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5:それぞれの日常「2」

明くる日の日曜日、霙は朝早くから玄関の近くでソワソワと落ち着かない様子だった。

「あぁ、来る。ついに今日来てしまうぅぅぅぅぅぅ・・・」

その様子を見ていた良太は流石に『何をですか?』と聞かなければいけないことに気付き、聞いてみた。

「今日は何か来るんですか?」

すると案の定待ってましたとばかりのドヤ顔で霙は答える。

「今日はご主人様が家に来てくださる日なの!!」

「そ、そうだったんですね、」

すると、隣にいた桜が不思議そうな顔をして霙に問いかけた。

「そういえば、いつもいつも霙お姉ちゃんが話してるご主人様ってどんな人なの?」

この後、二人の兄妹は霙から1時間近くご主人様(大村 朧)について語られることをまだ知らなかった。

「二人とも分かってくれた?」

二人は疲れ切った表情だったが、二人とも少し安心した様子だった。二人とも霙の心に関しては少し不安を抱いてはいたが、今の熱のこもった説明を聴いてとても安心していたのだ・・・一人は友達がいるのだと。

「じゃあ、今日は霙お姉ちゃんの大切な人が来る日なんだね」

「そういうことだよ」

「それじゃあ俺達は向こうでビデオ撮ってるね」

そう言って二人は玄関近くの大広間から廊下を通って何処かへ行ってしまった。

「それじゃあ撮ろうか桜」

「そうだねお兄ちゃん」

二人が居るのは住み込みの従者の皆の部屋の近くにある大広間で、ここには本や漫画などの棚もあり、二人はよくここで部屋から出てくる従者(大半は家族連れの鬼族の人)と遊んでもらっているのだ。

「お母さんへ、ここで私はお兄ちゃんと従者の皆と遊んでまーす」

「従者の皆はとっても優しくて、これも私達の仕事だからって遊んでくれるんだ」

そう言って二人は近くの従者を集めていつものようにおしゃべりや追いかけっこなどをして遊び、それを録画した。

「次に母さんに見せたいのは人間じゃない霙さんだよ」

「まずは、スライムの霙さん。とっても柔らかいけどしっかりとしてるハードタイプのスライムさんなんだよ」

次々と近場から拾われてくる霙達。途中から妖精や獣などのさまざまなバリエーションも拾ってきては従者達と協力してビデオに収めていった。ちなみに全員を纏めて一人にしても何処かで増えているらしい。

「またね母さん」

「お母さん、また一緒に遊ぼうね」

こうして二人のビデオレターは完成したのだった。

「従者のみんな、桜達の為に手伝ってくれてありがとうね」

「こっちも結構楽しかったぞお嬢」

と、軽い感じの土色の鬼。

「これを見たらお母様も喜びますよ」

と、人間の従者。余談だが、鬼族の肌の色は基本的に生まれつきのもので、色によって得意分野が分かれるらしいのだが本当かどうかはまだ鬼族も分かっていない。

「そういえばお嬢様とお坊ちゃま、3階にの奥のにある部屋はどうして立ち入り禁止か、主様から聞いていませんか?」

「桜知らないよ、お兄ちゃんは?」

「俺も知らないよ」

「そうですか、、今度主様に聞いてみます」

そんな時だった。現在の時刻は午前11時半ごろだろうか、この家のインターホンが鳴った。

「来たああああああああああああああああ」

霙はドアを開け客人を招き入れた。

「ご主人様、約束より遅かったけどどうしたの?」

「ん?、まぁちょっとあってな。それも相談しようと思ったんだ」

霙と朧は大きなリビングのソファーに座り、従者に持ってこさせた紅茶を飲みながら話し始めた。

「お前の家、いつの間にかデカくなったな。てか、従者までいるとか・・・お前何もしてないよな?」

「酷いなぁご主人様。私何もしてないよ」

「まぁそれならいいんだけどさ」

朧はここで一区切りつけて話の本題を切り出した。

「実は俺、能力に目覚めたかもしれないんだ」

「え、、本当?」

「ホントのホント」

「すごいじゃん・・・でも相談ってことは、何か嫌な能力なの?」

すると朧は少し困った表情で、小首を傾げた。

「ん~、正確にはどんな力なのかが分からないんだよな・・・政府の機関に行くのもいいけど、遠いからお前なら分かるんじゃないかなと思ってさ、相談に来たんだ」

今、この世界には『0→1』によって何かしらの力を持った者が増えているのだが、その中には初めから自分の力を自覚している者。例えば良太(あの事件の前から薄々分かっていたらしい)の様な者もいるのだが、なかには桜や今回の朧のように能力に目覚めても力の使い方が分かっていない者もいる。

「別に私でもいいけど・・・やっぱり政府機関に行くのが一番確実だよね」

そんな人達の為に作られたのが政府の『ラブワン診断』と呼ばれる機械なのだが、この機械は近くの市役所なんかにも置いてあったりしていて、無料で誰でも使うことのできる機会なのだが、、、

「でもさ・・やっぱり怖いじゃんあの(うわさ)

その噂とは、能力によっては政府に捕らえられて働かされたり、幽閉されるというものである。

「まぁ・・本当かはともかく、私も職員から声かけられた人を見たことあるからね。ご主人が怖いって思うのも分かるよ。ちなみにどんな時に能力を自覚したの?」

朧が言うには、クイズ番組を見ていたら答えではなく、答え方が分かってしまったのだという。その後のシルエットだけで何が入っているのかを問う問題では答え方ではなく、答えが分かってしまったのだという。そして、霙はその話だけで朧の能力をうっすらと解かり始めていた。

「ご主人、これはな~んだ?」

そう言って取り出したのは宙を舞うクラゲ。しかしこれは霙自身が変身したもので、いわゆる『私達』の一部である。これの答え方で霙は朧の能力を判断しようと思っているのだ。

「ん~・・・霙とクラゲ?・・・他にもいっぱいあるって俺の能力は言ってるけど、それ俺にはクラゲにしか見えないなぁ」

その答えに霙はドキリとした。霙にとってその答えは朧の能力を知るためであったのに、以外にもその力は霙にとっては心の脅威になってしまったからだ。

「分かったよ、ご主人様の能力・・・多分その能力は()()()()()()()だと思う」

何故、霙にとって脅威なのか?それは彼女自身の本質が他の人々の模造品だからである。ならば、その力で霙を見れば中身の無いカラッポだと彼に知られてしまうわけだが・・・

「ねぇ・・・ご主人」

「ん?」

この場に居る全員はまだ知らない。

「私はどう見える?」

「お前は・・・・」

()()()()()()()()()かを。

「ん~・・ん?なんじゃこりゃ?」

「どうしたの?」

「お前の本質が()()()()()()()()()()()()()()

驚愕と沈黙。

近くで聞いていた従者たちも彼の意味不明な言葉に首を傾げている。

「え、どういうこと?(もしかしてカラッポだから、空なのが分かるけど他に何かあるものだと思って困惑してるのかなぁ?)」

そして、しばらくの沈黙の内に考えがまとまった朧は霙に質問した。

「お前、オリジナルとまだ折り合いをつけてないだろ」

最早(もはや)、彼の目をごまかせるはずもなく霙は正直に話した。

「うん・・・オリジナルとは『0→1』が来てから話してない」

「そのせいだな・・・まぁ落ち着いたらオリジナルと話してみるのもいいんじゃないか?」

霙は小さく頷いた。そして、それを陰から見ている者がいた。桜である。

「なんだか大切なお話し中みたいだし、自分で調べてみよっと」

そう言って駆け出して行ってしまった。彼女は先程の従者に言われたことを聞いてみようと思ったのだが、二人が話中だということもあり、自分で調べることにしたのだった。

「三階の奥の立ち入り禁止の部屋ってこれだよね?」

そこは()()()。その扉の先には四つの部屋があり、一つ一つに名前が書いてあるドアがあった。

「え~っと、紫雲(しうん)根雪(ねゆき)天泣(てんきゅう)。どれも難しい漢字だし、秘密の難しい本コレクションかなぁ~・・・でも全部天気に関係してるし展望台だったりして!!」

そうして彼女はやや興奮気味に天泣の部屋を開けてしまった。自分が犯した過ちにも気付かずに。

「お邪魔しま~す。あれ?意外と真っ暗だ、電気は・・・ん?」

彼女はすぐに気が付いたがもう遅い。突然に闇から飛び出してきた獣の様な何かに思わず能力と悪魔と吸血鬼の腕力で弾き飛ばしてしまったが、すぐにソレはまた襲い掛かって来た。

「え、え、え、きゃぁああああああ」

鎖で対抗した後すぐに走り出した彼女は時折、能力で時間を稼ぎながら霙に助けを求めるように近くの従者に叫び、家の中を逃げ回っていた。

(あの子、私の本気についてきてる・・・霙お姉ちゃんが来るまでは何とか逃げ続けないと)

悪魔と吸血鬼のハーフである桜の速度は戦闘機並の速さだが、それよりも相手の方が速い事をすぐに理解した彼女は、なるべく角を曲がり続けていたがそれも時間の問題だった。

(いくら逃げても従者さんを襲うかもしれないし・・・何より私まだこの家に慣れてないから・・)

「って、本当に行き止まり!?」

人間、嫌なことを考えていると現実に起こってしまうものである。

「ギイィィィィィィィィィ!!」

まるでチェーンソーの様な雄叫びと共に桜の前に現れた獣のようなソレは翼と尻尾の生えた桜を目にしても怯える様子はなかった・・・・・

「そうそう、ご主人の能力で後で見てほしいものがあるんだよね」

「なんでもいいぞ。お前の為だし」

「実はね・・・・うっ、、」

「どうした?」

「ゴメンご主人。誰かが扉を開けちゃったみたいだから今すぐ行かないと」

そう言って立ち上がったところに、慌てた様子の従者が現れた。

「ハァ、ハァ、主様大変です。桜お嬢様が紫の獣に追われていて・・早くなんとかしないとお嬢様が、、、」

その言葉で霙の表情が一層険しいものになり、次の瞬間には霙はその場にはいなくなっていた。

(間に合ってくれよ・・・)

「ふにゃあぁ・・・・お願い来ないで」

桜はもう恐ろしさに腰が抜けてしまって、まともに戦える状態ではなくなってしまった。そして獣はそんな獲物に対して容赦なく襲い掛かった。

「グワァァァァァアアアアア!!」

「きゃぁああああああ」

その時、彼女の身体は極限まで追い詰められた結果。本能的に悪魔と吸血鬼の力を開放していた。

「角と牙?・・あっ、凄い、角で相手を感知できる・・・これなら」

しかし、いくら能力が上がったところでソレに彼女は勝てないことを悟った。何故なら・・・

「ギイィィィィィィィィィ!!」

「その声と顔、もしかして霙お姉ちゃん?」

真正面から見てようやく気が付いた。相手は獣の様な霙。能力である鎖と釘で動きを止めようとするが、ソレに触れる前に何かに噛み千切られたようになり、悪魔と吸血鬼の機動力で逃げようとしても先回りされ、神々の力はそもそも発動すら許されなかった。

「どうしよう・・・ねぇ霙お姉ちゃんでしょ?仲良くしようよ・・・」

「ギイィィィィィィィィィ!!」

次の瞬間。桜はソレに押し倒され、その口内を見た。霙がその場に到着したのは彼女が死を覚悟してから数分後のことだった・・・・・。




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