紅魔館日常記
この作品は、東方プロジェクトの二次創作です‼︎起承転結…ない…
「ねえねえお姉さま!」
ノックもしないで、騒々しく入ってくる者がいる。
「咲夜がケーキを焼いてくれたよ‼︎」
ただ一人の妹、フランドールだ。全く、うるさくて周りにいると何にも集中できない。反対にいかなるときも冷静沈着、カリスマの具現化のような私が、レミリアである。私が紅い濃霧で空を覆い尽くし、幻想郷を支配しようと目論んだ紅霧異変が解決されたとき、我が妹は初めて外に出た。長年館の地下に閉じこもっていたため精神は多少不安定だったものの、友人が幾人か出来たこともあってだいぶ落ち着いている。
それにしても私は職務中…咲夜にはフランに邪魔をさせるなと言っていたはずだが、何を迂闊にケーキなど焼いてしまったのか。ちなみに咲夜は、この紅魔館専属のメイドである。
「どうして咲夜が?私が止めていたと思うんだけど」
こう問うと、フランは頬を無邪気に膨らませて私を睨んだ。しかし、昔のように狂気を孕んだ瞳ではない。ただ不機嫌な様子を見せているだけのかわいい女の子である。
「咲夜ったら、私がお腹空いたって言っても『今はお菓子作りをすることは出来ません。お仕事中のお嬢様のご命令ですわ』なんて言って作ってくれないんだもん。私が怒ってキッチンを壊そうとしたら、慌てて作り始めたけど」
前言撤回。やはり顔はかわいくても行動がかわいくない。そう。フランは『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』という特別な能力を所持している。右手の平に物体の『目』と呼ばれる最も緊張した部分を移動させ、それを握りしめて刺激することで破壊する。するとその物体自身もこっぱみじんになるということである。本人(本吸血鬼?)は楽しんで道端の石ころなどを壊したりしているが、もしも機嫌を損ねて屋敷を壊されたりしようものなら修理費が莫大にかかるだろうし、何より自分たちの身が危ない。
また、能力はフランだけでなく私も所持しているが、フランのように危険なものではない。『運命を操る程度の能力』…大した使い道もないように思えるが、いつか咲夜が言っていた『カジノ』などと呼ばれる賭けでは私の独壇場だろう。もっとも、そんなものに手を出したらあいつの雷が落ちるだろうが。そして…どうやらフランは、自分の能力を悪用して咲夜を脅していたらしい。
「ああ、そう…。それで、咲夜はなんのケーキを焼いてくれたの?」
危ないことをさらっと口にするフランに私は聞いた。妹の能力に恐れをなしてビクビクしているとは、我ながら情けない。こんなのだからフランの方が人気なのだろう。ああ、そういえばかのさとり妖怪のところでも妹の方が人気を博していたか…とくだらないことを考えていると、フランが嬉しそうに答えた。
「今日は霊夢と魔理沙も呼ぶことにしたからって、いつもより大きいの焼いてくれたの!」
いや、こちらは味の方を聞いているのでして。それにしても、霊夢が…?
博麗 霊夢と霧雨 魔理沙は、よく二人で一緒にいる。幼馴染のような関係だろう、如何わしくは見えない。魔理沙はよく紅魔館の大図書館から本を盗んでいくのでいやというほど面識がある。あいつにどれだけ司書のパチュリーと使い魔の小悪魔が泣かされたことか。霊夢の方はと言えば、世界と隔離された幻想の聖地…幻想郷の管理を任された博麗の巫女と呼ばれる職業についている。妖怪たちが暴れる異変のときには神社から出て行き、力ずくで粛清する。密かに鬼巫女と呼ばれる、空飛ぶ不思議な巫女である。
最近になって妖怪と人間が対立する必要は無くなった。異変は妖怪たちが頻繁に起こしているものの、それを巫女に協力的な妖怪が解決する場合もあるほどである。これは大賢者である八雲 紫という妖怪のおかげなのだが、霊夢がわざわざ妖怪の住処に訪れることは少ない。不思議に思った私は、フランに三つ目の質問をした。
「どうしてあの出不精巫女…じゃなくて霊夢がここに来るの?」
「咲夜が魔理沙を呼んだときに、ついてくることになったんだって。やっぱり魔理沙と霊夢って『じーえる』なのかな?」
それを聞いた私は、思わず椅子から立ち上がって叫んだ。
「どこでそんなことを覚えてくるの、あなたは⁉︎スカーレット家の吸血鬼が、恥を知りなさい‼︎」
ああ、疲れた。フランに出会ってまだ十分も経っていないのに。
「やあ、咲夜ー!来てやったぜー!」
「…来てあげたわよ、しょうがないわね」
「あなたたちはどうしてそんなに無礼講なのかしら?」
竹箒を担いだ魔理沙と無表情の霊夢、そして彼女らを迎える咲夜が紅魔館のポーチに立っている。そして私は二回のバルコニーからその様子を眺めていた。先ほど爆弾発言をしたフランは、地下室に押し込めておいた。今頃ぬいぐるみでも壊して憂さ晴らしでもしてるんじゃないかしら…
「あ、そういえばフランはどこだ?」
眼下から魔理沙の声が聞こえてきた。彼女とフランは仲がいい。紅魔館の住民以外にフランの精神状態を安定させることが出来るのは、魔理沙くらいだ。咲夜の答える声が風に乗って流れてくる。
「…お嬢様が地下室に追いやりなさって…」
まあ、なんて言いよう。そう呟き、私はコウモ…吸血鬼の翼を広げてベランダから飛び降りた。
「待ちなさい、咲夜。フランのことは、地下室に押し込めただけよ。追いやったわけじゃないわ」
「結局のところ同じじゃない」
霊夢のツッコミが飛んできた。いや、違う。あくまでも私は自分の主張を突き通してみせよう。
「まあ…今日はフランに会うのはやめようかな」
そう、魔理沙がぼやいたとき、霊夢が顔を斜め上に上げて首を傾げた。
「あら?何か聞こえなかった?」
「いえ、何も…」
と咲夜が言った途端、事件は起きた。
「お姉さまの、ばかあああああああ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」
一番危惧していたことが起こってしまった。
私と咲夜の頭にはレンガが降りかかり、門の外には魔理沙の手を引いて飛ぶ霊夢の姿が見える。そして…崩れ落ちた館のがれきの上には、こちらを睨んでいる妹の姿があった。
「お姉さま。私を差し置いてみんなと遊ぶなんて許さないわ!地下室からでも声が聞こえるのよ。天井に穴を開けておいたんだから‼︎覚悟しなさい‼︎」
このあと、辺りに私と咲夜の叫びが響き渡ったのは言うまでもない。
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