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さよなら中二病  作者: 幻夜軌跡
序章 転生前
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第二話 彼女を探しています

三廻部(みくるべ)思案(しあん)さん、行方不明の波川光なみかわひかりさんのことで事情聴取したいので署までご同行頂けますか? それと部屋の中を調べさせて下さい」


 光。俺の元教え子であり、元カノだと今でも思っている少女。思い出すだけで胸が痛くなる。別れてからもう半年が過ぎようとしてるのに、未だに忘れられない彼女への想いが確かにあった。


「え? 行方不明ってどういうことですか!?」


 問いただす俺を見た警察官の目は虫けらを見るように冷たかった。どちらも三十代と見受けられる男性で、制服の上からでも鍛え上げられた肉体が見て取れた。眉根を寄せて睨み付ける二人の顔は悪を糾弾する正義の使者のそれだ。


「失礼、まずは部屋に入らせてもらう」


 半開きだったドアを引いて警官二人は玄関に上がり込んだ。

 ドアに引っ張られそうになって慌てて手を離した俺は、二人を通さないように立ち塞がる。


「いきなり何なんですか!?」

「何かやましいことでもあるのか?」


 え? どういうこと?

 戸惑う俺を力ずくで退けると、二人の警察は部屋の探索を始める。

 丁寧だったのは最初だけで、上がり込んだ二人は俺に一切遠慮する素振りは無かった。


「ちょ、ちょっと!」


 1LDKの狭い部屋。まずは押し入れを開けて、ふとんや本が入った段ボールを乱暴に投げ出していく。


「おいっ!」


 続いて一人が勝手に人のパソコンを起動し、 もう一人が机の引き出しを全てひっくり返して物色していく。


「あんたら、どういうつもりだ!?」


 児童ポルノ禁止法の抜き打ち検査かと思った。だがすぐに光の探索で来ていたことを思い出す。パソコンの操作を止めようとした俺を、机の中身をぶちまけた警官が突き飛ばす。

 尻もちをつきながら、これは為す術が無いと瞬時に悟った。


 警官達はそれから部屋中を探索した。とはいえ、狭い部屋だ。タンスの中身をぶちまけ、本棚をぶちまけ、トイレと一体化した洗面所や台所の食器置き場のスペースを除いたところで終わった。時間にして30分足らずだ。

 それから黙って見ているしかなかった俺に向き直り、


「よし。署まで付いてこい」


 有無を言わせぬ口調でそう言った。


「ふざけんなよ! 訳も分からず家中を引っかき回しといて、付いてこいって何を言ってんだよ!? だいたいこっちは事情も分かんないんだ! 説明しろよ!」


 警官は舌打ちした。完全に敵意むき出しの二人に俺も怒りのボルテージを上げていく。

 ブチ切れ無かったのは、光が行方不明だと聞いていたからだ。

 光の安否を知りたい。何が起こったのか?

 彼女の危機に心がかき乱される自分に、まだ彼女が好きなんだと嫌でも気づかされる。


「波川光さんは一週間前から家に帰っていない」


 警察の話を聞き終えて、すぐに頭に浮かんだのは昨今のニュースだった。

 少女を誘拐する男、出会い系サイトで知り合った男の家に泊まりにいく少女、痴情のもつれや恋情から殺される少女・・・・・・どれもろくでもない話だ。


 一週間前に最後に光を目撃したのは学校の友人だという。帰りに駅で別れて塾に向かう光を見送ったとのこと。塾には光は来なかったらしい。それから一週間、音信不通のまま。


「って、ことは……」


 真っ先に疑われたのが俺らしい。


「おいっ! ふざけんなっ!」

「ふざけているのはお前だ! 罪を認めて今すぐ彼女を解放しろっ!」


 警官達は鼻息が荒い。両肩をわなわなと震わせて怒りを露わにしている。

 屈強な肉体を持つ二人の血走った目を向けられて恐怖を抱いたが、こればかりは黙っていられない。


「俺が光を誘拐するわけが無いだろ!」


 俺がどれだけ光を愛していたか。真摯だったか。彼女との恋は終わったかも知れないが、自分が捧げた純情は色褪せない。それを侮辱されるのは我慢ならない。


「彼女をストーカーし、家にまで忍び込んで置いて、どの口でほざいてやがる!」

「バカなっ!?」


 何を言っているんだ? まさかこいつらには俺の行動がそんな風に見えていたのか? あれこそ男の純情であり、真摯な姿勢だというのに。当事者以外には分かんないんだよな。フィルターかけて見てやがんだろーな。


「ちっ」

 

 苛立ちを隠せず思わず舌打ちしてしまう。よく見たらこいつらって、光の部屋に入った件でお世話になった警察官では無かろうか? そりゃ、俺に悪い印象を抱いていてもおかしくないか。

 言って聞かせなければなるまい。


「いいか? 俺と彼女は愛し合っていたんだ! 俺の行動は全て純愛だ!」

「淫行教師がどの口でほざきやがるっ!」

「おい、よせって! 我慢しろ! せめて署に連れてってからだ!」


 目の前で俺に殴りかかろうとする警官をもう一人が羽交い締めで止める。

 おいおい、マジで決めつけてんのかよ。だめだ、こいつらと話しててもらちが明かない。


「あ! おいっ!」 

「逃げるなっ!」


 俺は直ぐさま、アパートから駆け出した。警官達が慌てて追いかけてくるので、すぐにパトカーが通れない小道に入って姿をくらませる。

 こみ上げる怒りで頭が沸騰しそうだった。

 なんだよ淫行教師って! 心外だ! そんなもんと一緒にするなよ!

 続いて焦燥が胸一杯に広がっていく。

 光はどこに行ったんだ? 家出か? 俺との恋愛に反対したように、両親の締め付けがキツかったから反抗したのかも知れない。可愛いから本当に誘拐されたのかも知れない。


 詳しい事情を知る必要がある。

 俺は光の家に向かった。

 光の家に着くと、前回はいなかった黒服の男達が家の周囲に張り付いていた。

 前回は見かけなかった男達に首を傾げる。

 そういえば、光の父親は代議士だった。ということは、彼らは護衛の人なのだろうか?


「俺、このまま会いに行っても大丈夫なのか?」


 広い庭付きの一軒家から少し離れて俺は様子を伺った。

 いや、俺にやましいことは無い。気を取り直して恐る恐る玄関に近づく。黒服の男達は俺の姿を見て顔に警戒の色を浮かべたが、急に取り押さえるようなことはしなかった。

 インターホンを押す。


「はい、どちら様でしょうか?」


 中年の女性の声が聞こえた。光のお母さんだろう。俺は緊張から背筋を伸ばす。


「あの、光さんが行方不明になったと聞いて来たんですが……」


 俺の言葉に相手は声をくぐもらせた。やはり名乗った方がいいのだろうか。でもそうしたら追い返されるよな。


「ひょっとして、以前、光の学校で世界史の講師をしてた方ですか?」


 悩んでいると、向こうが俺の正体を察してくれたらしい。


「あ、はい! そうです!」


 俺は力強く返事をした。すると、インターホンがプチッと切られる。


「あ……」


 やっぱり、そうだよなぁ。まだ誤解は解けていないらしい。肩を落としながら俺は扉に背を向けた。


「うおおおおおおおおっ!」


 腹の底からこみ上げてくる雄叫びが聞こえてきたのは数歩も歩かないうちだった。

 背筋にゾワリと悪寒が走って振り返ると、そこには日本刀を抜いて鬼の形相で迫り来る光の父親がいた。


「ていゃああああっ!」


 迷い無く振り下ろされる一太刀。空気を切り裂く一撃を避けられたのは威圧で尻もちをついたからに他ならない。


「ちょ、ちょっと待って! いきなりーー」

「このド変態野郎がっ! 逃げたと聞いたぞ! 以前は光に免じて大人しくしてやったら調子に乗りやがって! 光を返さないかーっ!」


 光の父親はブンブンと縦横無尽に刀を振り回す。俺は飛び跳ねて逃げ回る。


「あなた! 待って! 落ち着いて下さい!」


 光の母親が駆け足でやって来る。安堵の息が漏れる。冷静な人がいてくれるなら、どうにか話ができそうだ。その期待はすぐに裏切られる。


「斬るならせめて光の情報を聞き出してからして下さい!」


 こいつらダメだ。瞬時に見限った俺は走り出す。


「待てっ! 逃がすなっ! お前達、あいつを捕まえろ!」


 その言葉に黒服達が反応して追いかけてくる。俺は死にものぐるいで走り、途中で民家に隠れることでやり過ごした。


 それからあっという間に、俺のアパートや実家、大学や現在のバイト先まで黒服が張り込むようになった。さらに俺の住む町や実家を中心に警察の巡回が強化された。これでは捕まるのは時間の問題だろう。


 とりあえず人目をできるだけ避けるために町外れの方へと走った。

 どこか遠い町に逃避するつもりはないけど捕まるわけにはいかない。

 拘束されたら光を探し出せない。俺はそう考えた。

 テレビや新聞では光の行方不明の情報はまだ流れていなかった。

 時間の問題だと思うが、光の安否も時間との闘いだ。警察が俺を疑っているうちは、捜査の範囲が間違っている。これは致命的だ。そして疑っている俺を捕まえれば尋問にさらに時間をかけるに決まっている。

 自分が無実であるという真実を知る俺にしか彼女を探し出せない。


 それこそRPGの主人公のように、酔っていたんだと思う。

 真犯人が俺に濡れ衣を着せている。俺が光を救い出すことで勇者になる。

 とはいっても、俺が指名手配のように追い回されている状況で、光の情報を入手できる場所に近づくのは難しい。


「どうすりゃあいいんだよ?」


 夜道をトボトボと歩く。町中を警官がパトロールしているので、監視カメラのある場所はもちろん、空き地や公園などにも腰を落ち着けられない。

 現実はフィクションとは違う。俺にはこんな状況から光を助ける道筋を見つけることができない。

 否が応でも、無力感が押し寄せてきた。


「はい、そこのお兄さん!」


 今の陰鬱な気分からして、場違いな陽気な声だった。

 声がした方を見ると、そこには赤いローブを着てフードで目元を隠した若い女性がいた。首からはリンゴの絵柄が刻まれたペンダントをかけている。

 小型テーブルの上には水晶があり、少女は座ったままこちらを見ている。

 占い師? 何でこんな所に?

 駅や住宅地からも離れた人通りが少ない道の端、電灯の真下にテーブルとイスを設置して構える彼女はまるで場違いだ。


「お困りではありませんか?」


 占い師はニコッと笑った。

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