00.仮設
少女は怯えていた。それは自分に対してであり目の前で倒れている人間に向かってでもあったし、初めて見る初めて感じ、初めて得た感覚に。初めて初めて初めて初めて初めて彼女は人を殺した。
なぜだろう、なぜ彼は私の後ろをついてきて私の肩に手をおいて私の唇を胸を服を髪に手で触って扱いて汚してなんで私をなんで私に私が私の初めて初めてを彼が彼が? この肉が? 私を? え? 誰が、誰を?
そうして少女は悲鳴にも似た「産声」をあげて、夜の世界へと消えた。
同じ時間、少女が青年を「侵した」その瞬間、少女が住む世界の都市にそびえる時計塔の先端で意味を測りかねる微笑を蓄えた人型が在った。その人型はゆっくりあるはずのない眼をあけ、闇を背景に異様な眼光を、確かに少女が走るその路地へと向けていた。
「おめでとう。同胞の生誕に私になせる最大の祝辞を、そして汝が在った世界へ向けて「さようなら」を共に贈ろう。さあともに狂気を踊ろう。一人でカンプグルッペと成れよう。それだけの意味が在るのだから。ともに狂騒曲を奏でようではないか。プロジット!」
そうして男は両手を広げ歌を歌う。 少女は怯えていた。それは自分に対してであり目の前で倒れている人間に向かってでもあった。