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黒い影

作者: 森まりも

グロい表現はありませんが、人によっては非常に不快な表現があります。ご注意ください。

あれは学生時代の夏休み。私は気の合う仲間と車で海に出かけました。女3人、気楽な小旅行です。

 海水浴を楽しんだ後、夕日を眺めていた時に友人のYが近くの店で花火を買ってきました。

 中に入っていた蝋燭を、近くにあった手頃な大きさの石を台にして灯し、私たちははしゃぎ、騒ぎ、存分に楽しみました。

 花火を終えた頃には、すっかり空が暗くなっていました。

「あら?」

 後片付けをしていた友人のUが怪訝な声を上げました。蝋燭の台にした石を指差し、言います。

「これって、お地蔵さんじゃない?」

 懐中電灯の光だけでは暗くて、よく分かりません。でも、確かに自然の石ではないように見えます。

 そう言えば、人の形をしているような……

「そう見えるだけよ。こんなところに、ぽつんとあるわけないじゃない。」

 Yが能天気に答えます。あまり深刻に考えない性分の彼女は、本当に気にしてないようでした。

「そうよね。気にしすぎよね。」

 Uも同意して、蝋燭を片付けていましたが、彼女の声が少し震えていたように感じられました。

 私たちは帰路につきましたが、もう真っ暗です。こんなに遅くなる予定でなかった私たちは宿を予約していませんでした。ドライブインに入って、仮眠でもとろうかと運転役のUが提案しましたが、Yは宿で休みたいと主張します。

 わたしも海水でべたべたになった身体を洗いたいと思っていたので、Yに同意しました。Uも不承不承折れ、私たちは宿に泊まることにしたのです。

 だけど、夏のシーズン真っ只中です。空いている宿なんてなかなか見つかりません。目についたホテルに片っ端から問い合わせましたが、ことごとく断られました。

 宿を探して海岸沿いを延々と走り続けているうちに、人気のない寂しい場所になっていきます。

 もう諦めようかと思っていた私たちの前に突然古びた旅館が現れました。

「ここでいいじゃん。空いているかも。」

 普段なら決して泊まろうとは思わないくらい、古びた木造の宿でした。しかし、すっかり眠気に支配されたYがさっさと宿へと入っていきます。

「空いてるって、泊まれるよー。」

 間もなく、出てきたYはもう宿泊する気になっていました。カバンを持って意気揚揚と宿に入っていきます。私たちは気が進まないながらも、反対する明確な理由もなく、Yに続きました。

「いらっしゃいませ。お風呂も沸いていますよ。」

 迎えてくれたのは、白髪のお婆さんでした。小柄で和服姿、腰は大きく曲がっています。上目遣いでわたしたちを見る目と表情のない皺の多い顔……何だか、不気味な感じがしました。

 通された部屋は畳の六畳間。少しかび臭い匂いがします。食事の後、風呂に入り、疲れていた私たちは早々に床に着きました。

 すごく疲れていたはずなのに、私は夜中に目が覚めてしまいました。ビールの飲みすぎか、お手洗いに行きたくてたまりません。

 寝る前に行ったお手洗いは暗い廊下の突き当たりで、狭くて暗く、どことなく恐ろしい感じがしました。

 しかし、まさか二人を起こして付き合ってくれと言うわけにはいきません。

 仕方なく、私は懐中電灯を片手に廊下に出ました。

 静かでした。海水浴シーズンなのにお客は私たち以外に居ないようです。

 自分の足音にすら怯えながら、暗い廊下を歩き、トイレに着きました。

 中に入って、電気をつけます。暗闇に慣れた目にはひどくまぶしくて、忙しなく瞬きを繰り返しました。

 カサリ

 奇妙な音を耳が捕らえました。

 きょときょとと首を振りますが、何もありません。

 空耳かと思い、私は便器の蓋を(和式なのに、匂い封じの為か蓋があったのです。)開けました。

 ワサワサと蠢く黒い影。

 便器には、一杯、詰まっていました。

 大量の―――ゴキブリ。

「いやああああああああああああっ!!!」

 悲鳴を上げて廊下に飛び出しましたが、派手に転び、私はそこで精神の糸が切れ、気絶してしまいました。

 次の日、気がつくと私はUが運転する車に乗せられていました。

 二人とも固い顔をしていましたが、何があったのか、何を見たのかを彼女たちに確認することは出来ませんでした。

 忘れよう。あの日の夜のことは。

 それが私たちの暗黙の了解です。


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― 新着の感想 ―
[一言] ホントにあったんですか???それはおそろしいです。 かなり恐いです。
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