存在。
一郎君がグースカと眠ってる。私はコーラを一気に飲んだ。服を脱ぎ、ブラジャーとパンツを外して、バスタブに漬かる。私、少し、痩せたかなぁ。まあ、いいや。髪、切ろうかなぁ。今の私。肩まで、髪を伸ばしてる。髪を切ったら、一郎君はいやがるかな。いや、彼は、全ての物事を肯定する。ちょっと短くしようか。「迷ったら実行」。陽子がよく、私に言ってたよ。陽子は元気かな。ミラクルぅうううううう。そうだ、藤原のおじちゃんのところへ、遊びに行こう。私は熟睡する一郎君の腕にキスをして、部屋をでた。
えっ。エレベーターにミケの大きな写真が飾られている。松本の社長さん。相当、ミケを愛してくれているんだな。フロント。社長さんが笑顔。
「社長さん。さっきのアナウンサーっぽい人と私。どっちがタイプなの」
「いや、はや、その、はい。素直になります。田中様でございます」
「ほんとに」
「はい。実は田中様は、私の初恋の女性とよく、似ていらっしゃいます。大山様が、大変、正直、羨ましく思っています」
「へえ。その初恋の人と私、どっちがかわいいの」
「それは。。」
「冗談だよ。社長さん。初恋は初恋。ミケはミケ」
ミケが毛づくろい。幸せそうに。座布団の上に堂々と座っている。猫はいい奴等だ。世界中。始めようかな。『田中葉月の湖山ネコ歩き』思いっきり、パクリだ.笑っちゃおうっと。この際。第27代アメリカ合衆国、大統領より、ミケと一郎君とこの街が好きだ。
「あっそうだ。社長さん。レンタルサイクル、このホテルにあるんだよね」
「はい。ございます。一台、ご用意いたしましょうか」
「うん。これ、私の身分証明書。免許書ね」
「かしこまりました。田中様。ただいま、コピーをとらせていただきます」
ミケの頭を撫でる、野球帽をかぶった少年。凄く、嬉しそうに。いきなり、その少年に話しかけられた。
「お姉ちゃん、僕、ミケに会いに来たんや。ネットで見てな。お姉ちゃんはなんなん」
「なんなんって。そうだな、ミケの親友だよ。君、いくつなの」
「今、小学五年生やで。尼崎から、来たんや」
「かっこええな。関西弁。私、食べごろよ」
「どういう意味か、わからん事、言わんとき。なあ、ミケ、ほんまにかわいいな」
少年とのお喋りを楽しみ、私は自転車にまたがった。自転車で藤原のおじちゃんに会いに行くよ。あっ、青い看板にヤマシタ美容院という文字。噂をすれば。なんとやら。ああ、汗だくだ。ダイエットにはいいかもね。でも、コンビニで一休み一休み。私が自転車を店の前に停めると、消防車のサイレンが鳴り響く。私は消防車に縁のある女だ。この人生の中で8回、山火事を目撃している。坊主頭の店員さんに聞いてみる。
「どこが火事なの」
「どっかの教習所らしいですよ。誰かが火を点けたって。物騒ですよね」
スマホを覗く。えっ。一郎君がお世話になってる教習所じゃないの。やばいよ。これ。そうすると、着信音が鳴った。
『葉月さん。僕の教習所が火事とのことで、放火で犯人が逮捕されたみたいです』
『放火。。犯人って誰なの』
『僕と同じように、合宿免許でこっちに来てた、北海道の二十歳の大学生らしいです。僕は大丈夫ですから、葉月さん、サイクリング、楽しんできてくださいね』
『わ、わかった。とりあえず、藤原のおじさんのところへ行ってみるね。一郎君、ほんとに大丈夫』
『大丈夫です。藤原さんによろしくお伝えください』
放火か。この世で一番怖いものは火だ。昔、私が住んでた街のパン屋さんが食中毒を出して、そこの店長さんがガソリンを体に巻いて、焼身自殺したんだ。もう、いいや。おじちゃんのところで何か美味しいものを食べようっと。
私は自転車に乗って。