6,湊翔side
【準備終わり。行ってくるね】
メッセージと一緒に送られてきた写真をタップする。アイスブルーのセットアップ風のワンピースを着ており、華奢なアクセサリーもとても千紗に似合っていた。髪型は低めのお団子でシニヨンにまとめており、ほっそりとした首が露わになっている。七分袖のフレアワンピースからのぞく手足も白く、美しかった。上品ながらも堅苦しい雰囲気がない。
写真からでも伝わるキラキラとした姿に、隣に立たないことを歯痒く思いながら【すごく似合ってる。頑張って】と返信を打つ。既読は暫くつかないのでアプリを閉じた。
俺たちはお付き合いを始めた。
千紗の仕事を知った日、腕の中でぐすぐすと泣く彼女をぎゅっと抱きしめていた。「も、もういい」と離れようとする千紗を俺が話すわけもなく、たくさんキスもしてでろでろに甘やかした。
もちろん千紗は顔を真っ赤にして「はなして…」と抵抗したけど、俺より2回りも小さい体なので、まるで小動物が戯れているようだった。可愛いなぁほんとに…。
2人で写っている写真に思わずにやけそうになった顔を慌てて戻す。まだお互いの関係は誰にも言っていない。2人で決めたことのひとつ、それは最初に俺らの関係を伝える人。
「湊翔くん!ごめん、お待たせしました」
「村上さん。すみません、お忙しいところ」
「大丈夫ですよ〜。何かあったかい?」
朗らかに笑うマネージャー。村上さんはデビュー当初から担当してくださり、途中で変わったこともあったけど、またCRÉZに合流してくれていた。
芸能界のイロハも教えてくれ、事務所とグループの架け橋もしてくれているこの人には、俺たちは頭が上がらない。姿勢を正した俺の様子にも、この人は気づいているだろう。
「話したいことがありまして…」
「はい、どうぞ」
「実は、お付き合いを始めた方がいます」
「…お相手のことを聞いてもいいかな?どこで知り合った?」
「…幼馴染なんです。昔からの。最近、付き合い始めました」
ちょっと一回待ってね、と言って深呼吸をするマネージャー。
「…これは他に誰か知ってる人はいるのか?」
「お付き合いしたことは、今は村上さんと相手の関係者しか知りません。メンバーは彼女の存在だけ知ってますが付き合い始めたことはまだ言ってません」
「ちょ、待て。待ってくれ。関係者…ってことはなんだ、一般の人ではないってこと?」
「…はい。村上さん、この作品知ってますか」
バッグから一つの本を取り出す。村上さんはこれ受賞したやつだよね。と漏らし…まさか、と目を見張った。そう、これは千紗の本。
「そうです。彼女、橘千夜先生です」
「…まってくれ、今日、たしか授賞式だったよな?話題の賞だって聞いたぞ」
「はい」
剥き出していた目を手で覆い、唸る村上さんの言葉を待つ。暫くすると「あのさ、分かってると思うんだけど、」と切り出され、体を正す。
「相手が一般の子ならまだしも、橘先生は受賞されてて、顔が非公開とはいえこれからも充分に話題の的になる。…これからのタイミング、考えてる?」
「…だから正直に言いました。隠していても絶対どこかでいつかは出ますし、嘘をつく方が良くないと思うので」
「は」と村上さんが息を呑む音が聞こえた。
「…失礼だと思うけど、一応確認させて。僕にまで言うってことは、橘先生のことは本気ってことだよね」
「本気です。将来も考えてます」
即答した俺に、「…わかった」と頷く。続けて真っ直ぐこちらを見て口を開いた。
「すぐに教えてくれてありがとう。このこと、事務所には僕から話してもいいか?」
「…こちらこそありがとうございます。よろしくお願いします」
「はい、任せておいて…。湊翔くん、おめでとう」
目を細めて笑う村上さんに、もう一度ありがとうございます、と頭を下げた。緊張からか、ギュッと握りしめていた手のひらは赤くなっている。
「きっと相手の関係者にも連絡して、今後の方針や対策を話すことになると思う。その時はお互いの調査も入ることになると思うけど…大丈夫?」
「はい、彼女も勿論だと話してました」
そう伝えると村上さんは話が早くて助かったよ、と笑った。芸能界の右左もわからない自分たちをずっと支え続けてくれた人。この人にもまだ見せたい景色はたくさんある。まだまだ頑張らないとな、と気を引き締めた。




