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Fランクの少年、伝説のドラゴンを手に入れる  作者: キミマロ
第一章 ドラゴンとの出会い
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第四話 契約!

「えーっと……まずは自己紹介からだな。俺はウィード、あんたの名前は?」


 ベッドに腰を下ろように促しながら、尋ねる。

 すると女は、もったいぶるようにコホンと咳払いをした。


「我が名はシルフィーナ・ウル・アルザード・ネムシス・ロム・トゥリア……」

「ちょっとちょっと!」

「……何でしょうか?」

「いくらなんでも、長くないか?」

「我がドラゴン族は先祖の名を全て受け継ぐのが慣例ですので。まだまだありますぞ」


 誇らしげに胸を張る女。

 お家自慢は分かるけど、それじゃ覚えきれないだろ。


「あだ名とかはないのか?」

「それでしたら、もっぱらシルフィと呼ばれております。本名は長いですから」

「何だよ、自覚してたのかよ……! だったら、最初からそっちを言ってくれ」

「命の恩人を相手に、最初から通称で名乗るのは無礼かと思いまして」

「恩人ねえ……」


 何度も言うが、この女ことシルフィはとびっきりの美女である。

 だから命の恩人なんて御大層なことを言われても、悪い気はしない。

 でも、なんだか不思議な気分だ。

 昼間の魔物が、どこをどうしたらこんな美女に化けられるんだか。

 まったくもって、不思議でしょうがない。


「……くどいようだが、君はほんとに昼間の魔物――というか、ドラゴンなのか?」

「もちろん、本当です。何度言われてもそこは変わりませんぞ」

「うーん……まあ、そこばっかり聞いても話は進まないか。それで、ドラゴンの君がどうして俺のところへ来たんだ?」

「昼間申し上げたではありませんか、必ず恩は返すと! つまり、恩返しのためでございます」

「そういえば、そんなようなこと聞いた覚えがあるな。で、恩返しって何してくれるんだ? もしかして、その……お金?」

「それがですな」


 急に、顔色が悪くなるシルフィ。

 彼女は床の上で正座をすると、居住まいを正してこちらを見上げる。

 その瞳は潤み、深い罪悪感を帯びていた。


「本来なら、山にため込んでいた財宝をここで差し上げるはずだったのです。ですが、戻ってみようにもここがどこだかよくわからなくてですな……」

「分からない? 自分で来たんじゃないのか?」

「その辺の記憶がどうにもあいまいで……。気が付いたら、あの森に居ました」

「それってつまりさ、君は記憶喪失か何かってこと?」

「おそらくは。ここ最近の記憶が、すっかり飛んでしまっているようです……」

「なるほど。そりゃ厄介だな。ちなみに、出身はどのあたり?」

「えっと、アンダーフィールドの奥地です。人間にはほとんど知られていない場所ですな」

「ぶッ!」


 この世界を形作る無数の浮島。

 それらは浮いている高さによって、三つの階層に分類される。

 最も高い階層がアッパーフィールド。

 中間の階層がミドルフィールド。

 そして最も低く、世界の底と呼ばれる大瘴空のほど近くに浮いているのがアンダーフィールドである。

 凶悪な魔獣が山ほど生息していて、さらに環境も過酷という人外魔境の地だ。

 ごくまれにここから這い上がってきた魔物が騒ぎを起こすけど……シルフィもその類だったとは。

 まあ、ドラゴンの時点で何でもありだろうけどさ。


「それはまた、ずいぶんと遠くだな……! ここ、ミドルフィールドでもかなり高い島だぜ?」

「そのようですな。なので、今の私にはこの身体しかございませぬ。どうでしょう、この際この身体で支払うと言うのは?」

「か、身体……!?」

「はい! これでもドラゴン族ゆえ、それなりにはお役に立てるでしょう。私としてもウィード様のような方にお仕え出来るなら本望ですぞ!」

 

 そう言いながら、距離を詰めてくるシルフィ。

 柔らかな胸のふくらみが、腕に当たる。

 う、気持ちいい……ッ!

 予想をはるかに超えた重量感に、心臓が弾む。

 なんという質量兵器!!

 これを好きに出来るなら、金貨十枚ぐらい大したことないかも……!


「な、なあ!」

「何でしょう?」

「お仕えってさ、従者になるってこと?」

「そうです!」

「その、主になったら……その手のエッチなこととかも、してもらえたりする……の?」


 顔を真っ赤にしながら、小声で尋ねる。

 恥ずかしいけど、ここは大事だからな。

 すぐにしてと言うつもりはないけど、そのうちお願いしたいし。

 こんな美女を従者にするなら……男としてはね?


「身体的な奉仕のことですか? もちろん、ご希望なら今からお相手しましょうか?」

「さ、流石に今からはいいよ、うん……!」

「そうですかな? かなり興奮されているように見えますぞ?」

「そんなとこ見なくていいからッ!!」


 気真面目そうな顔して、いきなり何ってことを言うんだッ!!

 俺は顔を真っ赤にすると、すぐさま大事なところをガードする。

 ああ、恥ずかしい!

 穴があったら入ってしまいたいくらいだ。


「……そんなに動揺されずとも、話を承諾いただければ私はウィード様のものになるのですから。思うままになされば良いですのに」

「う、うるさいなあ! そういうのには順序とかがあるんだよ!」

「はあ、左様でございますか。ウィード様がそうおっしゃられるのであれば、私は従うのみですが……」

「もうちょっと仲良くなったらな、ぜひな。ぜひ!」


 最後に「ぜひ」と強調してしまうのが、哀しいかな男の性か。

 だって仕方がない、すっごい美人だもの。

 俺がもし臆病なボーイじゃなかったら、今この場で押し倒してるに違いない。


「……この距離感はおいおい詰めていくとして。では、了承を頂けたということで契約をいたしましょうか」

「契約? まさか……」


 何とはなしに嫌な予感がして、思わず身構える。

 今まで契約書にハンコを押して、良い目にあった試しがない。


「何を考えておられるのですか? 大丈夫です、契約と言っても唇をかわすだけですので」

「唇!?」

「はい。関係を結ぶのに一番手っ取り早い方法です」

「う、うーむ……! 契約はしたいんだけど……」

「もしや、私とでは嫌なのですか?」

「そ、そんなことはない!」

「では――!」


 予想だにしないほど強い力で、ベッドへと押し倒された。

 直後、唇に熱くて柔らかいものが触れる。

 お、俺……キスしてるッ!

 それも、唇と唇を重ねる奴だッ!!

 体温が上がり、息が止まってしまいそうになった。

 一瞬か、永遠か。

 ぼんやりとしてしまって、時間の感覚すらあやふやになる。

 頭の中がとろけるとは、まさにこのことだろう。


 やがて、ゆっくりとシルフィの唇が離れた。

 唾が微かに糸を引いたのが、何とも色っぽい。

 そんな彼女は呆然としている俺に、実にいい笑顔で告げる。


「ふう。これで契約完了ですぞ!」

「こ、これでねえ……。変わった感じがあんまりないけど」

「印が刻まれました。見てください!」


 露出された白い腕。

 そこにはくっきりと、竜を模した印が刻まれていた。

 そのちょうど首に当たる部分に鎖が巻き付いているのは、従属していることを分かりやすく示すためのデザインだろうか。

 どうやらシルフィは、ホントに俺のものになったらしい。

 刻印のこの上なく分かりやすいデザインに、それまで漠然としていた感覚が急に現実感を増す。


「……ガチなんだな」

「もしかして、信じておられなかったのですか?」

「いや、いきなりあんなこと言われても実感が無くてさ。でも、これを見ると……うん」

「ウィード様の腕にも、印が刻まれているはずです。私のものとは意匠が異なるはずですが」

「どれどれ」


 上着を脱いで腕を見ると、そこにはシルフィのものとほぼ同じ印が刻まれていた。

 ただし、俺の印には鎖が描かれていない。

 主従の主側であることが、こちらも実に分かりやすく示されている。


「あったな、間違いない」

「では……不束者ではございますがよろしくお願いします! 主様!」


 その場で居住まいを正すと、三つ指をついて頭を下げるシルフィ。

 こうして俺は、自称ドラゴンを手に入れたのだった――。


ドラゴンさんをゲットしました!

いよいよここからが本番です!

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