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パンを食し主の杯を飲む者は

 全員がテーブルについたところを見計らい、これまでの状況説明を行った。話が進むにつれて、ピーターが笑いを抑えきれない、といった表情になっていった。視線をこちらに向けたまま、指先だけでカメラの各部を起動させている。

「なんだなんだ、ロシアンマフィアのシンジゲートが関わってくるって?急にきな臭くなってきやがったなあ~。これけっこうデカいヤマなんじゃねーか?」

 やる気になってきたようで、こちらとしてもあおりがいがある。

「だから言っただろ?ピーター。こういう小さな事件が大きな仕事に繋がってくるんだって」

「ボクはボブのことが心配になってきたヨ!マフィアなんてオ↑ソロシイ!」

 チャーリーだけが渋い顔をしているのが気になった。酒気も抜けたようだが、話を聞いて以来手元の酒には手をつけていない。しばらくして、彼は少しだけ迷って言った。

「この町でマフィアに逆らうだなんてとんでもない。俺は降りさせてもらうぜ」

 皆が意外そうに彼をみる。一番驚いている様子のピーター。

「おい警官、こんなところでビビっちまってんのか?」

「お前にはわかんねぇんだ!この町で生き残るためにどうすればいいのか!」

 激高してチャーリーが言う。なるほど。この街で何が危ないかは、彼が一番良く知っているのかもしれないな。だが、その知識は重要だ。もう少しだけ付き合ってもらおうか。

「じゃあお前はここで降りるのか?本当に」

「そういってんだろうが」

 不本意そうな顔つきのチャーリー。本人も自分自身を納得させられていないのだろう。ならば。

「ボブは大切な友達なのに?」

「!」

「キャロラインに頼まれたのに?」

「!」

「そういえば、キャロラインから借りた金、どうした?」

「…」

 目の前の空きグラスの山になってるよな?

 私が畳み掛けると、彼はそのグラスの山に目を落とした。

 しばらく逡巡し、ため息混じりに答える。

「わかったよ、しゃあねぇな」

 言ってからグラスをひっつかみ、流しこむように飲んだ。


「でもこれからどうするネ!ホントーニ!マフィアのトコに行くのカイ!?」

「マフィアに直接話すのなら、やはり警官にお願いしたいのだがな?」

「おい!さっきオレが言ったことは無視かよ!警官とマフィアだって?水と油の関係じゃねぇか!」

「フム。ではマフィアには、俺が話が聞いてこよう。そうだな、ピーター、お前一緒に来ないか?」

 ここで自分の名前が出てくるとは思わなかったのだろう。含んでいた酒を吹き出してゴホゴホと咳をする。

「おいおいおいおい!いきなり、その!敵のあの!本丸にあのー考えなしに…pくぁ」

「敵と決まったわけではないが?」

「いやいや!アンタもうちょっと、あの、もうちょっと確かな証拠を掴んでからじゃねーとまずいんじゃねーの?」

「だが、酒の正体と流通に関しては気になるところではあるしな。それに、俺は探偵だからな。気になったことをひとつひとつ潰していかないと気がすまないんだよ」

 チャーリーが割って入る。

「わかったわかった!とりあえず一回情報を集めた後にしようぜ。俺は署に戻って話を聞く。ピーター、お前あれだ。出入りしている新聞社で情報収集してこいよ?」

「お、おう。じゃあ俺はそうしてみるわ」

 チャーリーからの意外な助け舟に、ホッとした様子のピーター。だが、その助け舟は泥船だからな。気づいていないようだが、今のは、集めた後に”マフィアのところに行くことに”しようぜ、という意味だからな?

 アニーは、そんな汚いやりとりに気づいたようだった。

「チャーリーお酒が抜けたネ?」

「いやいや、これは酒を飲んだからさ」

 マフィアのところに行くのは嫌だが、ピーターが困っているところを見るのはそれを上回って魅力的らしい。新しいビールに口をつけながら、チャーリーはにやりと笑った。

「他の3人はどうする?」

「セイウチについては、ちゃんと調べておかないといけませんよね」

 トイレから出てきた後もへばっていたシャイロックだが、少し回復したようだ。

「マフィアは危ないし、無理して行かなくてもいいんだヨ」

「そうだな。シャイロックさんはなぜセイウチに?気になることが?」

「ええ、お仕事でお名前を拝聴することがありまして。どんな方か知っておきたいのです」

 シャイロックもマフィアルートか。人出が足りないな。

「ボブの職場にも人を割かねばならんが、どうするか」

「じゃあこうしようぜ。探偵さん、アンタあれだ、キャロラインの”最終日ボブはちゃんと仕事に行ってた”っての、下水道センターに行って確かめてきてくれや。単独調査、一般人相手なら探偵さんが適任だろ?」

「ふむ、悪くはない提案だ。せいぜい死なないようにするよ」

「で、シャイロック爺さんとキングはマフィアんとこ」

「セイウチの方ですね。はい」

「シャイロックが心配ダカラ、アニーもそっちのほうがいいナ」

 なんでこの2人?って気はするがな。

 ピーターが手を上げていう。

「あ、チャーリー。俺ひとりで新聞社行くのもあれだから、アンタもついてきてくれよ。そのほうが出てくる情報もあるからさ」

「おう、わかったよ」

「一緒に周っていこう。警察署と新聞社」

「あぁ、その後マフィアの調査に合流するからな」

「!」

 ピーターの顔が、驚愕で歪んだ。やはり気づいていなかったか。

「あの二人でほっとけねぇだろ。警察と新聞の方は巻きでやるからな」

 固まったままのピーターを横目に、他の4人は席を立つ。


 バーを立ち去り際、思い出したことがあった。ピーターに声にかける。

「あー、えっと、ピーターな」

「?」

 ようやく回復したらしいピーターが、青い顔でこちらを向く。

「マフィアな。ロシアンマフィアじゃないからな」

「えっ?」

「誰もロシアンマフィアって言ってないぞ。むしろ、ロシアンと敵対している組織もあるから。言い間違えて、頭に穴を空けられないようにな」

 ピーターの顔色が、更に青くなった。

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