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第26話



 荘子は壁にかけられた大型の液晶パネルを見つめていた。そこには、院内の見取り図と、捜査員の配置ポイントが記されている。


 予定よりも、更に人員を増やしているな……


 液晶パネルの上には更に大きなモニターがあり、院内の監視カメラの映像が流されている。モニターは会議室の正面だけではなく、会議室の周り全体を囲うように設置され、それぞれ捜査員がモニターを監視している。正面のモニターには、郡上燻の病室の扉が映し出されている。



「白川刑事部長、本当はあなたを捜査に巻き込むの、嫌だったみたい」



 荘子の横にいた沙亜紗が言った。



「先の通り魔事件では怪我をさせてしまったし、磨瀬木巡査の件もあったでしょう。娘にツラい思いをさせてしまったって、居酒屋でこぼしてたわ」



 荘子は、ソファーに座る父の後ろ姿を思い出した。



「それでも、スカムズを捕まえられるのは荘子さんしかいないと思ったのね。だから、荘子さんだけに負担がかからないように、私を呼んだ。だから——」



 荘子は沙亜紗の横顔を見た。長いまつ毛と真っ直ぐな瞳。綺麗な形をした耳。荘子が見つめていると、沙亜紗は荘子の方を向いて、



「今夜スカムズを捕まえて、これで終わりにしましょう」



 と言って、ウインクした。荘子も、安心したように微笑んだ。



「沙亜紗さんって、高校生くらいにみえますよね。下手したら中学生——」


「うるさい」








 時刻は、予告の午前零時になろうとしていた。捜査員の中にも、緊張感が高まってくる。荘子と沙亜紗は平気そうな顔でモニターを監視しているが、真山はブラックコーヒーと激強打破を飲んで眠気に抗っている。



「真山、そんな飲み方してると身体に悪いわよ」



 沙亜紗が腰に手を当てて言った。



「だ、大丈夫ですよ。もうすぐスカムズと勝負するんだから、これくらいは備えておかないと!」



 そう言って、真山は準備体操を始めた。沙亜紗は呆れた表情でキビキビした準備体操を眺めた後、再びモニターに視線を移した。



「荘子さんは、スカムズは悪だと思う?」


「わたしは——」



 今のこの状況下で、意外な質問だった。



「——スカムズの行っていることは、正義や悪では測れないものだと思います。勿論、この法治国家では紛れも無い犯罪者です。でも、アニメや漫画の世界だったら、ヒーローですよね。悪者をやっつけるのですから。スカムズの行いによって、救われている人もいるはずです。この犯罪者に対して寛容な国で、被害者はどこに救いを求めればいいのでしょうか。その答えの一つ欠片が、このスカムズ事件にあるような気がしています。だからこそ、スカムズを捕まえたい」


「私と同じね」


「え?」


「私は悪い奴を捕まえたくて、警察に入ったんだけどね。捕まえても捕まえても、悪い奴は減らないし、ちょっと刑務所に入っただけで出てきちゃう。被害者の方にも申し訳なくて。そんな時、私が捕まえて刑務所送りにした犯罪者を、スカムズが殺害したのよ。身体はどうしたのか分からないけど、生首だけ送られてきた。臓器でも売ったのかしら? まぁそれはいいけど、その生首を見て、正直、心がスカッとしたは——私と荘子さんの2人だけの秘密ね」



 何を言っているのだこの女性は。スカムズ対策室の管理官でありながら。



 しかし、それは荘子が言えた義理ではないが。



「どうして、私に話してくれたんですか?」


「荘子さんなら、この気持ちを分かってくれると思ったの」



 やはりこの女性……油断ならない。女性の勘というものは、馬鹿にできないものなのだ。



「でも、それとこれとは別。今の日本では、スカムズは法を犯す犯罪者よ。警察である私は、全力で彼らを捕まえる」



 沙亜紗は真剣な顔つきになり、正面の大きなモニターを見つめた。



「さて、そろそろ零時を回るわね。真山、寝てない?」


「大丈夫ですよ! バッチリです!」



 捜査員の中に、緊張が走る。会議室は静まり返り、パソコンの音が大きく聞こえる。その時、モニターに映し出された1部分の監視カメラの映像が乱れ、表情されなくなった。



「どこだ?」



 剛が落ち着いた声で言う。



「B棟35階、エレベーターホールです! 破裂音を確認!」


「近くにいる捜査員を向かわせろ。他のものはその場を動くな」



 すると、次々とモニターの画面が『LOST』という表示に変わった。所々で警報が鳴り響く。



「入院患者の安全も確保しろ」



 これだけの大病院だと、入院患者を全て避難させることは出来ない。警察も、自由に立ち振る舞えない。そこも、スカムズに対する利点の一つだった。



「上手く、病室がある棟を避けてるわね」



 沙亜紗が言った。病室がある棟を攻撃しないのは、眠ってる患者さんを起こさないようにしよう、というマキナ達の提案だ。



「あくまでも、スカムズの狙いは中央棟にいる郡上燻です。冷静に、中央棟の守りは崩さないで対応しましょう」



 荘子が言った。



「あぁ、そうだな。中央棟連絡通路、異常はないか?」


『はい、異常ありません』



 問題となっているポイント、連絡通路。ここで、荘子が鍵となって突発する予定だ。その為の道具が、荘子の鞄の中に納められている。荘子がいないと、ここを通り抜けるのが困難になってしまう。


 どうやって抜け出そうか。


 厄介なのは、沙亜紗だった。下手なことをすれば、怪しまれてしまう。彼女は、剛より大分鋭い。


「スカムズの姿は?」


「確認出来ません!」


「郡上燻病室前、異常はないか?」


『異常無しです』



 ここはもう、力技しかないな。


 荘子はそっと、ポケットの中のスマホの画面をタッチした。その瞬間、激しい破裂音と共に、真っ黒になった。会議室の電源が落ちたのだ。



「きゃあ!」



 荘子は転ぶ振りをして、暗闇の中でデスクの角に自ら頭を打ち付けた。激しい痛みと共に、額から生温かい液体が流れ出てくる。そして、すぐに電源は回復した。



「荘子さん!」



 床に倒れ、額から血を流す荘子に沙亜紗が駆け寄った。沙亜紗は鞄からハンカチを取り出すと、荘子の額に当てた。



「担架持ってきて。早く!」


「はい!」



 荘子は担架を持ってきた看護師に運ばれ、会議室を抜け出した。


 理想の世界を創る為なら、こんな傷や痛みなど、なんでもない。









 特殊閉鎖病棟に続く地下連絡通路。通路は複数の捜査員と、EV機動隊で塞がれていた。そこに、志庵によってキツいお仕置きを受けた変態ドM医師鷹遠が姿を現した。



「先生、どうされました?」



 連絡通路を警備している捜査員が聞いた。



「緊急の用で呼ばれまして、通してくれますか?」


「分かりました、ですが気をつけてください。たった今、スカムズが一般病棟に侵入したと連絡がありました」


「君達が見張ってくれていれば、スカムズと言えどこの先には立ち入れないよ。よろしく頼むよ」


「はい。郡上燻がいる40階とその上下39、41階は立ち入り禁止になっておりますので」


「あぁ、分かっているよ」




 鷹遠はそう言うと、急ぎ足で奥へ向かった。





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