こぼれおちるもの。
「ミラクルファイトでー渚のロケンロー」
私は、こぼれおちるものをこの道に置いて。自転車に乗って、ホテルへと帰る。それにしても放火だなんて。一郎君を抱きしめたくなった。神様、ひとつ、お願い。一郎君を一生、愛せるように、こんな私に愛をください。それだけでお願いします。あっ噂をしていたら、神社だ。ちょっと立ち寄ろうか。よいっしょと。自転車を置いて。二拍一礼。『一郎君を一生、愛せましょうに』と五円玉をお賽銭に入れた。そうこうしていると、白い子猫が私に近寄ってきた。
「どうしたの。白猫ちゃん」
「ミャー」
「お腹が空いているんの」
「ミャー」
「そっか。ちょっと待ってて。私がご馳走してあげるよ」
「ミャーフグフグ」
私は、また、あのコンビニへ自転車に乗って。ちょっと人生をスローダウンしようか。コンビニに到着。チーズと缶コーヒーをお買い上げ。白猫ちゃん、少し待っててね。喫煙所にてマルボロを吸う。藤原のおじちゃん。辛かったんだね。今のおじちゃんは素敵だよ。一生懸命にラーメンを作って、私たちの幸せを願ってくれる。素敵だよ。マルボロ。紅白めでたい、素敵なカラー。私はマルボロを吸い終わり、吸殻をもみ消す。
自転車ってなんだかいいなぁ。汗だくだ。私もそんなに若くない。でも、元気な体。
「ミラクルファイトで地を駆けろー」
と楽し気に。あっという間に神社に到着。いたいた。白猫ちゃん。私を見つめてくれている。
「待たせてごめんね。はい、私からのご馳走だよ」
「ミャー」
白猫ちゃんは、チーズを美味しそうに食べている。ああエキセントリック。一郎君とカラオケへ行こうかな。
「白猫ちゃん、それじゃーね。お互い頑張ろうね」
白猫ちゃんのにくきゅうと握手を交わし、ホテルへの道を堂々と行く。一郎君。待っててね。
「葉月さん。大変なことになりましたね。教習所。僕は大丈夫だけど、放火した犯人も教習所の例のホモにパワハラを受けてたみたいで、それが理由で放火したとニュースで、やってました」
「怖いよね」
「はい。火は本当に怖いです」
私は一郎君にキスをして、そのまま、ベッドへと。一郎君の香り。一郎君の優しい体。愛してる。愛してる。どこまでも。
「一郎君。カラオケ、行こうか」
「はい。僕もそう思ってたところです」
私は着替えて、シャワーを浴びる。ほんと、頑張らなきゃ。
フロント。松本の社長さんとミケ。それを写真に収める一郎君。おっ、カメラのモニターを見ると、ミケガ招き猫。その横に笑顔の松本の社長さん。適当に出来ない、私たちの物語。
「社長さん。ミケのこと、ありがとう」
「何をおっしゃいますやら、田中様。白いワンピース、お似合いですよ」
「あ、ありがとう」
「大山様。田中様はおきれいでございますね。羨ましい限りでございます。これから、おデートでございますか」
「はい。その通りです。社長さん、この一枚、見てください」
松本の社長さんが一郎君のカメラのモニターを見て、幸せそうにこう言った。
「大山様。もし、よろしければ、この写真、我々、湖山シティホテルにお恵みくださいませんか」
「はい。勿論。僕でよければ」
「ありがとうございます。この一枚を見て、ほっとしました。勿論、プリントは私どもやらせていただきますので、今日のおデートのあと、フロントにカメラをお願いいたします。我々のポスターに使わせていただいて、よろいしでしょうか」
「はい。僕でよければ」
ミケガ毛づくろい。一郎君。あなたの嘘一つ、偽り一つない、存在が嬉しくて。
「それでは、大山様、田中様、いってらっしゃいませ」
私は言った。幸福の中で。
「いってきまーす」と。こぼれおちるものは幸福だってそうだ。この一秒一秒を私は一郎君と愛したい。