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Fランクの少年、伝説のドラゴンを手に入れる  作者: キミマロ
第一章 ドラゴンとの出会い
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第三話 深夜の来訪者

「何だったんだろうな、あいつは……」


 その日の夜。

 残された薬草を換金してどうにか当座の金を得た俺は、宿の一室で唸っていた。

 考えていることはもちろん、昼間の魔物についてだ。

 人の言葉を話す魔物なんて、明らかに普通じゃない。

 姿かたちも異様だったしな。

 あんな威圧感のある魔物なんて、それこそ伝説のドラゴンぐらいじゃないだろうか?


「……ドラゴン?」


 考えてみれば、奴の姿は伝説で語られるドラゴンの特徴と一致している。

 爬虫類を思わせる胴体に、太く力強い四肢。

 輝く鱗と光る牙。

 何より、天を掴む力強い翼。

 天空の支配者たるドラゴンの姿そのものだ。

 

 でも、ドラゴンの姿を見たという者は存在しない。

 厳密に言えば存在したのだけど、いずれも大昔の話だ。

 飛行船が発明されてから、はや百年。

 それぞれの浮島を飛び出した人類によって、空の探検もかなり進んできた。

 そんな中、たくさんの開拓者たちが蒼空に住まうドラゴンを求めたけれど、実際に見つけたという記録はない。

 ドラゴンは古代人たちの空想の産物、というのが現代では通説となっている。


「まさかな。もしホントにドラゴンだったら、フェアリーマッシュなんて比べ物にならない大発見だけど……」


 そこまで考えたところで、そんなバカなと首を振る。

 あんな町に近い森であっさり見つかるぐらいなら、ドラゴンは伝説の存在になんかなっちゃいない。

 ちょっと珍しいだけの魔物どまりだ。


「それよりも、だな」


 そんなことを考えるより、今は爺さんの地図を取り戻すことを考えた方が良いな。

 あの地図は爺さんが「大事にしろ」といって残してくれたものである。

 稼ぎは人一倍良かったくせに、すべて自分で使っちまってほとんど何も残さなかったあの爺さんがだ。

 正直、あのぼろっちい古地図に何の意味があるのかは俺もわからない。

 描かれているのはただの世界地図で、印も何もしてなかったのだから。

 でも――間違いなく何かがある。

 そうでなければ、爺さんの性格からして孫に渡す前にゴミ箱行き間違いなしだ。


「扉を開けてください!」

「……なんだ?」


 ベッドの上で物思いにふけっていると、不意に声が響いた。

 ドアの向こうから聞こえてきたそれは、とても澄んでいて気持ちのいいものだった。

 凛としつつも抜けるような高音は、明らかに女だ。

 こんな安宿で、ルームサービスだろうか?

 宿のおばちゃんとは違う声だけど、ウェイトレスさんか何かだろうかね?


「えっと、手持ちの金がないから食事とかそういうのは――」

「おお、やっと見つけましたぞ! 気配を辿るのが大変でした!」

「んんッ!?」


 扉を開けると、そこには目の覚めるような美女が居た。

 長く艶やかな黒髪に、光るような白い肌。

 意志の強さを感じさせる瞳は大きく、溌剌とした印象だ。

 軍服を思わせるカッチリとした服を着ているが、スタイルの良さが際立っている。

 腰の細い長身もさることながら、胸が顔よりも大きそうな女なんて、産まれて始めて見たかも。

 半球状にズンッと突き出した膨らみの下には、影まで出来ている。


 彼女はいきなり、俺の手を取って迫ってきた。

 顔が近い。

 吐息が肌で感じられて、全身の血流が増す。

 な、何だこの状況ッ!!

 俺には、故郷に残してきた恋人とかそういう奴は居ないぞ!

 これは……とにかく、このままじゃマズイ!

 すぐさま彼女の身体を押し返す。


「ま、待ってくれ! 君、人違いしてるんじゃないのか? 俺は知らんぞ!」

「心外ですな。昼間、確かに約束したはずですぞ?」

「昼間……?」


 今日の昼間、自分がやったことを思い出す。

 ほとんど森で薬草採取をしていたはずだけど……そう言えば、宿に戻ってくる直前に娼館のお姉さんたちから声を掛けられたな。

 あの時は調子よく「じゃあ、今晩にでも」って返したけど……まさか、それか?


「もしかして、夕方に声をかけてきた店の子? あの時は今晩って言ったけどさ、あれはあくまで社交辞令でだな。手持ちの金ないし……」

「何と勘違いされておるのですか? 森で会ったではありませんか」

「森で? 森で人と会った覚えなんてないけどな」

「私のことを助けてくれたでしょう? もうお忘れなのでか?」


 助けたって言うと、あの魔物ぐらいしか思い当たらない。

 人助けなんて日に何度もやるものじゃないから、たぶん間違いないだろう。

 言われてみれば、去り際に「今宵再び」とか言っていた気はする。

 でも、あの魔物とこの女でどんな関係があるんだ?

 まさか、飼い主さんとか?


「デッカイ魔物は助けたな。もしかしてあれ、君のペットか何か?」

「違いますッ!! あれは私自身です!」

「私自身って……君は、人間だろう?」

「いえ、私は誇り高きドラゴンの末裔です!」


 ダメだこの人、完全に頭が逝ってしまっている……。

 俺は彼女の肩に手をやると、その瞳をまっすぐに見据える。


「いいかい、君は人間だ。今すぐこの宿屋を出て道を左に曲がり、通りを二つ過ぎた先にある治療院に行け。相談に乗ってくれるはずだ」

「……別に何も病んではおりませんぞ? 分かりました、証拠をお見せしましょう!」


 そう言うと、女は前髪を掻き上げて額をさらけ出した。

 つるんとした肌が露わになる。

 それにほのかな色気を感じていると、にわかに皮膚が盛り上がり始めた。

 いったい、何が起きるんだ?

 食い入るように見つめていると、やがて裂けた肌からズルッと鈍色の角が顔を出す。


「なッ!?」

「人化を一部解きました。これで、分かってもらえましたか?」

「そ、そんなことが……!」


 目を見開き、生えて来た角をじっくりと見つめる。

 最初は手品かと思ったが、見れば見るほど本物としか思えなかった。

 付け根に継ぎ目などは一切なく、間違いなく皮膚の下から生えている。

 魔物だと言うのは信じられないが、この女、明らかに只者ではない。


「……君は、ホントにドラゴンなのか? あの伝説の?」

「そうだと、先ほどから言っておりますでしょう? もう少し場所が広ければ、本来の姿に変わってお見せできるのですがね。ここではちょっと」

「ううむ……!」


 女の眼差しは、とても真剣なものに見えた。

 口調も冷静で、嘘を言ってからかっているという雰囲気ではない。

 常識外れにもほどがあるけれど、彼女の言うことも少しだけ信じたくなってくる。


「角を収めてくれ。ちょっと、中で話そう」

「はいッ!」


 白い歯を出して、いい笑顔を見せる女。

 俺はそんな彼女の手を取ると、そのまま部屋へと招き入れたのだった――。


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