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Fランクの少年、伝説のドラゴンを手に入れる  作者: キミマロ
第二章 旅立とう、遥かな空へ!
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第十五話 爺さんからの挑戦状

「主様……申し訳ありませんでした!」


 ギルドから宿に帰る途中。

 シルフィが思いつめた様子で足を止め、頭を下げた。

 その表情は悲痛そのもので、目尻にうっすらとだが涙も溜まっている。

 このままでは、ブシとかいう連中みたいに腹でも斬りそうな気配だ。


「そんなに謝るなって! お前が悪いんじゃないよ。元はと言えば、俺が生意気な口きいてあいつらを怒らせたのがいけなかったんだ。ついこの間まで、Fランクでひいひい言ってたようなガキがさ」

「いえ、私が奴らを叩きのめしたのがいけなかったのです。抑え込もうとすれば、抑え込めましたから」

「いいんだいいんだ、あれを見て俺もすっきりしたから」

「……ありがとうございます」


 そうは言いつつも、シルフィの表情はまだまだ昏かった。

 ウツボを倒せたのも俺がCランクになれたのも、全部シルフィのおかげなんだから気にすることないのに。


「まあまあ、やめちまったものはしょうがないさ。それより、今からどこへ行くか考えようぜ」

「街も出るのですか?」

「もちろん! 資金もあることだし、本格的な旅に出ようかなって!」


 ギルマスから受け取った革袋を、ポンポンと叩いて揺らす。

 中に入っている金貨がサランッと気持ちのいい音を響かせた。

 しめて、金貨八百枚。

 王都に一軒家が買えるぐらいの大金である。

 旅立ちの資金には十分すぎるというか、節制すれば一生暮らせるかもしれないぐらいの額だ。


「そうですか、分かりました」

「旅のお供、よろしく頼むよ。今の俺が頼れる仲間ってシルフィだけなんだから。ギルドやめたぐらいのことでいつまでもくよくよしてもらってちゃ、困る!」

「は、はいッ!」


 動揺しつつも、ちょっと調子の戻った声で答えるシルフィ。

 さて、旅の出るのはいいけど最初はどこに行こうかな?

 まずはアンダーグラウンドを目指す拠点ってことで、帝国あたりが無難かもしれない。

 カバンからやっとこさ取り戻した世界地図を出して広げる。


「んん?」

「どうなされました?」

「いま、地図の端が光って見えたんだ!」

「もしかすると……! 主様、石を手にしてください!」

「分かった!」


 シルフィに言われるがまま、石を出して手に握る。

 すると今度は、はっきりと地図の端に光点が見えた。

 白い光が、まばゆく輝いてその存在を主張している。


「見える、見えるよ!」

「私にも見えるようになりました。どうやらこの地図には、封印が掛けられていたようです」

「それが俺の力で解けたってこと?」

「ええ。恐らくは、主様の魔力がある程度高まるとそれに反応して自動的に解ける仕掛けかなのかと」

「……爺さんらしいや! こんな仕掛けをするなんて!」


 思わず吹き出してしまう。

 小遣いを渡す時ですら、わざわざ「この部屋の中から見つけ出してみよ!」とか言う人だったからな。

 タダの地図ではないと思ってたけど、こんな仕掛けがあるなんて!

 やっぱり、あんたは俺が知る中で最高の開拓者だよ!


「えーっと、この場所は……うわ、アンダーフィールドでも端の端じゃねえか!」

「我々ドラゴンでも近づかぬような場所ですな。霧の空域とか言われていたはずです」

「霧の空域か……。よし、そこへ行こう! 何があるのかは分からないけど、これは爺さんから俺への挑戦状だ!」

「挑戦状?」

「そ、ここへ来てみやがれって言うな! もしかしたら、ちょっとした財宝ぐらいは残してたりするかも」


 宵越しの金は持たない主義の男だったけど、なにせ世界的な有名人である。

 そこらの開拓者とは稼ぎの桁が違うはずだ。

 考えてみれば、そんな爺さんが残した遺産が地図一枚だけだったことがおかしい。

 巨万の富とまでは行かなくとも、多少は財産があったと考える方が自然だ。


「よーしッ!! この場所にたどり着いて、俺は爺さんを超えるッ!!」


 グッと拳を握りしめる俺。

 それに応じて、シルフィはドンッと胸を張ると得意げに言う。


「では、すぐに行きましょう! この距離なら、私の翼で一日もあればつきますぞ!」

「ああ、待ってくれ! エーテル圧の都合があるだろ?」

「……何です、それは?」


 すっとぼけた顔をするシルフィ。

 ああ、そっか。

 アンダーフィールド育ちで、しかもドラゴンならこれは知らなくても当然か。


「アッパーフィールドとかミドルフィールドの人間はさ、いきなりエーテル圧の高いアンダーフィールドには行けないんだよ。エーテル酔いって言って、身体が拒否反応を起こしちまう」

「む、それは厄介ですな!」

「だから、そうならないように島々に寄って少しずつ潜空していく必要があるんだ。今いるのがこのマジハリ島だから――」


 ミッドフィールドの中でも、かなりアッパーフィールド寄りの島を指さす。

 地図で言えば、中心からやや右下の場所だ。

 そこから右上にある光点まで、並ぶ島々を辿りながらぐるっと世界を一周するようにして指を走らせる。


「こうやって降りていくのが一般的だね。前に降りたことがあるとかなら話は別だけど、俺はこの島よりも深い空に行ったことがないから」

「なるほど。しかしこのルートだと、ほとんど世界一周に近いですぞ?」

「ああ。島で体を慣らす時間もあるし、たぶん一年はかかる。でも、面白いじゃないか! 間違いなく凄い大冒険になるぜ!!」


 そう言って、思いっ切り目を輝かせる。

 これから待ち受けているであろう冒険に、俺は心が弾んでしょうがなかった。

 シルフィはそんな俺につられて、ふふっと柔らかな笑みを浮かべる。


「では、旅立ちに備えて今日のところは宿へ戻りましょうか」

「そうだな! 明日の昼には買い物を済ませて旅立とう! 最初の目的地は、このメルカ島だな」

「どんな島なのです?」

「飛空艇技師の集まる島さ。この島で飛空艇を買って、アンダーフィールド探検に出発する開拓者も多いんだぜ」

「おお、それは楽しみですな!!」

「あ、あの!」


 話を終えて、宿に向かって歩き出した時だった。

 不意に呼び止められたので振り返ってみれば、そこにはまだ幼さの残る少女が立っていた。

 えっと、誰だったっけな?

 確か、ギルドによく植物採取の依頼を出してた子だったけど……。


「マリカちゃんだっけ?」

「はい!」

「俺たちに用があるみたいだけど、何かな?」

「用と言いますか、受付の人からウィードさんがギルドやめたって聞いたので! ホントなんですか!?」


 そう言うと、凄い勢いで俺に迫ってくるマリカちゃん。

 え、ええ!?

 予想だにしていなかった少女の襲来に、俺は目をぱちくりとさせるのだった――。


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