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私達、異世界の村と合併します!!  作者: NaTa音
第0章 チュートリアル編
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第八話 おはよう! 岩田さんと勲さん

このところ急に暑くなってきましたね。

さっき、キンキンに冷えたわらび餅を食べたところです……。


 ゴーレムの岩田さんズを起動させた翌日の早朝――私は朝霧漂う『忘れじの丘』に一人で来ていた。

 ここカルルス村近辺は、アルバス山脈からの『おろし』と呼ばれる強烈な寒風が吹くため、春先の気温が日本に比べてかなり低い。

 だから、私は薄手の春物コートの上から勝じいの半纏を羽織ってここに来ている。

 目的はもちろん、岩田さんだ。


「ふぅ……やっぱし、寒いなぁ~」


 なぜか、この丘に植えられている樹齢が六十年ぐらいはありそうな『一本松』を通り過ぎ、丘のてっぺんに登ると、朝陽に照らされた二つの大きなシルエットが見えてくる。


「……やっぱり、大っきいなぁ〜」

 

 彼らの前に立つと昨日の夜では分かりにくかったが、明るくなってから改めて見るとその迫力がありありと伝わってくる。


「――おはよう、岩田さん。やっぱり朝は少し冷えるね」


 私の声に一体のゴーレムが反応して、七つの目が点灯する。

 まるで、眠りから目を覚ましたかのような人間的仕草だ。

 対して、もう一体のほうは岩山のような身体をピクリとも動かさなかった。

 おそらく、今、目を覚ましたのは昨日、私が起動させた岩田 イヴで、微動にしないほうがベリー村長が起動させた岩田 アダムだろう。

 どうやら、起動させた本人の呼びかけのみに反応する仕組みらしい。


「少し散歩に行こっか。一緒に来てくれる?」


 今日、私がここに来たのは岩田さんと朝の散歩を兼ねた両村の見回りをするためだ。

 これは、ベリー村長に言われたことではない。

 昨日、私が自分で村長としてどうするべき、かと考えた結果の行為だ。


「…………(コクリ)」


 ――うなずいたッ!?


 顔と首が無いから全身を使ったほぼ土下座みたいな頷き方だったけど、確かに私の声に応えて頷いてくれた。

 そして、どうやら岩田さんは喋ることができないらしい。

 しかし、それはそれで可愛らしく愛着が湧きそうだ。


「じゃ、行こっか!」


 私が歩きだすと、岩田さんがはじめてその巨体を前進させた。

 力強く、一歩一歩ゆっくりと……大地を踏みしめていく。

 

「…………」


 カルルス村の狭い路地は岩田さんの身体は入りきらないので、村の中央を走る街道を二人で歩いていく。

 岩田さんは可愛いもので、私が立ち止まると一緒に立ち止まり、歩きだすと私のペースに合わせて後ろをついてくる。

 そういうふうにプログラムされているのかもしれないが、子犬のような仕草が巨体とのギャップを生み、とても愛らしい。


「岩田さん、次はげんき村のほうに行こうか」

「…………(コクリ)」


 少し遠回りになるが、街道を歩いてげんき村に入るしかない。

 まぁ、散歩なんて遠回りしてなんぼでしょ?


 街道を5分ほど歩いて、げんき村の脇道から一本道に入る。

 げんき村は民家が密集しているエリアと田んぼや畑だらけのエリアに分かれているので、田んぼエリアを散歩させておけば多少道幅が狭くても問題ない。

 

「ここが、私達の村だよ。どう? 岩田さん?」

「…………」

「ま、どうかって言われても分からないか……。でも、いいところでしょ? ここ?」

「…………(コクリ)」


 岩田さんは喋らない。いや、そもそも私の言葉に感想をもっているかどうかすら怪しい。

 この頷きだって私の声に単に反応しているだけかもしれない。

 それでも、なんとなく彼女の声が聞こえるような気がするのだ。

 これも、開花した『才能(タレント)』のおかげなのかもね。


「――ん? あれ? 向こうに誰かいる。誰だろ?」


 民家エリアのほうから誰かが歩いてくる。

 こんな朝早くに……私と同じで散歩しているかな?  


「――って、勲おじいちゃん?」

「なんだ、乃香か。その木偶はなんだ?」


 出会って早々に岩田さんの悪口とは……勲おじいちゃん、全力で通常運転のようだ。

 しかし、愛着が湧きかけている岩田さんの悪口を看過することはできない。


「木じゃないよ。岩だよ」

「違う、そこは問題じゃない。その岩の人形はなんだと聞いている」

「あぁ、これはゴーレムの“岩田さん”。昨日、村長と私で作ったんだよ。今日はこのげんき村に水を通す工事をするから」

「……そうか」


 勲おじいちゃんはぶっきらぼうにそう呟いただけだった。

 な〜んだ、残念〜。もっと驚いてくれてもよかったのに!

 というか、こんか三メートルもある動く岩人形がいたら、普通の人だったら腰を抜かしててもおかしくないのに……驚かないとは、年の功とは恐ろしいものですなぁ。


「田んぼや畑にその木偶の坊を落としてくれるなよ」

「だから、木じゃないってば! というか、おじいちゃんどこ行くの?」

「忘れじの丘」

「ふーん、そっか、それならカルルス村の外れにあるから、ここから歩いて十五分くらいだよ」

「……そうか」


 そう言って、勲おじいちゃんはカルルス村のほうへ向かって一本道を歩いて行ってしまった。

 あ〜間違えちゃった。おじいちゃんの歩く速度だと二十分以上かかっちゃうなぁ……ま、いっか!


「ってか、おじいちゃんは何しに『忘れじの丘』まで行くんだろうね? ね? 岩田さん?」

「…………?」


 岩田さんもよく分からないのか、体を傾けて『?』を表現している。

 そういえば、勲おじいちゃんの姿を転移初日以来、見かけていなかったなぁ……。

 もっとも、私があっちに行ったりこっちに行ったりして、げんき村になかなか落ち着いて居られなかったのも原因だろう。

 

「……ま、元気そうだし。問題ないか……戻ろっか、岩田さん」

「…………(コクリ)」


 むしろ、私が気にかけているのは、あの独身アラサー女こと山形さんのことだ。 

 あの決別ともいえる対立のあとから、目立った報告を受けてはいないが、それは同時に私にとって大きな不安にもなっていた。

 意気消沈したまま大人しくしてくれるのが一番ありがたいが、復讐に燃えて変な徒党を組まれたら面倒だし、自殺なんてされた日には目覚めが悪くて仕方ない。

 和解すればそれに越したことはないけど……、


「ま、それは当分、先の話になるだろうけどねぇ~」

「…………?」

「あ、いいのいいの! 岩田さんは気にしないで!」

「…………(コクリ)」


 生まれたばかりのピュアで純粋な岩田さんを女同士の醜い争いには巻き込みたくはない。

 まして、これは“げんき村”の問題なのだ、カルルス村を巻き込むわけにはいかない。

 この問題は私たちの手で解決する! そう決意して、私達は『忘れじの丘』に戻ることにした。


・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・


 忘れじの丘に戻ると、ベリー村長がすでにアダムの前に立っており、その動きのチェックをしていた。

 そういえば、ここに行くと言っていた勲おじいちゃんはどこだろう?


「ベリー村長、おはようございます!」

「――おはようございます。乃香村長。ゴーレム……いえ、岩田さんが一体消えていたので何事かと思いました」

「ごめんなさい、少し岩田さんを連れて散歩に出てました」

「そうでしたか。いえ、かまいません。岩田さんの動作の確認の手間が省けました。どうやら、正しく動くようですね」


 私は頷いた。

 今のところ、私が見た限りでは目立った不備や不調はない。

 ちゃんと言うことは聞くし、私に動きも合わせてくれる。非常に従順で可愛らしい。


「そういえば、ここに来るときに勲おじいちゃんを見ませんでしたか?」

「勲おじいちゃんさん、ですか? えぇと……すいません、まだそちらの村の住人の皆さんの顔が把握できていなくて……」


 そっか、勲おじいちゃんって言っても分からないか。

 そうだなぁ~、どう説明したものか……。


「はじめて顔合わせしたときに私と一緒にいた、『勝じい』じゃないほうのおじいちゃんです。ムスッとしてて白髪でツンデレです」

「なるほど、分かりました。彼ですね。彼なら……プポン様の館に行くと言っていましたよ」

「プポン……あぁ、たしか……」


 プポンとは私たちが異世界から召喚されると予言したアヤシイ占い師の名前である。

 この『忘れじの丘』に住居をかまえ、外部との、村人との接触すら拒む厭世的で人嫌いな人物らしい。

 

 でも、なんで、勲おじいちゃんがそんなところに?

 ――ハッ!? まさか!? まさかまさかぁッ!!


「ムッフフフ……そうですか、そうですか……なるほどなるほど」

「……なにかおかしかったですか?」

「いえ、なにも――」


 確かに、勲おじいちゃんは奥さんとは生き別れているからねぇ……さびしくなるのは当然のことか。

 いやぁ~、青春ってのは何歳からでも遅くはないんだね! ツンツンしてるくせに隅に置けないなぁ~、もう恋人をゲットしちゃうとは!!

 いや、でも私は応援するよ! 勲おじいちゃんにはこの世界を楽しむ権利があるんだから!!


「クックック……! これでからかいがいのあるネタが増えたぞ〜」

「では、勲おじいちゃんさんを呼んできましょうか?」

「いえ、大丈夫です。……水を差しちゃ悪いですし♪」

「そうですか? では、僕たちは僕たちの業務に入りましょう」

「そうですね」

 

 私は大きく頷いた。

 勲おじいちゃんをからかうのはまたの機会でいい。

 今日は、この岩田さんにげんき村の水道工事をやってもらわねばならないのだ。


「では、行きましょうか」

「はい!」


 ベリー村長が歩きだすと、岩田さん(アダム)が彼のあとを追いかけるように歩きだす。

 やっぱり、起動させた本人じゃないとゴーレムは動かせないのか……。


「岩田さん、行こ」

「…………(コクリ)」


 私も岩田さん(イヴ)を連れて忘れじの丘をあとにした。

 ベリー村長と私、そしてゴーレムの岩田さんズは、さっき散歩のルートで通った街道に来ていた。


「こちらですよ」


 ベリー村長が手招きして、街道の外れの森の中に入る。

 なんだろう? ついて行くと、そこには岩田さんがすっぽり入りそうなほど大きな石でできたマンホールの蓋のようなものがあった。

 

「村長、これは……?」

「この街道の真下を通る地下水路の整備用に作られた穴です。ゴーレムが通れるように大きめに作られています」

「地下水路?」

「はい、あの向こうに見えるアルバス山脈から僕達のカルルス村はこの地下水路に水を引いて生活しています。水路内は浄化の術式もかかっているので、そのまま、飲水としても使用できます」


 すっげぇ……! ソレって“カナート”じゃないですか!!

 忘れられてる設定かもですけど、私、こう見えても歴研出身の人間ですから、アニメやマンガ以外にもそれなりに興味があるんですよ?

〜乃香の一言レポート〜


 ちなみに岩田さんは私と知識も共有できるらしく「ウマウマダンスやって!」と言ったらスッゴイ勢いで乱舞しました。


 次回の更新は3月30日(金)です。

 もうすぐ3月も終わりですね……。

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