秋空
「女心と秋の空は移ろいやすい」
窓辺に座る彼女がそう呟いた。静かな黄昏にその声は思いのほか響き、折り紙で遊んでいた僕はふと彼女に目を向ける。
彼女は外を流し目に見ていて、残照の赤に浮かぶ瞳は琥珀のように透き通っていた。
「どうしたの」
憂鬱そうに目を伏せる彼女にそう聞き返す。彼女はこちらを一瞥すると、皮肉るように唇を持ち上げた。
「唯一変わらないのは私だけだ。永遠の命という呪いを掛けられ、死ぬこともできない。……だが、お前は?」
深くしっとりとした声が届く。ベッドの上にいる僕は俯いた。千代紙に埋れた、白くやせ細った手が目に入る。
そして唇を開く。
「僕の命は永遠じゃない。けれど、僕の中にも変わらないものはあると思うんだ。例えば、君に対する気持ちとか」
「熱烈な告白なことで」
嘲るように鼻を鳴らして、彼女は冷淡にも顔を背ける。しかし黒髪の隙間から覗く頬が赤く染まっているのを見て、つい頬が緩んでしまった。
「現し世……ううん、移し世と言うのかな。永遠のものはないけれど、だからこそ僕は君のそばにいたいな。変わらないものを、君に見ていて欲しいから」
すると彼女はますます顔を赤くした。
「馬鹿。逆だろう、私がお前のそばにいるんだ。お前と、共にありたいから」
たどたどしく告げると彼女は立ち上がり、こちらにそっと歩み寄る。
「君も君で、ずいぶん熱烈な告白だね」
「うるさい」
僕は彼女を抱き締めて、頬の涙を指で拭いた。
闇を落とし始めたシーツの上に、出来上がった鶴が並ぶ。このまま千羽連ねて、彼女のために窓辺に飾ろうと思った。