ハルモニアシリーズ番外 ねこねこ草の恩恵
この世界は一年に一度のある日、人々が異様な姿になる。
原因はねこねこ草という何ともふざけた名前の植物が一斉にばらまく花粉のせい。
毒性は無い。効果もその日限り。ただそれを吸うと。
目を輝かせるゲイル、頭の上に伸ばされる腕を振り払う。
ふー!と威嚇しながら私は半歩後ろに。
後ざる私に合わせて近寄る彼は懐から何かを取り出した。
「今年も見事ににゃんこだねえ、ほれー猫じゃらし」
「やめんか!!」
目の前で揺らされたそれを殴りつける。ちょっと心惹かれたのは気のせいだ。
怖い怖いと口ではそう言いながらもゲイルは楽しげである。
毎度の事とは言え、苛立ちは抑えられない。でも怒れば彼の思う壺。
「あーもう、うっとうしい!」
私のイライラに合わせたように動く耳と尾。
どういう原理か未だわかっていないのだが生える際にきっちり神経も通る。
そうじゃなきゃ引っこ抜いてやるのに!
行き場のない怒りを抱える私と対照的にゲイルはニコニコ、どこまでも悪循環だ。
「可愛いのに」
「……うるさい」
ゲイル曰く、ねこねこ草の花粉は需要があるらしい。
薬の材料に使われる訳では無く直接吸わせるのだとか。
それでは現在の私のように猫のパーツが増えるだけ。
何のメリットがあるのかと問えば、猫耳と尻尾を好む男は多いのだと。
だから恋人に吸わせてにゃんにゃん勤しむわけ、と余計な知識を植え付けられた。
ゲイルもそういった性癖を持っているのか。毎回さっきのよう褒めてくる。
「アンタも一回生えればいいのよ……」
「中年の猫耳とか誰得だと思うよ、おっさん」
ねこねこ草の効果は人間だけらしい。
だから人の血を持たないゲイルは反応しない。
もし仮に彼が人間だとしてもおそらく生やさないのだろうなと思う。
「そんなに嫌なら薬飲めばいいのに」
この時期になると予防薬が売り出される。
花粉が放出される前に飲んでおけば、ねこねこ草の効果は現れない。
一般常識だ。当然ながら私も知っている。というか作れる。
薬師の資格だって持っているのだ、植物の知識は人よりあるはず。
「……誰のせいだと」
「ん?」
びたん、と尻尾が床を叩いた。それから彼の脇腹も。
拳よりはマシだろうが想定外だったんだろう、綺麗に決まった。
おなかを抑え蹲るゲイル。何で?と首を抱えていたので八つ当たりと。
「ツェリひどい……」
「アンタが悪いの」
可愛いなんて言うから。私はこれからもずっと飲めない。
他キャラ分は力尽きた。お付き合いありがとうございました!