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Fランクの少年、伝説のドラゴンを手に入れる  作者: キミマロ
第一章 ドラゴンとの出会い
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第六話 9999

「主様、こちらの方々は?」


 二人の存在に気づいたシルフィは、若干怪訝な顔をした。

 見知らぬ男女が自らの主と話していたので、少し動揺しているようだ。

 けど、今は説明している時間がない。

 俺は近づいてきた彼女の手を掴むと、二人の前に立たせる。

 そして、もったいぶるようにコホンっと咳払いをした。


「こいつの名前はシルフィ。昨日知り合った、俺の従者だ」

「じゅ、従者!? あんた、いつの間にそんなの居たのよ!」

「いま言っただろ、昨日知り合ったって。な?」

「はい! 森で運命的な出会いを致しました!」


 俺に助けてもらったことがよっぽどうれしかったのだろう。

 シルフィの口調にはずいぶんと熱がこもっていた。

 すかさず男の方が、彼女に尋ねる。


「従者って言うのは……本当なのか?」

「もちろん。私は、主様に身も心も捧げておりますぞ」

「身も心も……へえ、そ、そうなのか」


 事実確認を終えると、男はシルフィの全身をじっくりと見渡した。

 頭の先からつま先まで、値踏みするように。

 やがて彼は隣に立つアイスの方へと視線をやると、グッと唇をかみしめる。

 ――負けた!

 男の顔からは、どうしようもない敗北感が滲んでいた。

 そのことに気づいたアイスは、思わず彼の足をかかとで踏む。


「ちょっと!」

「す、すまない!」

「まったく! どこの誰だか知らないけど、どうせ金で雇ったんでしょ! 不愉快だわッ!!」


 ダンッと地面を踏み鳴らすと、アイスはボードから依頼書をむしり取った。

 彼女は怒っていることを隠そうともせず、そのままドカドカと怪獣のような足取りで受付へと向かう。


「ちょっと待った!」

「何よ!」

「さっき、俺に自分以上の女が居たら土下座して謝罪するって言ったじゃないか。約束は守ってくれよ」

「くぅ……ッ! 負けてない、負けてないわよ! だから謝る必要はないわ!」

「おいおい、そりゃないだろう! なあ?」

「え? ああ……そうだな」


 いきなり話を振られた男は、俺の言葉を反射的に肯定してしまった。

 そして言い終わった後で、しまったと蒼い顔をする。

 たちまちアイスの額に青筋が浮かび、耳の先まで赤くなっていく。


「もう、レミオットッ!! いい加減にしてッ!!」

「ご、ごめんよ! 僕は君こそがナンバーワンだ!」

「知らないわッ! 最悪よ!」

「待ってくれッ! アイス、アイスッ!!」


 憮然とした様子で再び歩き出すアイスに、とるものもとりあえず彼女を追いかけるレミオット

 二人の慌てふためいた様子に、軽く噴き出してしまう。

 こりゃいい、実に痛快だ!

 でも、まだまだ物足りないな。

 もうひと押し、いや、ふた押しぐらいはしたいところか。

 こんな人気のない場所じゃなくて、もっといっぱい人が居るところで盛大に――。


「ふふ、ふはははは……!」

「主様、笑い方が何やら邪悪ですぞ?」

「え? ああいや、何でもないよ」

「今の方たちは、いったい何者なんです? ずいぶん嫌な感じでしたが」

「あいつらか? あの女は金を持ち逃げした元パーティーメンバーで、男の方はその彼氏らしい」

「なッ! そんな奴らだったのですか! 言って下されば、あの場で八つ裂きにしたものをッ!」


 そう言うや否や、腕まくりをして飛び出して行こうとするシルフィ。

 鉄砲玉みたいな女の子である。

 俺は慌てて彼女のベルトを掴むと、動きを止める。


「待った! こんなところで流血沙汰を起こすつもりか!?」

「それぐらいせねば、私の気が収まりませぬ!!」

「落ち着けって。あいつら、外面だけは良いからさ。下手にやると、こっちが悪者にされちまう」

「しかし、主様の財産を奪うなど! 許してはおけませんぞ!」

「許せとは言ってないよ。でも、仕返しするならタイミングがあるって言ってるんだ」

「……なるほど。機を見よと?」

「そういうこと。それに、アイスにはまだ聞かなきゃいけないことがあるからな」


 アイスには爺さんの地図をどこへやったのか聞かなければいけない。

 抜け目のないあいつのことだから、本当にどこかへやって忘れてしまっているなんてことはないはずだ。

 自分の家か、はたまたどこか別の場所か。

 俺にはわからない所へと隠しているに違いない。


「ま、とにかくすべては後だ。まずはシルフィの初クエストをこなさないと」

「そうですな。ぜひ、主様も一緒に行きましょう!」

「おう! それで、登録ランクはいくつになったんだ? 経験ないから、俺と同じFランク――」

「えっと、Dランクですな」

「はい?」


 思わず聞き返す。

 確かに、Dランクからのスタートは可能だ。

 しかしそれは、元軍人や引退した冒険者など経験のある者に限られている。

 ほとんどの者は最低であるFランク、才能を認められた一部の者でもEランクからが普通だ。


「ホントにDランクからなのか?」

「はい。ですが能力に限定すればSランク以上とかなんとか、小柄な老人から言われましたぞ」

「小柄な老人? もしかして、白いひげを伸ばしてなかったかその人」

「ええ。たっぷりと蓄えておりました」

「制服の襟の部分に、勲章はあった?」

「はい。何やらたくさんジャラジャラとさせておりましたね」

「ギルマスだッ!!」


 このギルドの職員で、ひげを伸ばして勲章をどっさりぶら付けた老人なんてギルマス一人しかいない。

 そもそもギルド職員は荒事に巻き込まれることも多いため、基本的に老人は雇われていないのだ。

 受付嬢たちにすら、ある程度の戦闘能力を求めているぐらいなのだから。

 しかし、何でまたギルマスが直々に出張ってくるんだ?

 前に元王国軍少佐とか言う男がデカい態度で登録しに来た時ですら、奥に引っ込んでたっていうのに。

 受付嬢の話とかを聞いてると、ギルマスってかなりのめんどくさがり屋のはずなんだけどな。

 もしや――。


「シルフィ、お前もしかしてドラゴンだってみんなに言ったのか?」

「まさか。言えば騒ぎになることぐらい、流石の私でもわかります」

「そうか。じゃあ、他に変わったことは何かやったか?」

「そうですな……。魔力の測定をしたら、装置が壊れたぐらいでしょうか? それで別室で作業をしたのですが、そこでも壊れてしまって。そうこうしているうちに、そのギルマスという人物が出てきました」


 装置を壊したっておいおい……。

 まさかギルマスは、測定器の弁償してくれって話をしに来たのか?

 あの機械、値段も半端なく高いし修理にも手間がかかるって聞いたことがある。

 何でも製造元の会社でしか取扱が出来ないから、いちいち帝国まで空輸しなきゃならんとか。

 ……ヤバいな、そんなものの修理代を請求されたら俺たち破産だぞ!


「な、なあ! ギルマスは何って言ったんだ? 測定器の弁償とかについてか!?」

「いえ、それについては何も。挨拶をしに来たとかなんとか、言っていただけですな」

「何だ、ただの挨拶か……良かった。でもそれだと、何で出てきたのかがさっぱりわからないな。シルフィ、ちょっとカード出してもらえるか? 見れば何か分かるかもしれん」

「これのことでしょうか?」

「そうそれ! ……のわッ!!」


 ――魔力値9999(測定限界値)。

 カードに記されためちゃくちゃな数字に、俺はその場でひっくり返りそうになった――。


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