Another of story:デウス・エクス・マキナ最終編
バックアップ(分身体)がいることを『クラリオス帝国』の連中に気付かれたのだろうか?マキナの分身体はどんどん減っていった。しかし、そんなことすら忘れてしまうほどの好奇心が彼女の心を支配していた。
「それで、あなた今自分がどんな状況かわかってる?」
ううんと首を横に振るマキナ、そんなことよりもマキナは彼女のことについてのほうが知りたい気持ちだった。
「はぁ・・・私はこの世界にはあんまりいられないからよく聞いてね」
何とも言えない何かを彼女から感じる・・・『直感』これも初めての感覚だ。
YUIと名乗る少女はいま私が置かれている状況を大雑把に説明してくれた。
「貴方があったクラリオンさんは時間を操る能力者であの国はもうすぐこの世界と戦争しようとか考えてる危ない国なの。そこに入った貴方はこれから私が言う人に会わなければ殺されるから」
この説明を聞いたのが人間ならもっと色々と突っ込みたいところだがマキナはそこまで人間ではない。
「分かりました。でもクラリオンさんが時間を操っているなら今の私も死んでるはずですよね?どうして一人ひとり殺されているのでしょうか?」
マキナは目の前の生き物がさっき言った言葉でこの人が超越した存在だと何となく思った。だからこそのこの質問、すべてを知っているなら聞きたいことをストレートに言えば聞けるはず。
「おーいい質問だね、それはね他の場所で可能性の無効化が起きてるからなんだよ。だからこそ彼らは一人ずつしか殺せてない」
「なるほど」
「それと時間がないから転送してあげるけど、これから会う人は私とお姉ちゃんからしたら新たなる可能性って人で、その人は自分に近い五人の人間を探しててその一人には貴方もいる。その人は五人を使って自分がなんなのか見つけるためにいろいろするから気を付けてね」
「その五人っていったい?」
「性質の近い四人と根源たる原初の可能性・・・魔法なのか能力なのかは私でもわからないけど、この世界では魔法も能力も可能性って一括りなんだろ?だったら大丈夫だ」
話が終わるとすぐにYUIと名乗った少女は不安定に見える身体で可能性を使って私を転送してくれた。
「『0と1の境界よ、我が名のもとに従え』」
私の視界から彼女が陽炎のようになって消えるのと扉が乱暴に開かれて中からあの時の侍従の女性が見えたのはほぼ同時だった。
「・・・・・・・・」
あたりを見渡すとそこは、幻想的な森に囲まれた美しい花畑だった。色とりどりの花畑から一色になったりするなんとも不思議な花畑に少女が一人、そこに二つの足音がした。
「やっと見つけましたよ、最後のお客さん」
「全く、陛下の手を煩わせるなんて・・・恥を知れ!!」
(まずい、もう追いつかれてる)
時間を操る能力者に未知数の可能性持ちかもしれない侍従・・・正直、YUIから神々しいオーラを感じなければ私はここで絶望していたんだろうか?
「やぁ~またあったね~」
(本当に来るんだろうな、『新たなる可能性』とかいう人は)
「またそうやって陛下に対して無礼を」
「その様子だとどうしてまた会えたかは分かっているようね」
「私の存在を時間ごと消し去ろうって訳?でも残念だったね。私は一人じゃないし、やってきた過去の事実も消してしまうならルートを増やして送ればいいだけだもん」
とりあえず今までのデータからそう判断した。これで話を続ければYUIが言っていた人に会えると思ったからだ、だけど彼女の可能性は生半可な物じゃなかった。
「ふーん・・・すごいわね、この短時間でそこまでの対策を作れるなんて。それも史上最高AIだからなのかしらデウス・エクス・マキナ?」
「!?・・・どうして知っているんですか?」
「それは時間を読んだだけのことよ」
「陛下、こんな奴私一人で・・」
「だめよクリス、相手はそれなりの可能性を持ってるわ。それに貴方が殺したら汚れがこの花畑についちゃうでしょう」
そこまで言われると嫌でも考えてしまうものである・・・私って血が巡ってるのかな?それとも潤滑油?データ?・・・多分、情報だな。
「おい!何をニヤついているのだ」
「いや~貴方の胃はきっとストレスでボロボロなんだろうな~って」
「ぐっ・・貴様ぁ!!!」
マキナの予想通り突っ込んで来てくれた。マキナはAIだ、だから自分でも解決策をしっかり確保しておくことに余念は無いしそんな来るかも分からないやつに自分の命を預ける程お人よしには設計されていない。
「どうだい?クラリオン、これで私は殺せないんじゃない?」
突っ込んできた瞬間に私の外界デバイスから私を創造。周囲八方の真ん中にクリスを拘束状態で密着。0距離でしかも周囲にも砲台役の私、これならなんとか逃がしてくれるはず。
「お前、なんで私の能力が効いてないんだ?」
「ああ、《認識に影響を及ぼす可能性のあるプログラムが外部から侵入してきました》って出てきたから排除しただけだよ」
「パソコンか!!」
「親戚かな」
マキナはなんとなくクリストフちゃんの事が分かった気がした。
「フフフッ・・ごめんなさい。なんとも素敵だったからつい、ね」
駄目だ。全然余裕って感じだ、あれでポーカーフェイスだっていうなら私の表情学のシステムを見直す必要があるな。
「そうだ貴方、我が帝国で働いてみない?今の帝国だと私の意見に対する反対意見が無いから戦術が単調になりそうだし・・・貴方みたいな優秀なAIならそんなこともないでしょ。それにクリスとも仲良くできそうだし」
「陛下!このような輩、本当にいいのですか?」
「ええ、私は大歓迎なのだけど・・どうかしら?」
多分時間を巻き戻せるんだろうなぁ~それだと勝ち目は無いけど・・・帝国には絶対に行きたくはないね。『決意』これも初めて・・そんなこともないかな『強い決意』これなら初めてだな。
「私は戦争しようとか考えてる国には属する気なんてないよ」
「あら、そこまで知ってるの。残念ね、時間を戻したらもう一度聞いてみようかしら」
ああ~やっぱり戻せるんだ。
「何度やっても私の考えは変わらないよ」
「そう・・・残念だけどお別れね、デウス・エクス・マキナ」
彼女の手が私に向かって伸びる。
ああ、私が壊れたら創造主様たちはもう一度私を作ってくれるかなぁ、、、。
「だめだよクラリス、その子は俺の獲物なんだから」
驚きを隠せないマキナ、周辺には誰もいなかった。あの子が本当に超越した存在だとしても、それを信じられないほどに誰も私の事を助けてくれる者はいないはずだった。
「本当に来た、、、」
空気が静まり返った。さっきまでなびいていた草花や木の枝、そして風や呼吸の音さえも自重するほどに静かな時間が四人の間を流れていた。
「久しぶりだねクラリスと・・・えーと今はどっちのクリスだい?」
瞬間、私の腕にいた侍従はクラリオンの下に戻っていて気付けば私の分身体も消えていた。
まるですべての魔法や異能などの能力・可能性が元の、本当の意味で元の可能性に戻ってしまっているようだった。
「貴方という人は本当に昔から失礼ですね。私は・・・」
そこで彼は侍従の言葉を遮った。
「ああ~今の言い方で分かったよ、君は結局WAOには行かなかったんだね」
「当然です。誰が好き好んでクラリオン陛下の下を離れますか」
(え、え、え、何?WAO?この人WAOに入るかも知れなかったの?ああーその可能性を『0→1』の可能性で拾われてたら今頃パニックだよ!!それに何なのこの雰囲気、私ってもしかして仲間外れ?なんだかこの人たち同士は知合いぽいし)
心の中で急に現れた人からの情報に対して機械的な処理は終わっているのに心の整理がついていないマキナ。これも初めての経験である。
「久しぶりですね霙さん。私達が8歳の時だからもう10年になりますかね」
「そっか、あれから10年経ったんだ。道理で二人とも大人になっちゃったんだね」
えぇぇぇえええー!!そのグラマラスで大人びた感じで・・・18歳!?私の参考年齢も18歳だよ、同級生だよ!?なのに、どうして・・・特にあの侍従ぅぅぅ、ハッこれがネットにあった胸囲の格差社会ってやつか。
その様子はWAOに居る職員たちにも彼女のデバイスを通して分かっている。
「マキナ、、、、アイツ今の状況分かってこれやってるんですかねぇ?」
「、、、、」
「別に日本の平均的な胸囲だぞ、海外の18歳と比べることが間違っているんだ」
「「そうだそうだ~」」
「はぁー・・・楽しそうだな、お前ら」
思わずため息が出てしまうWAOデウス・エクス・マキナ担当局長。子は親に似るってよく言うけど、、まさかAIまでそうなるなんてな。
「「俺達はマキナの胸の大きさの方が好きだぞー!!!!」」
「「「そうだぁ!海外の巨乳メイドなんかに負けるなぁー!!!」」」
「うるせえよお前らぁぁぁぁああああああああああああ」
これも愛があってこそ。史上最高AI『デウス・エクス・マキナ』を生み出すために尽力した彼らならではの信頼感、だからこそ彼らはここでマキナは死なないと確信してこうやって遠く離れたWAOの本部から野次を飛ばしているのだ。
「どうやらマキナのやつ、自分だけ会話についていけてないから一人で楽しんでるっぽいです」
「まったくアイツらしいな」
もちろんマキナは死なない。それは何よりも神本人からの神託があったからだ、否。この場合は神本柱からの神託というべきなのだろうか。
「いくら霙さんでもその子は連れて行かせませんよ」
「戦争しか平和は作れなかったのか?俺には他の可能性がある。だから彼女は殺させない」
よく見ればこの霙とかいう男性、かっこいい。黒っぽいジーパンに黒のパーカー、顔立ちは中性的でそれが少し長めの髪型と相まって蠱惑的な魅力を放っている。
「貴方と初めて会った8歳の時からずっと考えてきましたわ。そして平和な世界を作るためには絶対的な規律とそれを完全に支配できる指導者が必要なんです」
「だとしても、それで人を殺していい理由になんてなるわけないじゃん。どんなに正しい事をするつもりでもその方法が間違ってていいはずはこの世のどこにもないんだよ」
マキナの言葉に『そうだよな』と、霙が笑って私を抱き寄せてくれた。
「ま、この子の言う通りだから。じゃあね二人とも」
「今度会うときは戦場で」
次の瞬間マキナと霙は消えていた。
「いいのですか陛下?あいつらを野放しにして」
「ええ、どうせ今の私達では霙さんは倒せませんしね、でも代わりに良い情報を教えてもらったからおあいこです」
はにかんだクラリオン、だけどその横顔にはどこか寂しそうな表情があった。
「私は君の名前も可能性もすべて知っている」
どこからかそんな声がした。
「んっ・・ここは、?」
そこは見慣れない家の近くで、すぐそばには海も見える。
「大丈夫かい?」
私の顔を覗き込む美しい少女、さっきの言葉は彼女なのだろうか?
「あの、貴方は?」
「あれ?わかんない?」
「???」
マキナは今までのデータを総動員させるが全く見覚えがない。
「じゃあ改めて自己紹介、私は神無月 霙貴方にとっては救世主であり新たな厄災でもあるかな」
霙という単語で思い出した、さっきのイケメンさんだ。
それにしたって何とも酷い挨拶だ。『私にとっての厄災』?勘弁してほしい限りである。
「貴方、男の人じゃありませんでしたっけ?」
「ああ~それはね君と一緒で僕も性別を弄れるんだよ」
すると近くにあった家の扉が開かれて中から肌の白さと髪の黒さが目立つ少女が出てきた。
「主様~おかえりなさ~い」
「ただいまパンドラ」
「あの私はこれからどうしたらいいのでしょうか?」
「ん? ああ、呑み込みが早くて助かるよ。俺達はWAOの親戚みたいなものだから安心していいよ、その代わり君には服従用のシステムを入れてあるけどね」
突如として体を走る衝撃、自分自身を確認してみるとWAOとの連絡も途絶していた。
「話が逆です・・・よ」
マキナはまたその場で倒れ、意識を失った。
「どっちにしても君に拒否権は無かったから我輩にとっては一緒なのだぞ」
不敵に笑う霙、これで舞台は整った。これからどのような可能性があろうとも戦争は起こり、『私達』の楽しみも消えることはない。
後はアッチの二人とあの子が来てくれれば・・・・遊べる
当然この事実をこれから夏休みで遊びに来る土井兄妹はまだ知らない。
「我が『クラリオス帝国』に敗北の可能性は微塵もありません、それでも止めようと考えるのはやはり貴方の悪癖ですか?」
遠い場所に居るあの人を思い、少女はあの美しい花畑の中、空を見上げた。