2,湊翔side
あの喫茶店の日以降、千紗から完全に距離を置かれていた。
まず連絡がつかない。メッセージアプリでは返信はおろか既読にもならない。通話なんて常時留守電状態。あとは自宅に寄っても居ない。段々と千紗ともう話せないということを実感する。このような事態を招いたのは自分だが。
だというのに、どうにか千紗との関係の糸口を探そうと必死だった。千紗と会えなくなってから、毎日の色が失われていくようだった。
「…湊翔くーん、大丈夫かい」
「…煌。大丈夫だよ」
「そうは見えないけどねぇ」
現場では出さないからいいけど、と鏡でヘアセットを確認しながら話す煌。ドアをチラリと見て控え室周りに人気がないことを確認する。
「…千紗、家出たんだって」
「一人暮らしってこと?」
「うん…しかも大学卒業してすぐに」
「仕事の関係かな〜。それは連絡来て知ったの?」
「…渚から聞いた。千紗からは変わらず連絡がないよ」
「だから変わらず落ち込んでるんだ」
今、5月だから、発覚するのに時間がかかったね。煌からの言葉にぐさりと胸が傷ついた。たまたま用があって実家に帰った時、渚から言われた衝撃は忘れない。それは会えないわけだ…。場所は教えてくれず、渚からはひたすら冷たい目で見られた。
『そもそもお兄ちゃん、今更気づいたの?』
『えっ…渚は気づいてたの?』
『気づかない方が無理があるよ!今まで本当に焦ってたまらなかったんだから!』
『だって、いつもお兄ちゃんは千紗のこと見てたじゃん。何かにするときも絶対隣にいるし、私と話す時も「千紗は?」って聞くし。千紗が同じ学校の男の子といる姿を見ただけで、すんごい顔だったよ…』
「…ナギサちゃん、苦労してたんだなぁ」
その時のことを話すと、煌がしみじみと言った。
ーーーーーー
早朝とはいえ7月ともなると、やはり気温は暑い。空調の効いた控え室でメイクを行い、リハまで待機をする。ワンシーンを撮るにも段階をかなり踏むため、待ち時間はとにかく長い。そのためキャストは台本を片手に練習する人、仮眠をとる人と様々に過ごしていた。あれ。
「小清水さん、お疲れ様です」
「高峯さん。お疲れ様です、リハ終わりました?」
「いや、ちょっと機材確認が手間取ってるみたいなのでまだ待機です」
「そうなんですね〜。スタッフの方々も大変ですよねぇ」
話しながら彼女の向かい側にあるソファに座る。
小清水麗奈。今回のドラマ撮影のヒロインであり、過去の作品でも面識があった。このあとのリハも一緒に行うため、同じく早朝から待機をしている。彼女がタブレットを見ていた姿がなぜか気になった。
「なに見てるんですか?」
「小説です。最近話題になってて」
本当は書籍で欲しかったんですけど、時間無さそうなので電子で買いました、と笑った。タブレットを借りたので、表紙を見てみると最近よく耳にするタイトルのものだった。
「あ、これ別の現場でも聞いたことある」
「本当です?いま話題ですよね」
「えー、なんの小説ですか?」
話を聞いていたのか、近くにいたキャストたちも近寄ってきた。小清水さんからOKをもらったため、タブレットを側にいたキャストに渡すと覗き込んでいた。
「あ、『愛してると言えない夜に』ですね!俺も知ってます!」
「めっちゃ人気ですよね〜!面白いです?」
「面白いですよ〜。ただの勘ですけど、これ実写化されそうな気がします」
「え、本当ですか?作者は誰だっけ…あっ。橘先生だ」
「知ってるの?美作くん」
著書紹介のページを見て話す彼に聞くと、美作くんは目をキラキラさせながら話し出した。
「はい!好きなアニメの原作小説の作者なんですよ〜。もう本当に面白くて。アニメは途中の内容で今終わってるんで、小説読んじゃいました」
「それ私気になってました。読んでみようかな」
美作くんが小清水さんにタブレットを返すと、ちょうどスタッフに呼ばれたため全員で移動する。頭では橘先生という名前がなぜか刻まれていた。




