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私達、異世界の村と合併します!!  作者: NaTa音
第0章 チュートリアル編
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第十話 おじゃまします! ベリー村長宅

これまでの話の中で一番スローライフらしいかもです。


 ベリー村長の家はカルルス村の中央にあり、外観は他の家に比べても大差はなく、少しばかり大きいというくらいだ。

 村長だからといって豪華な家に住んでいるというわけではないらしい。


「どうぞ、こちらへ……」

「は、はい」


 私はベリー村長に促されるままに家に通された。

 やはり、日本とは違い靴は脱がずに家の中に上がり、そのまま居間に通される。


「おじゃましまーす……」

「はい、どうぞ」


 さてさて、異世界の一人暮らしの男性宅の内装はどうなっているか――、


「なんか……普通ですね」

「そ、そうですか……この村のどこの家もこんな感じだと思いますよ」


 なんというか、私が期待していたのと違う……。

 ベリー村長の家は、良くも悪くも『普通の家』。

 簡素な作りのテーブルと椅子、窓際にはよくわからない草が液体の中に浮いているガラス瓶が陳列され、調理場も薪を使用するタイプのもの。


 実にオーソドックスな異世界の家といった感じである。


「す、すいません! 別に村長の家が悪いって言ってるわけじゃなくて、なんか、こう……あぁ、異世界にきてしまったんだなぁ~ってしみじみ思っちゃうような内装だったんです!」

「えっと、まぁ……とにかく乃香村長の言いたいことは分かりました。では、そちらの椅子に掛けて待てってください。すぐにできますので」

「――あっ、私もなにか手伝いますよ!」

「いえいえ、大丈夫ですよ」

「で、でも……」


 私が渋ると、ベリー村長がニコッと笑って、


「やらせてください。僕も久しぶりに誰かに料理を振舞うんです。いやー、腕が鳴りますよ!」


 服の袖を捲くりながら、調理場に向かうベリー村長はいつになく楽しそうで、どこか子どものような無邪気さがあった。

 いや、今までの歳のわりに、やけに達観した態度に比べたら歳相応なものであり、きっと、これが一人の人間としてカルルス=ベリーの姿なのだろう。



 だとしたら、そこに水を差すのは野暮ってもんだし、ここはベリー村長のお手並み拝見といきますか!



「じゃあ、お言葉に甘えて……おいしいのをお願いしますよ、ベリー村長!」

「えぇ、お任せください!」


 そして、村長は意気揚々と一旦、調理場をあとにする。

 たぶん、食材を取りに行ったんだろう。


 さて……この時間をどう潰そうか。

 私はめぼしい物がないか、椅子に座りながら目だけで物色をはじめる。

 ぐるっと部屋を見渡していると、ふと――隣の部屋に続いている扉が軽く開け放たれているのが目にとまる。

 あれ? さっき、あそこ開いてたっけ? 風かなにかで開いちゃったのかな……。



 そう思った、次の瞬間だった――



「――――えっ? だれ……?」


 ……目が合った。

 なにも見えない扉の隙間から、誰かが覗いていたような視線を感じる。

 まるで、こっちに来い……そう言っているかのように…………。


「…………」


 気がついたら、私は椅子から立ち上がり、ドアノブに手を掛けていた。

 不思議と恐怖はない、こんなに不気味なのに。

 扉を開けると、そこは寝室だった。

 居間よりも小さな部屋にベッドとクローゼット、そしてその隣に飾られている『鎧』――。

 

 鎧といっても、実際は毛皮と鎧の中間くらいのもので、ところどころに魔獣を彷彿させるような恐ろしい意匠が組み込まれている黒く禍々しい鎧だ。

 私はひと目で先の視線はこの鎧からきていると分かった。

 ……なんとなく、分かる。この鎧は生きている(・・・・・)


 自然と鎧に手が伸びていく、すると、鎧もまるで私を受け入れるかのように、その口を開く――



「…………はなしなさい。彼女(それ)はあなたのモノじゃない」



 一瞬、ベリー村長と分からないほど、低くどすの効いた声が私の動きを止めた。

 次の瞬間、私は糸が切れた操り人形のようにその場にへたり込んでしまう。

 

 顔を上げると、村長が私の肩に手を置いて立っていた。


「……村長?」

「やはり、魅入られましたか……。まったく、油断も隙もあったものではありません。乃香村長、気をつけてください。アレは人を喰いますよ」

「えっ?」


 ふと、私が見ると鎧は胴体部分がぱっくりと縦に割れて、無数の赤黒い牙のような棘が生えた内側を怪物の口のように広げていた。

 やっぱり、あの鎧は生きているんだ……。


「村長、あれは?」

「危険だからとうちに預けられた人喰いの鎧です。あれを着込めば最期、骨も残りませんよ」

「…………」


 ――こわッ!? なんでそんなものを寝室において置くんですか!! 

 危うく食べられるところだったじゃない! まぁ、魅入られた私が悪いんだけど……。

 

 とにかく、これでベリー村長の寝室がデンジャラスゾーンということがよーーく分かった。

 これからは、近づかないでおこう。


「さぁさ、席に戻ってください。こんなところにいると、あれに食い殺されますよ」

「さらっと笑顔で怖いこと言わないでください」

「なに、近づかなければ大丈夫ですよ」


 ベリー村長がからかうように笑いながら寝室を後にする。

 その笑顔はいつものようなどこか堅苦しいものではなく、本当に心から笑っていて楽しそうだった。


 まぁ、考えてみれば、村の存亡の危機だったんだ、ヘラヘラ笑ってるわけにもいかないか……。


 ――でも、今日こうして彼がありのままの笑顔を見せてくれた。

 えへへ、少しは救世主としての役割を全うできたのかな? 


「ちょっと、待ってくださいよ~!」


 私はベリー村長を追って、居間に戻った。

 居間に戻ると、何かを香ばしく焼いているような良い匂いが充満していた。

 見ると、ベリー村長がフライパンでもってベーコンを焼いていた。


「やっぱり、手作りベーコンの香りは格別だわ~」


 以前、げんき村で手作りベーコンをごちそうしてもらったことがある。

 その味と香りときたら、市販のベーコンが遊んでいるのではないか? と思えるほどだった。

 市販のベーコンでは出せない、手作りベーコンならではの食欲をそそる匂いが私の鼻腔をくすぐる。


「乃香村長、もう少し待っていてください。すぐできますので」

「村長、これは、桜の木ですか?」

「おや? よく分かりましたね。そうですよ。やはり、オークの肉には桜の木がよく合います」

「オークッ!? それってオークの肉なんですか!?」


 オークって、あのオークだよね……。

 亜人種で、顔が猪みたいな魔獣のことだよね? 


「あ、乃香村長はオークの肉を食べたことはないのですね?」

「えぇ……まぁ、私達のいた世界ではベーコンといったら『豚』でしたから」

「豚のベーコンもありますよ。ただ、あれらは高級品で貴族くらいしか食べませんよ。それに比べて、オークは安価、というか実質タダなので僕たちの村では貴重なたんぱく源なんですよ」

「タダですか……?」

「えぇ、オークは村の畑を荒らす害獣なんですよ。なので、この村では畑を荒らしに来たオークはソーセージやベーコンにして無駄なく使っています」


 さすがは異世界、害獣被害までファンタジーだ。

 

「しかし、害獣といえど、命は命。奪ったからには最大限使ってあげる――それが、僕達の村の掟なんです」

「……それは、いいですね。私達も見習うべきだと思います!」

「――さ、できましたよ! オークのベーコンサンドイッチです。乃香村長の世界から伝来した料理(もの)なので、食べやすいと思いますよ」

「あ、ありがとうございます」


 村長が白い陶器の皿に乗せてきたのは、カリカリに焼かれたベーコンに鮮やかな緑色のコントラストが食欲をそそるサンドイッチだった。

 しかし、野菜が全滅して食糧危機のはずのカルルス村にどうして野菜を朝食に出せる余裕があるのだろう? しかも、あれは干し野菜なんかじゃない。

 生の野菜を加熱調理したものだ。


「村長、その野菜は?」

「あぁ、これは、昨日、勝じいさんの奥さんから頂いたものです。“ナノハナ”というものらしいです」

「和子おばあちゃん、か……相変わらず、お世話を焼くのが好きだなぁ~」

「僕達の村の食材と乃香村長の村で採れた野菜で作った初めての合作です。なので、どうしても乃香村長に食べてもらいたくて」


 なるほど、それで今日、私を誘ったってわけね。

 うん、でも確かにこれは素直に嬉しい。なんだか、互いの村が支え合って一つの物を作り上げるって感じがとっても素敵♪

 

「さぁ、コーヒーもあります。どうぞ、召し上がってください」

「いただきます。村長」

「では、僕も……いただきます」


 私は両手を合わせて、サンドイッチを頬張る。

 ベリー村長も私の真似をしてから、サンドイッチを口に入れる。

 オークの肉は懸念していたような臭さはなく、むしろ、豚肉よりも上品な油と噛み応えのある肉質で、正直あっちの世界の豚肉よりも美味しい。

 その油と旨味を吸い込んだ菜の花は風味を一層強くして舌を楽しませる。

 そして、全体を見事に調和してくれるのは全粒粉パンのような香ばしいカルルス村製のパン――。


「おいしい……。村長、これ、おいしいです!」

「えぇ! これは美味しい。まさか、ここまで美味しくなるなんて思ってもみませんでした」

「私達の村、村長の村と相性がいいみたいですね」

「はい、あなた達を呼んでよかった……」


 ベリー村長はしみじみとした優しい笑顔を浮かべる。

 げんき村とカルルス村――両村の食材を合わせた料理は互いが互いの良いところを引き立てれる素晴らしいものだった。

 

 その後の時間は実に楽しいものだった。

 私達は一時、『村長』という肩書を忘れて、互いの世界のことや自分の過去について談笑を交えながら語り合った。

 ベリー村長は私の話に真摯に耳を傾けてくれたし、私も村長が話す話題に引き込まれて胸を躍らせた。

 

 一体、どれくらい話し込んだのだろう? コーヒーのおかわりが尽きかけたところで、私達はようやく椅子から立ち上がった。

 

「ずいぶんと話し込んでしまいましたね」

「えぇ、久しぶりに時間を忘れて楽しくおしゃべりができました。乃香村長、ありがとうございます」

「いえいえ、こちらこそ楽しい時間をありがとうございます!」

「乃香村長はこの後、なにか予定がありますか? ……いえ、ありますよね?」

「……えっ? ――あッ!! あの子達のところに行かなくちゃ!!」


 しまった! ベリー村長とのおしゃべりに夢中ですっかり頭から抜けていた。

 不死鳥(フェニックス)のこともっと聞くんだった!!


「あの子達ならきっと村のどこかにいますよ。あ、もし畑に近づいているようなら注意してあげてくださいね」

「そうか……畑はまだ浄化してないんでしたね」

「頼みましたよ、村長」


「――――はいッ!! いってきます!」

 

 私は大きく頷くとベリー村長の家を飛び出していった。

 さーて、今日も一日がんばるぞい!


〜乃香の一言レポート〜


 ベリー村長とはこの世界の文化や気候、歴史など様々なことを話し合いました――えっ? 真面目だって……? いいじゃないですか! たまには!!


 次回の更新は4月1日(日)です。

 4月の始まり、新しいことに挑戦したいものです! 次回もお楽しみに!!

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