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第8話



 なづきは素早く移動し、1階にあるコントロールルームを目指す。コントロールルームはビルの奥に位置している為、辿り着くまでに少し時間がかかる。ビルは比較的新しく、清潔感がある。白い大理石の床に、左右の壁は黒い木目調のシックなデザインになっている。人影は見当たらない。監視カメラは所々についているが、セキュリティーを解除する時にウイルスを送り込み破壊した。

しかし、更になづきは警戒する。


 特殊部隊が、クリミが立てこもっている37階の会議室に突入してくるまでには、人質がいる事などを踏まえ、ある程度時間が掛かると考えられる。しかし、ここ1階部分には、地上に控えている捜査員がすぐに踏み込んでくるかもしれない。今、現場を仕切っているのは叩き上げでやり手の納屋橋だ。余裕はない。迅速かつ冷静に任務を遂行しなければならない。


 なづきは、コントロールルームの前に辿り着いた。真っ白な扉がある。扉のすぐ横には、パスコードを入力する為の小型の装置が備え付けられている。なづきは銃火器型のギアを取り出し、構える。そして、まるで自宅の鍵を開けるように、パスコードを入力する。ロック解除を知らせる効果音と共に、扉が横にズレて開く。なづきは素早く壁際に身を隠し、中の様子を探る。


  人の動きはない。それどころか、これは……


 閉まろうとする扉に身体を滑らせて、コントロールルームに侵入した。


 これは、酷い。


 そこには、コントロールルームに詰める監視員、警備員たち職員が、血の海に伏していた。被疑者は、ここでエボルヴァーを使ったのだろう。 辺りに飛び散る血液、肉片。警備員達の遺体は、原型を留めていなかった。コントロールルームの設備や、メインコンピューターも所々破損している。


 ゴミ野郎が。


 これでは、コンピューターもまともに動いてくれるのかどうか――  


 なづきはすぐに操作盤のタッチパネルに手をかけた。ビルのセキュリティーを解除してからここまで、なづきは表情を一切変えていないただ、その脳みそと指先だけは、激しく活動していた。大丈夫、必ず目的は遂げる。








 荘子は、すぐにでも突入したかった。


 ビルのセキュリティーを解除したのはスカムズだ。おそらく、彼らはもうビルの内部に侵入している。もう1秒だって躊躇することは出来ない。すぐにでも走ってビルに入りたかった。


 しかし、荘子は踏みとどまった。


 こんな事態を引き起こしてしまったのは、わたしが勝手に動いたからだ。スタンドプレーは、組織の連携を乱す。そして、これ以上父に迷惑はかけられない。荘子は拳を握り、ぐっと堪えた。



 納屋橋は無線で何度かやり取りをし、そして指示した。


「突入だ」


 その掛け声と同時に、屋上からロープで吊られ、38階の窓ガラスに張り付いていたEV特殊部隊は、37階の窓ガラスを突き破り会議室に進入した同時に、剛と荘子、スカムズ対策室の捜査員もビルに向かって走り出した。


「お父さん、コントロールルームに行こう」


「コントロールルーム?」


そこに行けば、このビルの全てが把握出来る。セキュリティーが解除されてから、もう3分以上経過している。恐らく、被疑者はすでに殺害されているだろう。そして、スカムズは今まさに脱出しようとしている。わたしがすべき事は、ビルの全容を把握し、スカムズの退路を、断つこと。



「うん、コントロールルームに行けば、スカムズの手がかりを掴めるかもしれない」


「あ、あぁ、わかった」



 剛は、スカムズ対策室の部下に指示する。



「対策室捜査員は総員、コントロールルームへ向かえ!」



 まるで城攻めのように、捜査本部、機動隊、無数の捜査員達がビルに向かって突入する。








 エレベーターの竪坑を上昇する中、マキナは、タイミング良く志庵の身体から飛び降り、扉の内側に張り付くと、再びギアを使って扉をこじ開けた。そこは、茶色の木目調の壁にシルバーの文字で37の数字が記されたエレベーターホールだった。


 すぐに志庵もエレベーターの竪穴から飛び降りてきた。2人は、すぐ目の前にあった会議室の大きな扉に張り付き、耳を澄ます。中から、男の喚き散らす声が聞こえる。マキナは志庵を見て頷き、志庵も頷く。マキナは、会議室の扉を蹴破る。と同時に、志庵が煙幕を中に放り込む。



「な、らんだぁ!?」



 被疑者の叫ぶ声。被疑者はエボルヴァーによって精神を侵食されている為、神経が破壊され、呂律が回らなくなっている。


 志庵の煙幕により、会議室は煙に包まれ、視界がゼロになる。その瞬間、マキナはすでに被疑者の背後を捕えていた。


 マキナの持つナイフ形のエボルヴァー『ハイン』の刃が明るい黄金色の光を放ち、今まさに被疑者の心臓を捕えようとした時、



「うわわわわぁぁ、く、くゾがぁぁァァァァ!」



 被疑者は叫び、右手に取り付けられている銃器型のエボルヴァーを会議室の隅にかたまっている人質の方に向けた。銃口の先には、スーツを着た若い女性の怯える姿や、薄くなった頭を大事そうに両手で庇う年配の男性の姿があった。そして、銃口から、エネルギーの塊が今まさに放たれようとしたその時、被疑者の右腕が吹っ飛んだ。



「アがっ――」



 被疑者の腕と共に、銃器型のエボルヴァーが地面に落ちる。


 志庵の銃火器型のエボルヴァー『アサルター』が、被疑者の腕を捕えたのだ。それと同時に、音もなく、マキナの持つナイフが被疑者の心臓を仕留めた。その刃は寸分の狂いもなく心臓を貫き、鼓動を停止させる。マキナは、倒れようとする被疑者の顔を覗き込んだ。そして、暗く沈んだ瞳で、汚い物を見るように、被疑者を睨んだ。


 お前も、違う。


 マキナは被疑者の顔に、腰のポケットから取り出した朱墨のつけられた筆で大きくバツ印を書いた。そして、被疑者が地面に倒れ込むより先に会議室を飛び出した。その数秒後、特殊部隊がガラスを突き破り、会議室に突入した。


 マキナ達は会議室を出ると、廊下を走り管理用通路に入った。



『サンキュー、助かったよ』


『お礼は新しいコスメでいいにゃ。色々欲しかったんだ』


『馬鹿言うんじゃねぇ、ジュース一本だ』


『にゃはは。でもあのクリミ、あの時右手を撃ったから腕は動かないはずなのに、エボのせいで神経が麻痺してたんだにゃ。こわいこわい』


『だべ、気をつけて使わねぇとな。あぁなったらもう人間じゃねぇ』



 管理用通路に入り、更に奥へ進む。設備メンテナンス用の細い通路に出ると、壁のパネルを外し、下に続く底の見えない通気ダクトを落下していった。



『ひゅー、なかなか迫力あるアトラクションだべな』


『えー、こんなもんじゃみぃは物足りにゃい! きゃはは』


『あー終わった終わった! あとはなづきが上手くファンを止めてくれれば、ラーメン食べてお風呂入って寝るだけ』


『にゃあ、お腹すいたー。もう早く帰るにゃ。みぃ達の暖かい家に』




マキナと志庵は、先の見えない深い闇の中に落ちていく。



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