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Fランクの少年、伝説のドラゴンを手に入れる  作者: キミマロ
第二章 旅立とう、遥かな空へ!
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第十四話 さようなら!

 重苦しい沈黙が、ギルドホールに広がる。

 痛いところを突いたせいか、白の月の面々は揃って渋い顔をしていた。

 チッ――。

 舌打ちがどこからか聞こえる。

 だがそれも束の間、すぐに皆、軽薄な笑みを浮かべた。


「おいおい、冗談きついぜ! そんな子供みたいなこと言ってないで、大人になろうや」

「そうよ。うちのパーティーに入れば、美味しい思いがいっぱいできるわよ?」

「……結構です。あんたたちとつるんでいても、停滞するだけに思えるから」

「停滞だと? さっきから舐めた口をききやがって!」


 声を荒げ、詰め寄ってくるラングバルト。

 だがその姿は、怒っているにもかかわらず最初に見た時よりも弱々しく見えた。


「いいか、小僧! この空にはな、強い奴なんてごまんといるんだ! そいつらがな、みんな仲間を率いて冒険してるんだぜ。そんな強者どもを出し抜いて、未知の島にたどり着くなんて出来ると思うか?」

「……そりゃあ、出来ないかもしれない。だけど、そういう問題じゃないだろう? 力を尽くして冒険してこそ、開拓者じゃないか! 冒険するから成長するんじゃないか!」

「ふん、ぬるいこと言いやがって! ウツボをまぐれで倒して調子に乗ってるのかもしれねーが、夢は眠ってるときに見るもんだぜ。起きてる時に夢を見る奴なんてのは、途方もない大馬鹿野郎だけだ」


 ラングバルトがそう言って笑うと、他のメンバーたちも同調した。

 嘲笑の輪が見る見るうちに広がっていく。

 自然と拳を握る力が強くなった。

 するとここで、シルフィが俺を制するように前へ出る。

 彼女はフッと息を吐くと、冴えた眼差しでラングバルトたちを睨んだ。


「……主様の言っていることは、私の耳で聞いていても甘い。大甘の理想論だ。しかしな! 世の中から逃げている負け犬が、悟ったような面をして語る現実論とやらよりはマシだろう。お前たちに、主様を馬鹿にする資格はないッ!」

「……てめえ、どうやら誰に口を利いているのかまだ分かっていないようだな?」

「自称、最強の開拓者だったか?」

「こいつッ!」


 自称扱いされ、激昂したラングバルト。

 彼は姿勢を低くすると、シルフィに向かって素早く足を踏み出す。

 そして、ボディーブローを繰り出そうとした瞬間――


「ぶッ!? な、なにが!?」


 ラングバルトよりも数段速い動きで、シルフィが拳を繰り出した。

 拳を構え、打ち、抜く。

 一連の動作が瞬きするほどの間に終えられる。

 そのあまりの早業ぶりに、ラングバルトは自身に何が起きたのか分かっていないようだった。

 彼はそのまま膝を屈し、倒れる。


「ラングバルトッ!? てめえッ!」

「安心しろ、力は最小限にしてある」

「舐めるなよッ!」


 残りの六人が、束になって飛びかかってくる。

 流石、最強と言われる冒険者パーティー!

 突発的な喧嘩にもかかわらず、連携の取れた動きだ。

 しかしその攻撃を、シルフィはスルスルと避けてしまう。

 そして、すれ違いざまに次々と手刀を食らわせた。

 あっという間に、五人が床に倒れた。


「お前が最後か」

「ぐ……ッ!」

「そこまで!!」


 残った一人をシルフィが倒そうとしたところで、ストップが掛けられた。

 慌てて振り向けば、そこにはギルマスの姿があった――。


――○●○――


「なるほど、だいたいの事情はわかったぞい」


 カウンターから、事態の一部始終を見ていた受付嬢。

 彼女から報告を受けたギルマスは、困ったような顔をして自らの机の上を見た。

 そこには驚くほど大量の金貨が積まれている。

 その量からして、どうやら俺たちのために用意されたウツボ討伐の報奨金らしい。

 さらにその脇には、例の石と折り畳まれた地図の姿もあった。

 あれから被害者が多数名乗り出たことによって、アイスの財産に俺たち自身で手を付けることが出来なくなっていたのだが、代わりにちゃんとギルドの方で地図を見つけ出しておいてくれたようだ。

 石の方は、持ち主が見つからなくて戻されたと言ったところだろうか。


「金と地図の準備が出来たと言いに行こうとしたら、このざまとはのう。まったく」

「……申し訳ありません」

「本来ならば、開拓者同士とはいえ相手を一方的にボコボコにしてしまったら追放ものじゃ。とはいえ、今回は向こうが先に手を出そうとしていたようじゃしのう。当事者が謝罪すれば、よしとしよう」

「分かりました」


 そう言うとシルフィは、向かい合って立っている白の月の面々に深々と頭を下げた。

 だが、ラングバルトは不服そうな顔をする。


「誠意が足りねーな。マスター、こういう場合は俺たちが納得する形での謝罪じゃなきゃダメだよな?」

「まあ、そうじゃが……」

「規則にもそう書いてありますね。ギルド規則第三十八条、罰として謝罪が課された際は、被害者の納得する形で行われなければならない」


 白の月の面々の中でも、最もインテリ然とした男が言う。

 マスターは煙たそうな顔をしつつも、ゆっくり頷いた。

 規則はギルド本部が定めたものであるため、地方支部のマスター程度では覆せないのだ。


「俺たちは怪我してんだ。せめて、土下座はしてもらわないとな」

「なッ!? 元はと言えば、そちらが手を出そうとしたのではないか!」

「だけど、ボコボコにしたのはお前だろう? 明らかな過剰防衛だよな、これは」

「ぐ……! だがその怪我は、お前たちが自分で作ったものではないのか? 私はそれほど力は入れていなかったはずだ!」

「ケチつけてるんじゃねえよ! なーに、ちょいと謝ってくれれば俺たちも水に流すさ。床に手をついて、額もこすりつけてくれればな!」


 何という汚いやり方!

 あまりのことに俺はギルマスの方を見やったが、彼は怒りを堪えた顔をしつつも黙っていた。

 いま奴らのしていることは、ルール違反スレスレではあるが完全に違反というわけでもないらしい。

 規則の穴を的確についてきている!


「さあ、早く!」

「このッ……!」


 凄惨なまでの目つきでラングバルトを睨みながらも、シルフィは腰を折った。

 片足ずつ、ゆっくりと膝が地面につく。

 よほど悔しいのだろう。

 曲がった背中は大きく震えていた。

 ドラゴンというのは元来、プライドが非常に高いと言う。

 それがこんなことで、こんなやつらに頭を下げるなんて――


「……もういい。シルフィ、頭を下げるな」

「え?」

「頭を下げないでいいって、言ってるんだ。最強のお前のそんな情けない姿さ、見てられないよ」

「おい、自分が何言ってるのか分かってるのか? こいつが謝罪しなければ、罪は許されないんだぜ?」


 からかうような声で、ラングバルトが言う。

 もうそんなの、関係ないさ。


「マスター、その金と地図だけど開拓者じゃなくても受け取れるのか?」

「無論じゃ。石もな、積み荷として正式に登録されていなかったため、発見したおぬしらに所有権が移ることになっておる」

「そっか。ならいいんだ」

「おい、お前まさか……!」

「主様、おやめくださいッ!!」


 俺が何をしようとしているのか察したシルフィが、青ざめた顔で止める。

 でも、もう決めちゃったんだよな。

 男が一度決めたことを、そう簡単には覆せないよ。


「大丈夫だよ。昔、爺さんが言ってたんだ。開拓者って言うのは、未知なるものを求めて空を自由に旅する者のことだって。だったら、ギルドに入ってようが入って無かろうが関係ない。それにギルドだって、王国のギルド以外にもあるしさ。必要なら、帝国のギルドにでも入ればいいよ」

「ですが、今まで積み上げてきたランクが……!」

「そんなのシルフィが居ればすぐに戻せるよ。そういうわけで――」


 大きく息を吸う。

 そして、一拍の間を置き――


「王国開拓者ギルドを、脱退させていただきます!」


旅立ちに向けて、物語が動き出しました!

今後にご期待ください!

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