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8:深淵はいつでも貴方の傍にいる

~神無月家にて~

「貴方が土井 桜さんですか?私、WAOのルーナ・(エクリプス)・クリストフと言います。私のことは気軽にクリスと呼んでください」

「えと、私に何の用ですか?」

『この人さっき来た人だよね?』と心では思ってはいるものの口に出せず、疑心暗鬼になっている桜。でも彼女を見たのは一瞬だ、もしかしたら見間違えてるのかも・・と甘い考えがよぎったがそれは彼女の次の言葉で砕かれる。

「挨拶はこの辺にして、車に乗ってもらえますか?私がさっきまでここに居たことは分かっているでしょう」

小さな声だったがその声に込められた威圧感は象すら気絶させそうだった。

「・・・分かりました。その前にお兄ちゃんに一言言ってきてもいいですか?」

「すぐに戻ってくださいね。あまり時間がないので」

桜は急いで良太に『出かけてくる』と言い残してすぐに戻って来た。車に乗ってからというもの、何の会話もない二人。だが、その沈黙はクリスの方から破ってくれた。

「これから話すことはくれぐれも他言無用にしてください。これは貴方の家族にも影響するかもしれないんです」

桜は頷き、真剣な眼差しを運転席のクリスに向けた。

「私達は今、WAOの本部に向かっています。多分霙さんもそこにいると思うんだけどね、その霙さんに貴方の家族が何かしらの能力の影響を与えられている可能性があるの。なんでもいいわ、身近なことで何か矛盾が起こったりとか・・・心当たりない?」

あまりの情報量に少し追いつけていない桜は何も言い返せずキョトンとしてしまった。正直、何の心当たりもなかったが、言われてみれば何か引っかかるような気がした。

「えっと・・・無いです」

『そう』と言った彼女の横顔は少しだけ悲しみがにじんでいた。そんな顔を見て、桜は少し俯いていたがその時、一つの閃きが彼女の脳内に巡った。

「そういえば・・・クリスさん。悪魔や神様達って『0→1』(ラブワン)が落ちて来る前はどうしてたんですか?」

ようやくの手掛かりに笑みがこぼれるクリス。まだ、家から出てきてから、まだ10分ほどしか経っていない。

~霙の救出まで2時間15分程~

「あぁ・・・溺れそう。なんか色も黒くなってるし」

流石に二時間も経つと部屋の半分以上が足や体から漏れてる液体でいっぱいになってきてしまう。こうしてる今も霙の頭の中と外では『私達』が話しかけたり、体を壊したりしている。

『プカプカしてるの楽しいよ』『この足嫌い。食べる。』『星のシールにくっつきそうだよぉ』『誰も来ないね』

(さっさと能力を解いてみろよ馬鹿霙。あ、これって感情の暴走だからとめらんないんだっけぇ~ごめんなぁ~お前みたいな馬鹿には出来ない事なんかいっちゃってよぉ~)

根雪に馬鹿にされ、体は徐々にこの黒い液体に溶け出し。そして・・・・《バジィッ》

「なっ・・・意識が・・。」

落雷に撃たれたような音が何処かでしたような気がしたと同時に霙の意識は闇の中に堕ちていった。

「お前がこの世界の異常か?」

霙の目の前にいたのは一人の道化師(ピエロ)だった。

「知らないよ、俺が何者なんかなんて」

(この空間・・・これって精神s)

「そうだ、精神世界だ。この世界においてはお前が何をしようとも俺には勝てない。何故ならお前も含めてすべて私が支配しているからなぁ」

変声機でも使っているような甲高い声。何処か根雪に似た道化師はかなり自分の能力に自信があるようだった。

「自信家だね。そんなに強いなら私みたいなか弱い生き物を虐めないで欲しいんだけどな」

すると道化師は『ふっ』とこちらを(あざけ)り、罵った。

「お前みたいな雑魚を欲しがるとは・・・皇帝陛下にも困ったものだ、だけど私はお前を我らの国まで連れて行く・・・ん?どうして倒れない!?」

面白そうなオモチャだね、霙。こんなに強そうな人間見たの初めてかも、どう?霙。

「君の可能性(チカラ)はこの世界でもトップクラスなんだろうね、でも残念、相手が悪いよ。俺様が簡単に能力で倒せる訳がねぇだろ!!」

「ヒィィ」

弱弱しく叫ぶピエロ。霙は道化s・・・・『楽しんで貰えただろうかな?観客の霙さん?』

霙の目の前にいたのは一人の道化師(ピエロ)だった。

「・・・やるね」

気が付けば霙とピエロの間合いは一番最初に戻っていた。ここで考えられる可能性は三つ、一つ目は彼の能力で時間が戻った。二つ目は会った瞬間に精神世界にいる霙の精神にもう一つ世界を創った後、消した。最後の可能性は、彼が言った通りこの精神世界を自由に弄んだ。いずれにせよ手ごわい相手であることは変わらない。

「もうしばらく私の虚飾に付き合ってもらいますよ」

彼の言っていることのどこまでが真実で嘘なのか、だが惑わされてはいけない。精神能力者の恐ろしいとこ所はこの部分にあり、能力を使われていないにも関わらず自分自身がその世界を信用できずに疑心暗鬼になってしまえばその者に勝ち目は無いといっても過言ではない。そんな能力者相手に霙は不敵に笑う。

「私ね、力はなるべく使わないようにしてるんだ」

だが、こんな相手など霙にとってはどうでもいい事の一つでしかない。

~霙の下に助けが来るまで、残り20分?~

「そういえば・・・クリスさん。悪魔や神様達って『0→1』(ラブワン)が落ちて来る前はどうしてたんですか?」

「いないはずよ。いたとしてもまともな肉の器を持っていないから行動には制限があったはずよ」

「だとしたら変なのはそこです!だって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

予想以上の収穫に驚きを隠しきれずに、少し興奮気味な口調でクリスは聞き返す。

「それ、本当なの?」

「はい。しかもお母さんはお父さんに会った時からお父さんは人間じゃなかったって言ってました」

「ということは、その時点で世界は狂っていたのね・・・ちなみに貴方の母親と父親が会ったのはいつ頃か分かる?」

「9年前です」

だが、ここにきてクリスは怪訝そうな顔をした。彼女はここで違和感の正体に気付いてしまったのだ。

「9年前!?3年前じゃなくて?・・・二人いるのか、世界を変える可能性(チカラ)がある者が」

「どういうことですか?」

内容は世界の命運を左右する程の内容なのだが、二人は楽しんでいた。当然だ、こんなミステリー小説みたいに謎を解くという機会は一生の内に一度有るか無いか。その内容の規模が違うのだから当然興奮してしまう。

「まって、今WAOの駐車場に止めるから」

WAOまでは40分ほどで着いた。車を止めたクリスは鞄から一つの箱を取り出した。

「実はね、3年前に世界の重要機関が異常な速さで『0→1』(ラブワン)が落ちて来るのが分かっていたみたいな災害対策を作り始めたの。おかげで被害はゼロだったけど、それだと前の世界に預言者かこっちの世界から前の世界に情報を流した奴がいるって事だと私は睨んでるの」

すると、クリスは箱の鍵穴に鍵を差し込み『その証拠を掴む為に作ったのがこの機械』と言って箱を開けたが・・・《ボフゥン》。中から煙が出て、二人を包んだ。その煙は容赦なく二人の意識を刈り取った。

「クリシュしゃん・・・なんでヒュ、、、」

「、、、、、、」

二人は1時間程眠っていた。二人は起きてすぐに身の回りで何か変わったことは無かった、点検したが何も盗まれておらず、前と何一つ変わっていなかった。

「何だったんでしょう?」

「分からない。このタイミングで私達を寝かせる理由なんて・・・・もしかして、このタイミングだったの!?」

彼女の持っていた箱に入っていたのは消しゴム程の大きさの瓶のネックレスだった。

彼女曰く、「これは『ラブワン遮断器』って言ってね、私の可能性(チカラ)を無効化する可能性(チカラ)を応用したもので、使用者の周りにだけ私の能力と同じ効果をもつ膜が張られて、そこに無効化された能力があれば使用者に伝わる仕組みになっているの。たとえ世界が変わっても私と、この『ラブワン遮断器』の使用者はその影響を受けないから・・・だけど今はまだ使用者の認証前だからこの車全体を覆ってるんだけど敵にそこを狙われちゃったみたいね」

5歳とは言え悪魔の知恵を持つ桜には今の説明で事の重要性が分かったらしい。

「つまりさっき言っていた二人のうちの一人はこうなることを知っていて、このタイミングで前の世界に情報を流した」

「しかも眠らせたってことは私達が影響を受けないと困るタイプの類。時間とかそういう類だと思う。それに、このタイミングで実行できるってことは相手はこの箱の中身を知ってるかも、それに相手はこのタイミングで貴方の家族に何かしらの影響を与えたかも」

憶測とはいえ、いきなり自分達の話になったので桜は驚いたが、クリスは気にせず続けた。

「貴方のお兄さん、なんとなく気付いていたって言ってたけど、『0→1』が落ちてくる前に能力に気付くのはおかしい。やっぱり霙さんに会ったのが引き金で能力や体質に関する情報が上書きされたんじゃない?」

彼女の言っていることは全部憶測だが・・・なんとなくそれが真実の様な気がする。だけど桜は霙が悪い人だとも思っていない、何かしらの事情があるのでは?・・・だからこそ本人に聞いてみる必要があるのだ。

「それを解決するためにも・・・」

「まずは中にいる霙さんに聞いてみないとね」

すっかり意気投合した二人。クリスは桜に『ラブワン遮断器』の所有者権の登録をした後、桜と一緒にWAOの本部に入った。

~霙の救出まで20分~

「力を使うってことは相手に自分が上だと分からせてしまうからな」

目の前の道化師はその言葉に『無駄口を』と言って吐き捨てる。

「私は皇帝陛下にお前の強さを見て、その上で使えそうならお前を連れて行くはずなんだよ。なんだよお前、滅茶苦茶弱いじゃん」

霙の身体はボロボロだった。精神世界の中とはいえ、現実と痛みの感覚は変わらない。それどころか傷を負うたびに痛覚を倍の感度にされているのだ、並大抵の人間なら自殺するレベルである。

「はぁ・・・後5分待ってやる。それまでに決めな、私達についていくか、ここで死ぬか」

「精神世界で死ねるのか?道化師さん」

「もちろん。しっかりあの世に送ってやるよ」

《『さあ~て楽しくなってきたな』『貴方みたいな悪を許すわけにはいかない』『天泣。お前。嫌い』》

「五分経ったぞ。どうした道化師、何か変な物でも見えるのか?」

(あいつの能力か・・こんなの消してやる)

『俺様がその程度で消えるわけねえだろ・・・なぁ~さっさと殺しちまえよ天泣』

『天泣。ここ。嫌い。早く。桜と。遊びたい』

「分かった、お前の能力は素晴らしい。だけどたった四人でどうやって私と闘うつもりだ?だいたいまだ3分も経ってないぞ」

四人は一人に・・・一人から二人、三人、四人、・・・・

(なんなんだよ、こいつのn)

「能力が気になるのか?」

(こいつここr)

「ああ、読んだともお前の心をな。それに現実世界では5分経ったぞ、そしてお前の力が星のシールから関節的に俺をここに縛っているのも知ってる。そのうえで遊んでるんだよニンゲンのオンナノコ」

道化師は激昂した。

「ならお望み通り殺してやるよ」

霙に降り注ぐ無数の釘、霙はくし刺しにされたが霙は不敵な笑みを浮かべている。

「キヒヒヒ、お前じゃ俺は倒せないよ。それにどうせ我は死ねぬ身なのでな」

自分の世界だと思っていた道化師だったが最初からここは彼女の世界だった。そんなことにも気付かずに散々と・・・・自分の傲慢が恥ずかしい。

「くそっ・・・なっ、放せ!!」

最早ピエロに逃げ場は無い。地面から伸びた黒い手に掴まれて身動き一つとることが出来ない。

「だから言ったろ、『君は自信家だな』って。君には世界を覆す程の力があるかもしれないけど、それで天狗になってはいけないよ。いつだって謙虚に努力し続けなくては・・・」

霙自身も黒く、サイケデリックな液体となってズルズルとピエロに迫る。その右目の瞳は徐々に広がり、最後にはすべてが黒く、深淵の闇そのものだった。

「『ニーチェ』の言葉に『深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ』ってあるだろ。あれと一緒さ、君は僕の中に入って私の中を覗いたんだから(わらわ)が君の中に入って中を見たっていいよねぇ?」

映画の様な人を怖がらせる恐怖とは比べ物にならないほどの恐怖。自分と言う存在が誰かに操られ、弄ばれ、死ぬことすら叶わない・・・ニンゲンのオンナノコが見たものはまさに『深淵の禁忌』探ってはならないものだった。

「お願い・・・止めて、助けて」

勿論、今の霙には話声なんてただの音にしか聞こえていない。

「「きぃぃいぃひひひひいひひひひひぃぃぃぃぃぎぎぎぎぃぃぃぃいいいいいいい!!」」

異常な嗤い声と悲鳴が重なり、一つの音を奏でている。口から入っていくソレはニンゲン程度、簡単に壊すことのできる狂気の凶器で、感情を奪い、人格を奪い、対象を『私達』の玩具にする異形の力だった。

~霙の下に助けが来るまで・・・~

「早速『ラブワン遮断器』使ってみたけど、さっそく反応があったよ」

桜が反応のあった方を指さすとそこには・・・

「・・・これってシール?」

彼女達がシールを眺めていると、クリスの同僚のジョン・ケイトに会った。

「おぉ~クリス。A-1の部屋に居る神無月さんは落ち着いた?」

『そんなこと頼まれていないわよ』とクリスは怪訝な表情で言い返した。が、その返答のせいでジョンからは落ち着きがなくなってしまった。

「えええええええーどうして!?・・・何で?・・・あわわわわわわわわわわわわわわ」

『A-1号室ね』それをジョンに言い残すと、クリスは桜に頼みごとを一つ聞いてもらった。

「悪いけど桜、そこの馬鹿と一緒にそのシールはがして無力化してもらえる?」

「分かった。気を付けてね」

クリスは最初こそゆっくりと霙の居る部屋まで向かっていたが、途中からサイケデリックな液体や黒い液体が床を流れていることに気付き全速力で走った。彼女の能力無効は素肌に触れなければ無効化されることは無い、そのため霙の能力の上を靴で走っても何も起きることは無い。

「はぁ、はぁ、神無月さん!!」

扉を開けた途端、黒くてサイケデリックな光と水に襲われて思わず目を(つむ)るクリス。視界が戻ると、そこに居たのは床に寝そべっている霙だった。

「もう、心配させて。大丈夫?」

「フニャ・・・寝てた」(接触時に能力無効の可能性(チカラ)か、まぁ今逃がしても大した脅威にはならないか)

この後、霙と桜と朧は合流し、霙はクリスと桜に質問されることになった。

「ご主人、結局入ることにしたの?」

「うん、この仕事は絶対に俺にしかできないって言われちゃってさ・・・それに俺にも目標が出来たからな」

「その目標って?」

「秘密に決まってんだろ!」

「ムキュウぅぅぅ」

『ん゛ん゛っ』とわざとらしいクリスの咳払いに二人は黙った。

「神無月 霙。貴方は前の世界から今まで何かしらの能力で影響を与え続けましたか?

淡々としたその言い方で、彼女が本気で取り調べていることが伝わった。

「前の世界については話せないけど、悪いことは何もしてないし今の世界では何もしてなくても影響しちゃってるかもしれないです」

クリスの質問に答えた後、桜が間髪入れずに聞いてきた。

「お兄ちゃんとお父さんが悪魔と吸血鬼のハーフだって事実を前の世界から繋げたのは霙お姉ちゃん?」

霙はしばらく『ん~』と考えていたがすぐに答えは出た。

「多分ね、結果的に私に利益が出るような形で収まっちゃったから。それについては謝るよ」

その後も色々と聞かれたが、霙が聞けたのは朧がWAOに入ったということだけで、三人はジョンの能力で一時帰宅することになった。

「総統との約束。俺は絶対にこの世界を壊させないぞ」

「一人は霙さんだとして、あと一人。絶対に姉さんに人殺しなんてさせない」

「霙お姉ちゃんと話してたとき、お姉ちゃん分裂してたのに私以外誰も気付いてなかった。しかも『ラブワン遮断器』の効力をオフにしたとたんに消えちゃうなんて・・・やっぱり霙お姉ちゃんって『0→1』の影響外の()()()()()()()

決意を抱いた者。決心を更に固めた者。心理に近づく者。

世界の深淵はいつだって人々を待っている。人々を見ている。その深淵は近くにいつでもいる。

「『皇帝陛下』って言ってたよなぁ、てことは帝国か?」

四人はそれぞれ別の場所で呟いた。そしてそれはすべて知られている。深淵はすべてを飲み込み、すべてを知り、その(ほとん)どを忘却の彼方へ・・・深淵の闇は深い。

深淵はいつだって傍に・・・逃げることなど出来ない。

『第五の部屋でまっているよ・・・・』

その声は霙と神性の高い桜にだけうっすら聴こえた気がした。

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