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Fランクの少年、伝説のドラゴンを手に入れる  作者: キミマロ
第一章 ドラゴンとの出会い
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第一話 森へ行こう

「ああ、最悪だ……!」


 翌朝。

 ベッドから起き上がった俺の気分は、かつてないほどに悪かった。

 一晩寝たことによって、腹の中の怒りが収まったと言うよりはさらに熟成されたような気がする。

 徹夜した後のように、頭が変な冴え方をしていた。


「……ち、小銭まで全部持っていったのかよ」

 

 テーブルに置かれていた財布を見ると、銅貨まで綺麗さっぱり無くなっていた。

 銀貨三枚とか言ってたくせに、結局全部じゃないか!

 これじゃ、宿の朝食で一番安いミルク粥すら買えやしないぞ。

 これからどうしたもんだか……。


「ウィードさーん!」


 ベッドの上でぼんやりとしていると、宿のおばちゃんの声が聞こえた。

 何の用だろ?

 寝癖のついた髪を最低限整えると、ドアノブを回す。


「朝から何だよ? 俺はちょっと、寝不足なんだけど」

「宿代ですよ。明日の朝払うって、アイスさんが言ってたじゃないですか」

「え? 待ってくれ、宿代なら昨日の夜にアイスが三日分まとめて払ったじゃないか!」

「何を言ってるんです?」


 額にしわを寄せ、怪訝な顔をするおばちゃん。

 あいつ……昨日俺が渡した宿代まで横領してやがったのかッ!

 マズイ、今は手持ちが全くないってのに!


「まさか、お金がないって言うんじゃないでしょうね?」

「それが……その……」

「はっきりしなさい! 金があるの、ないの!?」

「あ、ありません! で、でも大丈夫! 今日中には何とかしますから!」

「今日中? だったら、あんたの荷物は全部預からせてもらうよ」


 鼻息も荒く、そう宣言するおばちゃん。

 彼女はそのまま俺を無視して部屋に入ると、置いてあった着替えなどを全部持ち出してしまった。


「いいかい、今日中だからね? もし金が用意できないなら、服から何まですべて売ってやるよ。あんたのいま着ている服もね!!」

「は、はいッ! わかりましたァッ!!」


 おばちゃんのあまりの迫力に、軍人よろしく敬礼をしてしまう。

 そして、彼女から逃げるようにギルドへと向かったのだった――。


――○●○――


 開拓者ギルド。

 魔物の討伐から遺跡の調査まで、ありとあらゆる依頼が集まる場所。

 世界から開拓者たちが立ち寄るそこは、まさに今の時代を象徴する施設と言えた。

 当然、営業時間は常に開拓者たちの熱気で満ちている――はずなのだが。


「何だこれ……」


 ギルドに顔を出すと、びっくりするほど人の数が少なかった。

 奥の壁いっぱいに掲げられたクエストボード。

 その前にいつもなら五人ぐらいは屯しているのだが、今日に限っては姿が見えない。

 カウンターの受付嬢も、この時間なら三人居るはずなのに一人しかいなかった。

 その一人も大きなあくびをしていて、実に暇そうだ。

 こんなギルド、冒険者を始めて二年になるが見たことがない。


「何かあったのか?」

「知らないんですか? 昨日の夜、ゲルドの森に立ち入り禁止令が発令されまして。それに伴って、森に関連する依頼が一時取り下げになったんですよ」

「立ち入り禁止? なんでまた」

「飛行船が墜落したんですよ。凄い爆発音がしましたけど、聞こえなかったんですか?」


 これだから無能者は――とでも言わんばかりに、呆れ顔をする受付嬢。

 俺は軽く苦笑いをすると、どうだったかなととぼける。

 どうやら、薬を嗅がされて眠っているうちに起きた事故らしい。


「その飛行船なんですけど、軍の弾薬を運んでいたらしくて。危険だから、事故の収拾が付くまで関係者以外は立ち入り禁止ってことになったんです」

「なるほど、理由は分かったけど……困ったな」


 ギルドに出される依頼、特に初心者向けのものはほとんどゲルドの森が指定先となっている。

 この様子だと、他の場所の依頼はとっくの昔に俺以外の初心者たちが引き受けてしまっているだろう。

 かといって、ランクの高い依頼をソロで受けるわけにも行かない。

 仲間が居れば……いやいや!

 元はと言えば、あいつが裏切ったせいで困っているんだ!

 こうなったら、恥ずかしいけど素直に相談するしかないか……。


「何か、ゲルドの森以外でいい依頼はないか? 金がないんだ」

「ウィードさんのランクで引き受けられる依頼となりますと……今日はもうないですね」

「ぐ……ッ! だったら、今日の宿代だけでいいからギルドで貸してくれないか? 証文でも何でも書くから!」

「ダメです。ウィードさんのランクですと、お金の貸し出しは一切できません」


 受付嬢は、実にきっぱりとした態度で言い切った。

 その瞳は冷たく、俺を馬鹿にしていることが肌で感じられる。

 無能者は居なくなってくれても構わないという姿勢が、ありありと見て取れた。

 ああ、クソ!

 昨日からツイて無さすぎだッ!


「……分かった、今日のところは帰るよ」

「またのご利用をお待ちしております」


 受付嬢の冷え冷えとした営業スマイルに見送られて、ギルドを出る。

 さてと、これからどうしたもんかな。

 宿に帰るわけにも行かないし、やっぱり森へ行くしかないか。

 立ち入り禁止と言っても、森全域に非常線を張っているとも思えない。

 こっそり侵入して、薬草でもとって帰ってくればいいだろう。

 それを薬屋に売れば、今夜の宿代ぐらいにはなるはずだ。


「よし、森へいこう! 危険なんてどんと来やがれ、こうなりゃヤケだ!」


 こうして俺は、道端の石を蹴っ飛ばしながら今日の方針を決めたのだった。

 このことが、のちに俺の人生を大きく変えるのだが――この時の俺はそんなこと知る由もなかった。


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