人を愛する哀しみというもの。
藤原のおじさんは笑顔を絶やさない。一生懸命、チャーシューメンを汗だくになり、作っている。一郎君は、煙草に火を点けて。
「そうだ、そうだ。シティホテルの社長の松本さんが、おじさんによろしくって言ってたよ」
「おお、あいつか。松本。あいつ、元ヤンやで。俺が言うのもなんやけど、あいつ、元ボクサーやったんよ。怒らせたら、怖いで。葉月ちゃん。そうや、あいつとバクチしたんよ。10万かけて。もし、松本が社長になったら俺から10万。もし、なられへんかったら、俺に10万。あいつな、シティホテルの駐車場の管理人から、はいあがってな。ホテルの雰囲気が好きらしいわ」
「ああ、そうなんですか。確かに、松本社長、目元が何か、男らしいというか、凛々しいというか。カッコイイですね」
「一郎、わしはどうなんや」
「男の中の男ですよ。忠誠を誓いますよ。藤原さん」
「よかろう。はい、葉月ちゃん、一郎。チャーシューメン大盛」
何か幸せだった。心の底から。一郎君の笑顔と藤原さんの笑顔。でも、この幸せが壊れてしまうんじゃないかな。と一瞬、思ったチャーシューメンが美味い。ミケ。お前も幸せか。私はチャーシューメンを食べる一郎君を見て、愛してると。心から愛してると思ったんだ。私は、一郎君になりたいほどに一郎君依存症。テレビをぼけーっと観てた。この国は、光ある国。一郎君は写真の撮影に夢中。私は少しだけど、人を愛する哀しみを覚えた。哀しみか。
「葉月ちゃん、どないしたん。さっきから、沈んでるで。何かあったんか」
「おじさん、なんでもないよ。ちょっと、考え事をしてただけ」
「そうか。女は笑顔がなんぼやで」
「了解しました」
「一郎、免許の方はどうなんや」
「ちょっと、色々ありまして」
「色々ってなんや。おっちゃんでよかったら聞くで」
一郎君は、おじさんに昼間の惨事を話しだした。でも、一郎君は笑顔でこう言った。
「大丈夫ですよ。僕。何とかしてみせますから」
おじさんも煙草片手に続ける。
「なんかあったら、わしのところへ言うてこいよ。せやけど、その校長、許せんな」
「大丈夫ですよ。僕には幸運の女神、葉月さんがついてますから」
「そうやな。お前等、結婚してまえ」
私も笑うことを選択した。結婚か。おもわず、言ってみた。
「一郎君、結婚しようか」
「いや、あの、その、はい。僕で良ければ」
「じゃあ、私、一郎君の奥さんだ。可愛い子供を産みまっせ」
「本当に僕でいいんですか」
「うん」
藤原のおじさんが、笑った。幸せそうに。
「一郎。ここは、もう、葉月ちゃんの勝ちや。わしの知り合いで神父をやっとう奴がおるからよ、そこの教会、紹介したるわ」
「やったー。私、一郎君と結婚だあああ」