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2:猿園に揺蕩う異形

私の悪癖の一つに『口の端を歪める』がある。面白いときは右が、嘲るようなときや不愉快なときなどは左が歪む、それを見た両親や今は亡き祖父母からは可愛い顔が台無しと言われていたが、面白くもないのに無理に笑わせようとしてくる人たちが悪いと思う。本当は普通に笑うこともできるのだが、あまりにも面白いことがないせいで祖父母は結局私の普通の笑顔を一度も見ないまま死んだ。

「おはよう、神無月さん」

「おはようございます」

(まともに授業も受けないやつが正しい行いをしている(わらわ)と同等に我に口をきくな下賤(げせん)の者め)

「ハッ、、。」

(ダメダメあれだって生きて私達のために尽くしていずれは世界のために作業してくれるのだから我慢しないと)

このように私の登下校は自分と妄想との闘いである。世界中を平和にしてそれぞれの正しさを許容できる世界にすることは今の私の夢だが、そんなものは夢のまた夢である。だが諦めることは愚かだ、そう言い聞かせながら私は学校に向かった。

「神無月さんって綺麗だよね~何かやってるの?」

「ん?、何もしてないよ」

人の期待に応えるのは大変なことだと私は思う。だって相手のためにしたことが必ずしもその人のためになるわけではないからだ。

(ふ~んこいつマジでやってないんだ、つかえねー)

このように自分の力を得意げに使っている子を見るとなんだか悲しくなってくるし、何よりその考えを壊したくなる。

「え~そうなの~なのにそんなに綺麗だなんて羨ましいな~」

「そんなことないよ、貴方の方が綺麗だし、」

「そう?ありがと(だったらとっとと死ねよ普段なんも考えてねぇ陰キャが)」

そう言って彼女は他の子と共に校門へ駆けて行った。

得意げな彼女はまだ知らないこの学校にいる能力者が自分一人だけではないということも、私が貴方の心を読む能力を受けていないどころか逆に読まれていることも、それで私の悪癖が出番をウズウズ待ち焦がれていることも。

「はぁ、今日はアイツでいいか」

高校生活が始まって約一ヵ月。学校に慣れたのはいいが、授業中のスマホにピアス、茶髪に性交と一体何をしに来ているのやら。勿論友人とのおしゃべりは楽しいだろうが、限度というものがある。そして時間や場所を考えられない連中はここを娯楽室とでも思っているのだろうか?

ひゃやく(はやく)ころひぃた~い(ころしたーい)

連中は依存の塊だ、高ぶりすぎてつい、顔を弄ってしまったがすべては私の為。昨日の彼は自身の能力からも分かる通り自分の欲求をぶつける対象が居なかったのだろう、だから私一人の犠牲で彼は最高の性玩具を手にして世界を平和に近づけた。

「「さよならー」」

この日も彼女達はまともに授業も受けずに各々の欲望を満たしていた。それがスマホか睡眠かお喋りかは些細な事。余談だが『学べ、さもなくば去れ』という格言があるのだが私はこれが好きだ、だって学びの場で自分の楽しいことだけをしていいのならば私だってちょっとくらい辺りいっぱいを血の海にしてみてもいいはずだが、それはいけないことだと分かっているからこそ我慢しているのだ。だからこそ彼らも我慢しなくてはいけないはずなのだ。

「我慢してない貴方に私が我慢する必要はないよね、殺したって増やせるし、、キヒヒヒヒヒヒヒ」

今日も私は世界と自分のためにワガママを貫く。その時、口の右端が歪んでいたことは言うまでもない。

「今日もアイツって家に男連れ込んでんでしょ、マジでキモくない?」

「あー、神無月?アイツ少し美人で家に親居ないからって調子乗りすぎだよなw」

「それな、昨日も男があいつんちに無理やり連れ込まれてるのを俺の兄ちゃんが見たらしくてさ~」

「「マジでww」」

「しかも物凄い声で喘いでてさ、外まで聞こえてきたんだって」

「マジでキモいんだけど、あく死ねって感じだよねぇ~」

あるカラオケ店の一室で本人の居ないところで得意げに語る彼らはいつも授業を受けていない連中である。

「くっくっくっくっく」

そこに響く気味の悪い嗤い声。

「え、何?」

一人の少女が辺りを見まわすが不審なものは何もない。

「仏の顔も三度まで。君達は真面目に授業を受けている人たち全員分を使い果たした」

その声の後、少年は自分のスマホに一瞬神無月が映ったように見えて後ろを振り向いたが何もない。

「ホントなんなんだよ、おい糞ビッチの神無月!その声お前なんだろ、知ってんだよブス!俺の透視で見つけてやるから覚悟しとけよ」

「え、あんた透視できんならさっさと見つけて痛めつけよ」

「おお!」

得意げに私を見つけようとしている彼らはまだ私の悪癖を知らない。

私の悪癖、それは復讐やされたことなどに対する強い執着心である。両親が生きていたころは10年前であろうと時々口に出しては災いの火種を作ってしまっていた程で、私の心の黒い闇の部分は醜悪な淀みの様である。簡単に言うと、ネチネチした嫌な奴なのだ。

「今日の私は暗くて黒くて闇と陰に生きるもの。君達には何の感情も持ってないけど、君達が真面目で真剣に授業に臨めるまではここから出す気はないから」

「「はぁあ?」」

彼らの声が重なり、各々何とか部屋からの脱出を試みるが勿論出られず、透視能力の人間は見つかるはずのない私を探していた。

「さっきから真っ黒になったドア叩いてるけど、誰も気付いてねぇ」

「そうだ、スマホで警察呼んであのキチガイビッチさ、捕まえて貰えば私達も出られるじゃん」

しかし、当然の如く繫がらない。

「何で何で何でなの」

「おい、みんな落ち着いて聞いてくれ」

一人の少年が口を開く。彼も学校内の数少ない能力者の一人である。彼の能力は、その環境に対応した日付と時間、そして場所と言語の自動翻訳であり、旅行先や遭難時に活躍しそうな能力である。

「日付も場所も分かんねぇ、、しかも日本とかの世界時刻も出てこない」

「え、何それ?」

「じゃあ一体全体どこにいるってんだよ!」

「わかんねぇよ!そんなのこっちが聞きたいよ!」

「「、、、、。」」

それから誰も一言も話すことはなかった。心を読むことのできる少女は自分のグループに自分以外の能力者が居たことに驚いていたがそれどころではない。このままではトイレにもお風呂にも行けず、食事も取ることが出来ないからだ。正直、最後の以外はサバイバルでは無視していいような気もするが温室育ちの彼女達には耐えられないことなのだ。だからこそ彼女は恥を承知で霙に話しかけた。

「私達が悪かった。謝るから許してください」

「「!!」」

一番プライドの高い彼女が謝ったのだ、他の人間も私に対する謝罪のフリをしてきたがそこについては目を瞑っていよう。

「私がどこに潜んでいるか分かったら。話程度なら聞いてやる」

「「*+#&%<>?!」」

全員から一斉に様々な罵詈雑言を言われたが私は無視した。その後の彼らの行動は、透視で周りを見る→見つからないから私を罵る。結果私は嘘つきで、帰す気がないということになり度々私を呼びつけては同じ不正解を何度も答えてくるものであった。

「何度違うと言えば分かるんだ無能、だから私達の中にあの学校を猿園とか言う子がでるんだよ」

「はぁ?無能はそっちでしょ、分かりやすい嘘吐いておいて私達にすぐ見破られたからってせこすぎなんだよ!」

話にならない、能力に頼って考えることを放棄している。つまらない。ここまでくるとヒントや答えを言いたくもなるものだ。

「透視能力者でも見えない部分は?」

「そんなのあるわけねぇだろバカが」

「マジでバカなんだね、呆れた。」

「何でも透かして見れるんだから見えないってことはあんたはここに居ないってことなんですけどww」

他の連中は少し考えていたが彼らの答えにすぐに乗っかり考えることを放棄した。もう暇すぎて途中から男の姿になった俺はもう笑いを堪えきれなかった。

「ギャヒィィィイイイイヒヒヒヒ、はぁー面白いなここまで馬鹿だと最早度し難いレベルだわ」

「じゃあどこなんd

()()()()()()

僕は酷く冷めた声で猿の音を遮って答えを呟いた。

「お前ら、助かる気ないだろ。本気で助かりたいならもっと必死になって考えてくれよ、だったらお前ら全員人形にでもしておくからその間に心でよーく考えといて」

次の日から彼らは人が変わったように世のため人のために尽くし、授業もしっかりと受けていた。その豹変ぶりには誰もが驚くほどであるが、彼らの心はどんなに頑張っても何一つ自分の身体を自由に出来ない。彼らの意識は体の中にあるだけで霙曰く『あれは心が正しさを身に着けるまで正しさを身に着けている』のだという(好奇心の塊の私から聞いた黒い霙の説明より)

「たまには男もいいものだね」

今日も一人、自分の心と大人数の中で揺蕩うソレは見た目は美しい人間だがその正体は人間だった異形である。人々に忌み嫌われ続けてなお人であり続けようとするソレはそれでも満たされぬ心を満たすため今日も可能性に挑み続けている。


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