長の千里眼はその高い魔力濃度に反応して覚醒したのでしょう」
「たくさんの景色がブワーッ! って頭の中に入ってきてパンクしそうになったところで意識が途切れました……」
「なるほど。千里眼は『三天眼の巫女』の系譜の力と言われ、過去、現在、未来のどれかの事象を自由に見ることができるといわれています。おそらく、乃香村長には“現在”を見渡す能力があったのでしょう」
「……現在を見渡す能力、ですか?」
その『サンテンガンの巫女』とやらのことはよくわからないが、どうやら私には今起こっているあらゆる事象を見ることができるらしい。
ただ、全部を見ようとするとさっきみたいにパンクしてしまうのか……。
確かに、なかなかのチート能力だが、こりゃ使いこなすのに時間がかかるぞ。
「えぇ、それについては追々、説明をしていきましょう。乃香村長に千里眼があるというならそれをコントロールするための訓練だって必要です。ですが、今はやるべきことがあります」
「…………」
私は黙って頷く。
フォガラ大地下水道の開通により、げんき村における早急に解決すべき大きな課題は達成した。
となれば、次は……、
「これで、そちらの村の課題は一段落しましたね。おつかれさまでした」
「はい! ありがとうございました。これも、ベリー村長をはじめ、多くの人達の協力があってこそです」
「では、いよいよ……」
「はい、いよいよ……」
さ~て、いよいよ……私達、転移組の出番ですかッ!!
カルルス村の最重要課題であり、私達をこの世界に呼び寄せる原因となったもの……。
そう、あの『死の呪い』に汚染された畑の土壌を浄化することである。
「確か、ベリリとかいう女神でしたよね? カルルス村の畑をメチャメチャにしたのは」
「えぇ、困ったものです。僕がカルルス村の村長になってから、毎年毎年、『いたずら』を仕掛けてくるのですが今回は例年のモノとは比べ物にならないほど悪質です」
「なんて迷惑な女神だ! 村長! カルルス=げんき村の目標の一つに『打倒! ベリリ』も追加しておきましょう!! 最優先事項でッ!!」
「それが出来れば良いのですが、なにせ女神ベリリはこの世界の“生”と“死”を司る冥界における最高神ですからね。彼女の機嫌を損ねた人間は問答無用で殺されてしまいます。ですから、この世界の人間は誰もベリリに逆らえないのです」
なるほどぉ……いわゆる個々人が持つチート能力とはまた違う、神の属性から持つ『権能』ってやつかぁ~。
でもつまり、その能力って受け手に『信仰』が無ければ発動しないんじゃないかな? つまり、私達みたいな『“ベリリ”ぃ? なにそれおいしいの(ホジホジ)??』っていう私達なら信仰もクソもないからその力を無効化できる……。
勝じいや勲おじいちゃんが呪いに汚染された土を元に戻せたこともそう考えれば辻褄が合う。
その理屈でいけば、私達ならその駄女神をひっぱたけるかもね♪
……でも、信仰はないはずなんだけど“ベリリ”っていう名前……どっかで聞いたことがあるんだよなぁ~。
なんだったかなぁ~? ――ま、いっか! また今度、調べれば!!
「でも、大丈夫ですよ! 女神の呪いだかなんだか知りませんけど、私達がピピっと解決してやりますよ」
「本当にその言葉は心強いです。僕達では土に触れることすらできませんから」
「任せてくださいよ! で、今後の流れですが……」
「はい、今回は土壌の浄化の作業なのですが、同時並行で乃香村長の村に魔獣除けの柵を設置したいと思います」
魔獣除けの柵……? あぁ、そうか、そういえばこの村は『魔の森』を抉る形で転移したんだったよね。
あまりにも、平和だったものだからすっかり忘れていたわ……。
「魔獣除けの柵……確かにうちの村はお年寄りが多い――というかお年寄りだらけですからね。魔獣なんて村に来たらみんな揃っておやつにされちゃいますしね。しかし、同時並行ですか?」
「えぇ、カルルス村の浄化作業、げんき村での柵設置。この二つを同時に行います」
「そうなると……監視体制が問題になってきますね。結局、私達はどちらかしか視てられないし……」
「乃香村長。カルルス=げんき村には村長が二人いるんですよ?」
ベリー村長がなにやら含みのある笑顔でこちらを見つめる。
っていうか、なにを当たり前のことを言ってるんだろう? そりゃ、もともと二つの村が合併してできた村なんだから代表が二人いるのは至極当然のことだろう。
…………えっ? ちょっと、待って!? まさか――
「えっと、もしかして……」
「そうですよ。今回は僕と乃香村長、分かれて作業を行おうと思います」
「えっ? え、ええええええ!?」
「僕達では横足手まといになりかねませんですからね。ここは、各々ができることをやるのが一番かと」
確かに、ベリー村長の言うことは正しい。
ベリー村長をはじめとするカルルス村の人達は『死の呪い』に汚染された土に触ることはできない。
そう考えれば、分担という作業形態は実に合理的で効率が良い。
しかし、それは私が村長として十全に機能していることが大前提である。
「でも、私……まだ一人でできる自信が――」
「大丈夫ですよ。誰でも初めてやることには緊張するものです。ですが、いつかやらなくてはならない――それがちょっと早くなっただけのことです」
「でも、それでミスしたら……」
「失敗することを考えてばかりでは、本当に失敗を招きますよ? それに、臆病風に吹かれて“やれたこと”をやらないのはこの世で最も恥ずべき失敗です。ドンと構えなさい、愛知 乃香」
こういう時のベリー村長は本当にずるい……いつもは、一歩引いた感じなのにここぞっていう時に限って二歩も三歩も前に出てくる。
そのまっすぐな言葉と姿勢に私は思わず、首を縦に振ってしまった。
「……わかりました。全力を尽くしてみます。でも――ッん!?」
頷いてしまったことに少しばかり後悔した私は先の発言を言い訳で取り繕い、失敗してしまった時の保険をかけようとしたその時、私の唇に村長の指が立てられる。
「――“でも”は、禁止ですよ。大丈夫、貴女は独りじゃない」
「もう、本当……ずるいですよ、村長は――」
「ここぞって時は誰にも負けたくないし、妥協もしたくないんですよ。もちろん、自分にもね」
「――――あ~ぁ、負けちゃった! で、村長、私は何をすればいいですか?」
「そうですね。いきなり、作業開始というわけにも行きません。まずは、準備です」
「準備ですか?」
「えぇ、乃香村長。一緒に街に行きましょう。そこに貴女に会ってもらいたい人がいるんです」
私に会ってもらいたい人? 誰だろう? 知り合い? いや、この世界には知り合いなんかいないし……。
「その人とは?」
「僕の師匠で、柵作りの為に必要な人なんです」
ベリー村長の師匠……。
それは、少し気になるかも。
〜乃香の一言レポート〜
“千里眼”は別名、天眼とも言われる仏教用語です。
つまり、三天眼の巫女=三千里眼の巫女というわけです。
三千里は11781.819キロメートルになりますから、そこまでお母さんを探しに行ったマ○コ君はスゴイ! ということになりますね。
次回の更新は4月5日(木)です。
どうぞお楽しみに!!




