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Fランクの少年、伝説のドラゴンを手に入れる  作者: キミマロ
第一章 ドラゴンとの出会い
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第十二話 悪女の終わり

 ギルドに戻ると、それはもうひどい騒ぎになっていた。

 一階のドアを開けた途端、熱気を感じるほどの人混みが目に飛び込んでくる。

 アイスたちからウツボ出現の報を受けたギルマスが、町中の開拓者に招集をかけたようだ。

 低ランクから高ランクまで、ギルドに所属する開拓者のほとんどが集っている。

 その軍隊さながらの大群衆を何とか押しのけて、俺とシルフィはカウンターへとたどり着く。


「ギルマスは居る? すぐに話したいことがあるんだけど!」

「……見て分かりませんか? 今は非常時なので、そういうのはご遠慮いただきたいのですが」

「重大なことなのだッ!!」


 ダンッとテーブルを叩くシルフィ。

 カウンターの天板が、その一撃で少し凹んでしまった。

 荒っぽい開拓者たちを迎えるために、飛び切り頑丈に造られた特注品がである。

 拳の威力に顔を蒼くした受付嬢は、慌てた様子で答える。


「マ、マスターでしたら二階の執務室でアイスさんたちから話を聞いているはずです!」

「ありがと!」


 軽く頭を下げると、すぐに二階へと向かう。

 こうして二階の一番奥にあるマスター執務室の前に立つと、その扉を勢いよく開けた。

 すると、そこにはマスターを前にひざまずくアイスの姿があった。


「そこで、ウィード君が言ったんです! 俺たち二人が囮になるから、アイスたちは逃げてくれって。マスター、何とか二人を助けてください! 今ならまだ、命だけは助かるかも――」

「その心配はいらないぜ」

「え? ええええッ!?」


 俺たち二人の顔を見て、アイスは腰を抜かした。

 彼女はこちらを指さし、言葉にならない叫びを上げながら尻を引きずって後ずさる。

 その脇に立っていたレミオット、さらにはギルマスまでもが驚きで顔をひきつらせた。

 

「お前たち、生きておったのか! テイオウウツボを相手に、よくぞ無事に逃げて来たのう!」

「それが逃げてないんだな。シルフィ、あれを!」

「はいッ!」


 シルフィは背負っていた包みを下ろすと、布を開いて中を見せた。

 たちまち、白く光る巨大な牙が姿を現す。

 大人の男よりも大きなそれは、テイオウウツボが残した中でも一番大きい牙だった。


「そ、それは! お前たち、あのテイオウウツボを倒したのかッ!!」

「ええ! さすがにちょっと、苦労しましたけどね!」

「なにせ、この私が怪我をしましたからな」

「おおおおおお……ッ!!」


 俺たちの報告を聞いて、ギルマスは子どものように目を輝かせた。

 テイオウウツボと言えば、大物中の大物。

 それをもし本当に倒したとなれば、結構なレベルの英雄である。

 新たな強者の誕生が、素直に嬉しいらしい。

 だがその一方で、アイスとレミオットは完全に色を無くしていた。


「すぐに鑑定士を呼ぼう! これが本物なら、大変なことになるぞ!」

「ありがとうございます!! でもその前に……話しておかないといけないことが」

「何じゃ? まさか、冗談でしたとかは、なしじゃぞ?」

「そんなことじゃないです。……えっと、今回のテイオウウツボとの戦いなんですけどね。実はそこにいる二人、俺たちを見捨てて逃げたんですよ。逃げられないうちに、まずはその処罰をしていただかないと」

「なぬ?」


 話を聞いて、ギルマスの顔つきが豹変した。

 彼はアイスとレミオットを睨むと、ドスの利いた声で尋ねる。


「お前たち、今の話は本当か?」

「違います、二人は囮になろうって自ら言い出したんです! そうよね、レミオット!」

「え? あ、ああ……」

「本当にそうなのか?」

「ぐぐ……ッ!」


 ギルマスに問い直され、言葉に詰まるレミオット。

 彼にはまだ、少しではあるが良心が残されていたらしい。

 アイスとギルマスの顔を見比べて百面相すると、やがて疲れたようにゆっくりと口を開く。


「…………違います。俺とアイスは二人を見捨てました。こんな小細工までして」


 手のひらを持ち上げる。

 そこにはまだ、先ほどの石がくっついていた。

 それを見たアイスたちの顔は、さらに青みを増す。


「なんじゃの、その石は?」

「どうやらこの石にウツボは惹かれて居たみたいなんです、原因は分かりませんけど。それを知ったアイスはカッチーの果汁を付けた状態でこいつを投げつけて来て……」

「違います、違いますッ!! それはあくまでも、ウィードが自主的に付けたものです」

「もうやめよう! 無理だよ、この状況で誤魔化し切るのは!」

「うるさいッ!! そ、そうよ! ギルマス、こいつらはグルなの! グルになってね、私をはめようとしているのよ! これでも私、結構お金貯めこんでるからそれを狙って――」


 この期に及んでアイスはまだ言い逃れを続けた。

 ここまでくると、逆に良くネタが尽きないなと感心してしまう。

 しかし、このまま言い訳され続けたのではキリがない。

 そろそろ、確たる証拠を突き付けてやるとしますか。


「私とこいつは最近仲が悪くて、だから――」

「アイス、話はそこまでにしてこれを聞いてくれ」


 俺は手早くブローチ型の魔導具を取り出すと、有無を言わせぬうちにスイッチを入れた。

 たちまち中に保存されていた声が流れ始める。

 そう、これは録音のための道具なのだ。


『さ、レミオット行くわよ!』

『い、良いのか!? ここで放置したらこいつら……』

『構いやしないわ! 私たちが残ったって、死人が増えるだけよ。尊い犠牲になってもらい――』


 ここまで流したところで、魔導具のスイッチを切る。

 たった十秒ほどの音声。

 しかし、アイスを断罪するにはこれだけで十分だった。

 これを聞いた彼女の肩は震え、今まで必要以上に動いていた舌が回らなくなる。


「そ、そんな……こ、これは。これは、何かの……」

「アイス、お前さん開拓者として一番やっちゃいけねえことをしやがったな?」

「ち、ち違います……! 私は、私は何も……」

「うるせえッ!! ちったァ素直になりやがれッ!!」


 一喝。

 立場や年齢からくる重みを感じさせるそれに、アイスはたちまちへたり込む。

 やがてその股の間から、温かいものが漏れ出した。

 恐怖のあまり、堪えきれなかったようだ。

 ギルマスは情けなく広がった水たまりを見て、舌打ちしながら言う。


「……アンデルの梯子へ行け。期間はそうだな、二十年だ」

「アンデルに、に、二十年!?」


 絶句するアイス。

 アンデルの梯子というのは、アッパーフィールドで建設されている島と島を結ぶ通路のことだ。

 高低差のある島を、さながら梯子のようにして繋ぐことからこう呼ばれている。

 その現場は恐ろしく過酷で、しかも死亡率が高いことからもっぱら囚人が労働力として用いられていた。

 つまり、二十年間の強制労働というのがアイスに課せられた今回のペナルティであった。


「そ、そんな。いくら何でも重すぎます! たった一回、それも命に危険が迫ったからあんなことをしただけで――」

「アイスは前にも、俺の金を持ち逃げしてるよ」

「その女、どう見ても常習犯ですぞ。主様の他にも、たくさん被害に遭っている者がいるでしょうな」

「お前さん、以前にもいろいろと有耶無耶になっていた事案があったじゃろ? 忘れたとは言わさんぞ」


ギルマスの目が光る。

やはり、アイスには他にも余罪があるようだ。

あの性格だから、前々から悪事を重ねていたに違いない。


「ぐうッ! そ、そうだ! ねえウィード、私が居なくなったら地図の場所が分からなくなるわよ! ギルマスに掛け合ってくれたら、すぐに教えてあげるわ! だから、お願いッ!!」


 今度はその手か。

 本当に次から次へといろいろ考えるな……。


「ギルマス、こいつが居なくなったらこいつの家を家捜ししても良いですか?」

「構わん。必要なものがあれば、持っていくといいじゃろう」

「だってさ。地図は家捜しして見つけ出すから、問題ないよ」

「きィ……! おのれェ! こうなったら道連れにしてやる、このヘナチン野郎ッ!!」

「なッ!!」


 いきなり、隠し持っていたナイフでアイスが斬りかかってきた。

 素早く突き出された刃を、とっさに手で弾き飛ばす。

 すると、跳ね返ったナイフはあろうことかアイス自身の顔へと突き刺さってしまった。


「あがッ!! 私の顔がッ! 顔にナイフがッ!!」

「こいつ、大人しくするんじゃッ!!」

「いやァッ!! 誰か、医者を早く! 私の顔が、大事な顔がァッ!!!!」


 窓に映った自身の顔を見て、アイスはおぞましいほどの叫びを上げた。

 そのまま狂ったように喚き続ける彼女を、ギルマスが力づくで引きずり出していく。

 その様子は、もはや人間というより獣だった。


「自業自得だな」

「ええ。ああはなりたくないものです」


 シルフィの言葉に、深々と頷く俺。

 そうしていると、アイスを他の職員に引き渡したギルマスが戻ってくる。

 くたびれたした表情をした彼は、椅子に腰を下ろして深い深いため息をついた。


「……やれやれ。うちのギルドに、あんなとんでもない奴がおったとはのう。もっと、規律をしっかりとせねば。さて、次はレミオットじゃの」

「は、はいィッ!!」

「ははは、そこまで怖がらずとも良い。そなたの場合、アイスとは違って本当に初犯じゃろう。罪の意識もあったようじゃし……金貨百枚と言ったところじゃな」

「ひ、百枚!?」

「嫌かの?」

「つ、謹んで払わせていただきます!!」


 アイスのことがよっぽど深く心に刻まれたのだろう。

 レミオットは膝を揃え、最敬礼をした。

 マスターはうんうんと頷くと、改めて俺たちの方を見る。


「どうかの? 処罰はこれで満足かの?」

「ええ、ありがとうございます」

「わしは仕事を全うしただけじゃよ。それよりも、ギルド内の不正を見抜けずに居てすまなかったのう」

「本当です! 私が居なければ、主様は今頃死んでいたところですぞ!」


 頭を下げたギルマスを、さらに容赦なく責めたてるシルフィ。

 たまらずおいおいとストップをかけようとしたが、ギルマスは「いやいや」とばかりに手を振った。


「いいんじゃよ、その者の言うとおりなんじゃから」

「あはは……。こいつ、俺のこととなると誰だろうと構わないので……」

「ははは、それでこそ出来た従者というものじゃろうて! ま、気分の悪い話はこれぐらいにしよう。せっかくウツボ殺しの英雄が誕生したんじゃな。人も集めてしまったことじゃし、今日は盛大に宴でもしようではないか!」

「おおおッ!!」


 こうしてこの日、ギルド隣の酒場で盛大に宴が開かれたのだった――。


アイスの処遇はこれぐらいで良かったのかな……?

何かご意見があれば、感想欄にて頂けると幸いです。

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