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笑顔でいよう。

「東京コミュニケーション。人見知りするか。海開きのシーズンだぜ。私、泳げないけど、砂交じりのコミュニケーション。人見知りするかぁ。はっ」

「葉月さん、この曲、僕、初めて知りましたよ。しかも、アカペラで」

「こ、これさ、シンガー板尾さんの海開きって曲なの。一郎君に笑ってほしくて」

「わ、笑えました」

カラオケ屋さんで海開き。一郎君は、エレカシの哀しみの果てを歌った。それにしても一郎君、歌がうまいなぁ。私はマルボロに火を点け微笑む。

「葉月さん。人生はスロースローでいきましょう」

「そうだね」

キスを一郎君と交わす。愛してるよ。こんな、私に幸福が巡ってきた。

一郎君を抱き寄せた。また、キスを交わす二人。私は椎名林檎の幸福論を歌いに歌う。そうすると、電話が鳴る。

『お時間10分前です』

『あ、ありがとう。帰ります』

『了解しました』

「葉月さんって、可愛いですね。僕の自慢の彼女です」

「あ、ありがとう」

「葉月さん。僕のわがままを一つ、聞いてもらえませんか」

「何かな。葉月お姉さんがわがままを聞いてあげよう」

「さ、砂丘へ、ドライブに連れて行ってくれませんか」

「うん。勿論」

一郎君の香り。優しい香り。運転手は葉月。車掌は一郎。今日は寒いなぁ。四月物語だ。まさに。


助手席の一郎君。神の子、そのものだ。砂丘へゴー。可愛い彼氏、一郎君。本当に結婚しよう。ウィンカーは右。砂丘へゴー。あ、雨だ。雨が急に降りだした。

「一郎君。雨だね。私って雨女なのかなぁ」

「い、いえ、そんなことないと思いますよ」

「一郎君、こんな歌を知ってるかな」

私は口ずさんでしまう。思わず。思わず。

「エキゾチックポリス逮捕しちゃうぞ。海開き。お前、やるんかぁ。いつでも俺は海開きの目に遭うか。はー」

「だ、誰の曲ですか」

「シンガー板尾さんだよ」

「な、何か、哀しいですね」

「そ、そうだね」

笑いだした二人。砂丘へ5キロの標識。そうだなぁ。一郎君にやっぱり笑ってほしくて。

「えーっと主役がかわいがっているテナガコウモリを風呂に入れる、孫ギャル役のケンちゃんです。主題歌のほうも口ずさんでいるのですが、まぁ、シェフの気まぐれサラダ。という感じで頑張りたいです」

「は、葉月さん。なんですか。そのシェフの気まぐれサラダって。板尾さんですか」

「そうだよ」

「葉月さんって可愛いですね」

「それ、口癖になってるよ」

あ、雨が上がった。太陽も見える。砂丘に、到着。

「葉月さん。僕、海が見たいので、先に行ってますね」

「うん。わかった」

煙草もやめなくちゃなぁ。喫煙所へとぼとぼと歩く。砂丘への階段を登ると一郎君がしゃがんで海を見ていた。母の帰りを待つ少年のように。何か、この時、私は哀しさを知ったんだ。一郎君の背中を見たら、哀しさを深々と知った。

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