4,湊翔side
「湊翔さん、次こちらを持ってお願いします」
「はい。…こうで大丈夫ですか?」
「うーん。いったん反対に持ち替えてもらって…あ、そうですそうです!」
11月になり、現在は来年から使用するというCMを撮影している。手に持っている美容液を反対の手に持ち替え、調整しながら撮影が進んでいく。
順調に撮り終えて一度マネージャーと控え室に戻る。
「…はい、OKです」
「ん、ありがとうございます。あとお昼ご飯食べるところでしたっけ?」
「あ、そうですね。カメラ置いておくんで撮っていただけると」
「了解です、カメラ頂きますね」
マネージャーからカメラを受け取り、目の前に設置する。撮った動画はこのあと編集してもらい、グループの公式チャンネルでアップをしてもらうことになっていた。
昼食を食べながら動画を撮り、待機していたマネージャーに渡す。そのまま携帯を開いて小説が格納されているアプリを開いた。タイトルは『愛してると言えない夜に』。ドラマの現場で教えてもらったから、何気なく記憶に残っていたので購入した。
学生時代に付き合っていた男女が、時を重ねて出会う話。お互いに大事な存在を持ちながらも、惹かれ合う2人。過去の未練や後悔に衝動的な気持ちが芽生えそうになるが、お互いの立場を尊重し向き合い、それぞれの道へ進む。
話の展開はもちろん、登場人物の心情描写が繊細に描かれていて引き込まれていく。台詞だけでなく仕草や動きの描写も丁寧であり、小説でありながらも頭で映像が流れていくようだった。
「湊翔さん、そろそろ次いけますか?」
「あ、はーい。今行きます!」
マネージャーから声をかけられ、スマホをしまい控え室を出る。今日は夕方までには終わり、そのあとは珍しくオフだった。この後の予定はもう決まっていて、早上がりの日は最近のルーティーンになっていた。
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今の季節が冬に近づいていて良かった。
着込んでいても不自然ではないし、服装も街に溶け込みやすい。駅の改札前にあるカフェに入ってコーヒーを頼み、改札が見やすい位置に座った。
都市部から少し離れておりながらも、駅周辺は整っていて、住みやすい街だろうと思う。
千紗と会えたあの日から、帰り道をつけてようやく掴めた最寄駅で、早上がりの日には待ち伏せをする毎日を過ごしていた。でもなかなか会えないんだよなぁ…。やっぱり在宅ワークなのか?
「…でさ、本当にうんざりなんだよね」
「それはそうだね…。ていうか調子よすぎ」
「でしょ?1回自分を振ったのに今更こられても困るよね」
うっ……。
他人事とは思えない話題に、持っていた珈琲を置く。後ろに座っているだろう女の子たちは話がどんどん展開されていった。
「友達にしか見えないからって言われてすっごくショックだったのに。なんでその後もそのまま関係が保てると思ったんだろうね?」
「難しいことだよね〜。今、もう彼氏いるんでしょ?」
「うん、いる。だから困るっていうのもある」
「ずっと連絡くるんでしょ?ブロックしてもDMでくるって…こわすぎ」
ストーカーになりそう、という言葉に水面下にいた後ろめたい気持ちが浮上する。同時に彼氏という言葉に、千紗にもやっぱり…と考えが浮かぶ。
千紗に彼氏がすでにいたら、どうなるんだろう。
誰よりも千紗と話して触れて一緒に時間を作っていくのか…考えたくもない。
はぁ、と小さくため息をつく。
どうしてあの時、自分は断ってしまったのか。諦めたように笑いながらも、小さく震えていた千紗の姿が思い浮かぶ。そんないじらしい彼女の気持ちをずっと蔑ろにしていた自分に言える立場ではないことは分かっている…けど、どうしても過去の自分の行動や思い込みに悔やんでしまう。あと、普通に今の俺、気持ち悪いよな…ストーカーすぎる…。
暫くしてマンションの近くにも行ったが、結局この日も会えなかった。




