Another of story:パンドラ編
あれ・・・私は何をしてたんだっけ?
響き渡る轟音と火薬の臭い。
「おい!何やってる!!早く次を殺してこい」
そうだった・・・私、戦争の道具だった。
とある国の兵器として生み出された私を相手も味方も北欧神話の災厄をは運んだ女性になぞらえて『パンドラ』と呼んだ。
「分かりました」
そう言って私は言われた通りに人を殺す。そうしなければ自分が殺されるからなんて理由は無い。私にあるのは自国の人の言うことを忠実にこなすこと・・・それだけ。
「はぁ~どうして上の連中は俺達よりも良い場所と良い食事と高い給料もらってるんだろなぁ」
「そりゃあ・・頭を使ってお国の為に戦ってるからだろう」
「でも、それを成し遂げるのは俺達だけどな」
「ちげえねぇ」
「「「はははははは」」」
楽しげな兵士たちの声、その隅で私は兵士たちの性欲と疲れを癒す任務をしている。つまりは都合の良い、戦争の為に必要な『モノ』それが私。
「こいつ、いっつも無表情だよな」
「止めとけ止めとけ、言ったって無駄だし、第一戦争中にこんだけの上玉なんだから文句言うな」
「へいへい」
「・・・・・」
何も感じない身体。何も感じない心。毎日毎日、銃を手に取り戦う・・・でも変化は唐突に訪れた。それが『0→1』の可能性とWAOの平和主義による戦争中止だった・・・だがそれも長くは続かなかった。
「『我が百の銃口よ!侵入者に鉄槌を下せ!!』」
いつの日かWAOの人間は来なくなった、そして『0→1』の可能性によって激化する戦場。私の『0→1』から授かった可能性は『パンドラ』の力だった。
「行け!!パンドラ。さっさとアイツらを滅ぼして次の激戦地に向かうんだ」
「分かりました・・・」
私は胸の前で両手を使って入れ物を作り、唱える。
「『開け災厄よ・・・全ては我が手中にあり』・・・・はああっ」
闇がすべてを飲み込んだ・・・あたりには死体と更地。『0→1』が人々に授けた可能性は簡単に言えばイメージの具現化に近いもので、それは自身のイメージの精密さによって変わるのだ。だからこそ戦場であるこの場所の能力者達は皆、自分の力を高めるためにイメージしやすい力強い言葉を使っているのだ。
「よし、次は南側に行け」
「分かりました」
最早、作業する機械である。私は言われた通りに南側の激戦地に急いだ。
「・・・・・・・」
そこで私が目にしたのは誰もいない平地・・・まるでそこだけ時間が止まっているかのような感覚。その日から私の国は無くなり、国民も戦争も私の生きる目的も私は失ったのだ。
行き場をなくした私は生きる意味がないならと、海に出た。そこで自殺するつもりであったが私の『可能性』がそれを許してはくれなかった。
そもそも『パンドラ』とはゼウスによって人間達を陥れるために作られた『女』なのだ、そしてパンドラは神々から様々な事を教わった後にゼウスからすべてが入った壺をもらい、人間界に行く。好奇心に負けたパンドラは壺を開けてしまい壺の中から災厄が溢れ、人間界には災いが尽きなくなったというのが彼女の話だ。
「どうして?何故死ねないのですか?」
その問いに答えるものはいない。
「私は殺すことしかできないのです。新天地でも人を殺せというのですね」
勝手な解釈によって彼女は新天地でも殺戮の限りを尽くし、いつしかWAOから狙われる日々。だが彼女は満足していた、だって戦う相手が出来たのだから。
「どうしてそこまで人を殺す?その力があればどれだけの人が救われるか・・・いいからもうこんなことはやめるんだ」
説得を試みるWAOの戦闘担当員。だが彼女は無表情でその担当員を腹を手で貫く。
「貴方は間違っています・・・まずこの力は災厄ですので人は救えません。それに殺したくて殺しているのでは無いのです」
「がっあぁ・・・」
「それ以外を私は知りません」
また人を殺した。何も感じずに・・・どうしてなんだろう。前よりも満たされないのは。
殺戮をしては次の国。それを数回繰り返したある日、今度は彼女と出会った。
「WAO対能力課、ルーナ・エクリプス・クリストフです。対象『パンドラ』貴方を拘束させていただきます」
「・・・・・・・」
戦闘はクリスが拳銃を抜いた瞬間に始まった。
《パン》と二回銃声が鳴る。それをパンドラは能力と体をひねることで回避する。
(この子相当出来る・・・これじゃあ私でも勝てるかどうか)
ルーナ・エクリプス・クリストフの可能性は『可能性の無効化』である。その為、他の隊員では対処不能な能力者の場合は彼女が戦うことになるのだが今回ばかりは違う。相手は軍の格闘を体得している兵器で、こちらは格闘などの技術が多少高いだけの人間。能力無しの格闘戦などが彼女の武器だが相手の格闘技術は達人の域にまで達しようとしている・・・でも諦めるわけにはいかない。
「私が負けたら、貴方はまた人を殺すでしょ?」
相手は反応を示さなかったが、その殺気に満ちた目と的確な攻撃方法を見れば誰もが分かる。彼女はそれしか知らないのだと。
「だったら貴方はここで止める!!」
二人の戦いは過激だったがクリスの能力のおかげで見た目以上に周りの物は壊れてはいない。体術においてはパンドラの方が優位だったがクリスにはいくつかの飛び道具があるため戦いに終わりはまだ訪れないと思われた・・・が、街に濃霧が出始めたところで別の敵対者の気配を感じ取ったパンドラがクリスから距離をとった。
「くそっ霧で前が・・・・逃げるなパンドラ!!お前は私と闘いたいんだろう!!」
(この気配・・・さっきの女とは比べ物にならないくらい強い・・・今は武器が乏しい、撤退だな)
街を包んだ濃霧に紛れて撤退するパンドラ。しかし気配から逃れることは出来なかった・・・ついにパンドラは気配の正体との戦闘を決意する。
(遊ばれている・・・今も、直ぐにこちらに攻撃できる距離にいるのに何の予備動作もない。ここは戦うしかないようだな)
パンドラは曲がり角を曲がった後すぐに振り返り、後ろ一帯を自身の能力で埋め尽くした。
「姿を見せろ、ただ追ってきたのではないのでしょう?」
彼女の問いかけに答えるように濃霧が晴れる。パンドラが立っていたのは周りには何もない草原で、隠れる場所などどこにもないはずなのにその美しく幼い少女は突然パンドラの前に姿を現した。
「貴方のその可能性・・・人を救うことも出来るんだよ。だから私があなたを導いてあげる」
薄い紫のエプロンドレスを着た長い白髪の幼女。そう、それがパンドラと霙の初対面だった。
「霙と一緒に居てくれない?」
「・・・・・・・」
本当に先程の気配はこいつなのか・・・でもまぁ殺すことには変わらないか
「きゃっ」
パンドラの黒い職種の高速攻撃に思わず目を瞑る霙。
「な・・・防御無しで、無傷だと」
圧倒的な力量差、それは彼女にとって殺されるにふさわしい相手。ようやく彼女の心は満たされた。
「うん、じゃあ霙と一緒に善行しよ」
でも、相手は殺してはくれない・・・自殺も出来ない・・・もう、どうしようもない。
「どうして殺さないの?」
「だって、貴方は優秀じゃない!それをいちいち殺してたら人間がゴミしかいなくなっちゃうもの。そんな世界を私は満足は出来ないわ」
意味が分からなかった。つまりはこの期に及んでも私は誰かのモノなんだと、再確認した。
「パンドラちゃん。貴方の可能性は『すべてを持っていること』なんだよ・・・だからアタイは私に似てる貴方を見捨てないし、誰かの道具にもするつもりはない」
「でも、自分の道具にするつもりじゃん」と心の中で悪態をつく。
「違うよ・・・君は自分の意志で僕の下に来るんだ。それが紫雲の力だもん」
最早話にならない。さっきは霙、今度は紫雲と言ったこの少女・・・・どれほど自分を隠したいのか、パンドラには想像できなかった。
「じゃあ、お友達だねパンドラちゃん」
(そういえばさっきも名前を・・・まさかWAO関係者?)
「貴方、WAOの人間?」
その質問で霙の顔から笑みが消え、小首を傾げながら冷たい目でこちらを見ている。
「違うよ。名前を知ってるのも私達も『霙お姉ちゃん』だよ?・・・ギヒヒヒヒヒぃ」
気味の悪い引き笑いに思わず後ずさるパンドラ。その隙をアレは見逃さなかった。
「行け」
《ギュッグググゥウ》突然に耳に響く異音。まるで直接耳に何かを押し入れるよう・・な・・。
「あ・・・っああああ」
「これで貴方は私に命を救ってもらった恩で生きる『とってもいい子』・・・ふふふ素敵でしょ」
肌色の触手の様な、スライムの様な、、耳から脳に入った侵入者はパンドラを洗脳して侵略者の都合のいい駒に作り替えていく。
「パンドラー早くおいで~」
「分かった、待ってて主様」
私はパンドラ。名前以外なんにも覚えてないけれど、今は命の恩人である神無月 霙さんと一緒に暮らしています。
「ホント、俺とお前って似てるよな」
「え~そうですか?何処が似てるんです?」
「可能性の幅」
「???」
ちょっと不思議でミステリアスを通り越して謎の多いヒトですが素敵な毎日を送っています。
(これで四人目・・・これで確実に世界は救われる)
思いをはせるミゾレ・・・これは創造期において後世に名を遺す空前絶後の存在『神無月 霙』の物語である。




