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1,湊翔side



ずっと隣にいることが普通だった。

千紗の話を1番最初に聞くことも日常だった。

可愛いもう1人の妹という存在だった。


それに甘えていたのは、きっと最初から。



「顔色ひどいぞ」

「あれ、本当だ。寝不足?」

「…まぁね」


かけられた声に顔をあげる。ほら、と渡されたペットボトルを受け取り、キャップを開けて飲む。喉の渇きが無くなったことを感じていると、燈真と玲音が隣に座り「で?」と切り出す。


「いつも収録の時にはコンディションを仕上げてくる俺らの湊翔くんはどうしたのよ」

「んー…皆にバレてる?」

「コンディションならメンバーとマネくらいかな?気づいてるのは。他のスタッフは分からないと思うよ」

「そっか…ならまだよかった。ただ最近、寝つきが悪いだけだよ」


気を使わせてごめん、と伝えると玲音はうーん、と唸り「あんまり理由は聞かん方がいい?」と話す。後40分後には音楽番組の収録があり、すでにスタンバイは完了していた。今日は参加アーティストが多いためか、個室ではなく何人かで分けて楽屋に案内されている。

今この部屋には同室のメンバーである玲音と燈真の自分のみだ。まだ呼ばれる雰囲気もない。


「…幼馴染がさ」

「あ、チサちゃんだっけ」

「そう」


玲音の言葉を聞いて、静かに聞いていた燈真はああと思い出したように頷く。燈真は元々の性格が寡黙なため、主に玲音の相槌を挟みながら話し出す。


「この前、たまたま外で見かけてさ」

「うん」

「男といたんだよね」

「うん。…うん?」

「喫茶店から出てきてさ、そのまま仲良さそうに店横で話し始めてたんだよね。距離感…も近かったし、最後には握手してたんだよ」

「えー…?」

「相手の男は俺と同じくらいの歳っぽくて…まぁ清潔感がありそうではあったけど…。千紗がさ、普段は人見知りなのにすごく素で接しては感じで…」

「う、うん」

「それで気づいたら、別れて歩き出す千紗に声をかけてた」

「えっ」

「あ、ちゃんと変装はしてたよ?人目もさけて路地裏に来てもらったけど」


正確には路地裏まで引っ張っただけだけど。まぁ本題はそこじゃない。玲音はポカンと口を開けているし、燈真はいつもと変わらない表情…いや、目を少し見開いてる?


「結局、相手の男は千紗の母親関係の人らしいんだけど…最初、俺には関係ないって言われたんだ」

「えっそりゃそうでしょ?!」


えっ。そうなの?

思わず驚くと「ええ〜…」と玲音。顔引き攣ってるよ。それを黙って見ていた燈真は「…湊翔くんはさ」と話す。


「なんで自分に関係あるって思ってんの?幼馴染の異性関係を」

「…だって今までも聞いてたし、気になるし」

「それはなんで気になんの?」

「だって妹みたいな存在だよ?小さい頃から知ってるし…変な男に引っかからないか心配する」

「妹…湊翔くん、妹いたよね?ナギサちゃん」

「いるけど」

「じゃあナギサちゃんは?ナギサちゃんが男といる姿を見たら、今までどうしてたの?」


渚が男といたら…?

過去の記憶を掘り起こし、今見たらどうだろう…今まで見てた時どうしてたっけ…と考える。


「どうもしないかな」

「…どうも?」

「え、うん。別に渚はいつも勝手にやってるし。何かあれば相談くらいはくるでしょ。心配はあれど特にって感じかな」

「…うわー」


と、燈真くんこれって…。玲音…俺たちには…。

2人は俺を挟んで思い思いに話し出す。一体全体なんだっていうんだ。


「今日って皆このあとスケジュールあったっけ?」

「…確か無い。煌がさっき珍しいって言ってたはず」

「んじゃ、グループ動かして2人にも確認するわ。湊翔くん、今日夜ご飯行くからね」

「あ、俺ジム…「違う時にして!」…はい」


その日、音楽収録を終えてCRÉZで夜ご飯に行くことが確定した。



ーーーーーー



「…いや普通、妹的な存在とは言え湊翔は関係ないだろ」


収録を終え、メンバー全員でカグアキの家にお邪魔する。店ではないほうがいい、という玲音の判断だったという。たまたまスタジオに1番近いカグアキの家になり、当の本人はワインを飲みながらそう言った。


「…いやまってよ。心配じゃない?変な男に、とかさ」

「でも湊翔くんは、実の妹のナギサちゃんには特に思わないんでしょ?チサちゃんってそんなに危なっかしいの?」

「いや…どちらかというとしっかりしてる。渚よりも」

「じゃあチサちゃんは大丈夫なんだから、湊翔くんが気にすることはないんじゃないかな」


寝不足になるくらいさ、と笑う煌。確かに…と思いながらも、まだ胸の中はモヤついていた。チーズを食べていた燈真は「…そもそも」と切り出す。普段寡黙な彼が話し出すと、思わず全員目線を向けるようになっていた。ごくん、とチーズを飲み込み、話す。


「なんで告白は断ったの?」


思わずあの日がフラッシュバックした。何かを諦めたかのように、肩の力が抜けたように笑ったの千紗の顔が。


「…恋愛関係になったら」


ぽつりと話すと、あの冬の日のことも頭を駆け巡った。まだ俺がデビュー前の時に、千紗からの言葉を俺の都合の良いように受け取ったあの日。


「いつか別れることもあるかもしれないでしょ。…妹として、家族のような立場だったらずっと一緒にいれる、から」


「…は?」


メンバーが目を見開いた。玲音と煌にいたっては口も開いている。え、そんなに驚くことなのか?


「…いや、まて」

年長者でリーダーのカグアキが手を額に当てて切り出した。


「湊翔は、その幼馴染のチサさんのことをどう思ってるんだよ…」

「どうって…」


しっかり者で、でも抜けてるところもある。ひとりっ子なのにお母さんを支えてて良い子。年齢のわりに落ち着いていて、一緒にいると落ち着く。料理が上手で本が好き。面白い本に出会うと瞳をキラキラして読んでいた。髪の毛はサラサラしていて、甘い匂いがする。瞳はクリクリしていて少し吊り上がっているのを気にしているのが可愛い。運動神経はあんまり良くなくて、ダンスは苦手。からかいすぎると拗ねるけどそこがまた可愛らしい。あとは…


「…あのさぁ」

「なに?玲音。まだ途中なんだけど…」

「湊翔くん、それチサちゃんのこと大好きじゃん」

「好きだよ?」

「女性として、でしょ?」

煌の言葉に思わず思考が止まる。…いやいや。


「…ちょっとまって。どうしてそうなる?」

「え、こっちの台詞なんだけど」

「煌くん、俺もその気持ちだ。」

「…湊翔、さっき妹ならずっと一緒にいれるって言ってたな」

「言ったけど…」

「じゃあその幼馴染に恋人ができたらどうすんだ」


カグアキに言われて考える。千紗に恋人?

千紗の側に当たり前のように居て、1番千紗を知れる立場にいる。サラサラの髪の毛にも、真っ白い肌にも、形の良い唇にも触れる相手がいる?


「…言っておくが、妹と言っても血は繋がってないんだからな。恋人ができたら一緒にいれないぞ。本当の家族でもないんだから、お前に関係があるはずもない。幼馴染も恋人の方が大切だろ」


それじゃあ俺が今居る場所に違う奴がいるってこと?千紗もそれを許して、俺より優先するってこと…。

想像するだけで胸の中のモヤモヤが膨らみ、どんどん黒い気持ちが広がる。勝手に想像した、千紗の隣にいる架空の男に胸が焼け付くように痛くなった。


「…俺たちは幼馴染で妹みたいな立場の存在には、その気持ちは抱かないからな」


カグアキの言葉がやけに頭に残る。思わず自分の口元を抑えようとすると、指に触れた頬が熱いことに気づいた。



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