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第ニ話


「全く分からなくなってしまいました、さすがお母さまの作った隠し扉です」


 お母さまが念には念を入れて作ったというダンジョン最深部への隠し通路の扉を閉めると扉は岩壁と一体化して見分けが付かなくなってしまいました。あまりに見分けが付かないので少し心配になって何度か確認のために開け閉めしてしまいました。

 しばらくして位置の確認を終えた私は外を目指して上の方へ伸びた通路へと歩みを進めました。



 しばらく上へ上へと歩いていくとかなり開けた空間に出ました。

 その広間の壁や地面は本来はただの岩肌だったのでしょう。しかし、一度高温によって溶かされその後再び固まったようでつるりとしていて、それを上から巨大な生き物の爪に切り裂かれたような傷跡とその破壊によって生み出されたモンスターの亡骸がそこら中に残っていました。


 地面の傷跡に足を取られそうになりながら広間の中央あたりまで歩いたその時。ドォン、と空気ごと私を震わせるような破壊音と共に上方から恐ろしい見た目のモンスターが落下してきました。

 そのモンスターは全身から生えたナイフのように鋭利な羽根を震わせながら三対の爛々(らんらん)とした紅い瞳で私のことを見つめてきました。


「初めましてお兄さま(・・・・)、私はクレイ・リンドと申します。お母さまに造られたモノ同士、どうぞお見知りおきください」


 私が一礼するとそのモンスターはブシュ―と鼻を鳴らし高く飛ぶと天井に張り付き侵入者を見張るという任務へと戻っていきました。


 そう、あのモンスターはお母さまが設置した門番なのです。彼はお母さまがこのダンジョンを制圧した時に狩ったモンスターの素材を惜しみなく注ぎ込んだ魔導人形、つまり私のお兄さまなのです。

 お母さま曰く、私のような知性はなく決められた行動だけを行うモノで私とは別物だそうですがお母さまが私よりも先に造った生き物ですのでお兄さまと呼んでも差し支えないでしょう。


「お兄さま、お母さまをお願いしますね」


 私はお兄さまの守る広間を後にして上層へ続く細道へ進みました。



 またしばらく細道を進むと


「やはり虫よけを貰っておいた方が良かったのでしょうか?蟻がここまで大きいとは知りませんでした」


 私の目の前では私ほどの大きさの蟻がギチギチと顎を鳴らしていました。細い道ですが幸いにも蟻とすれ違えるくらいには余裕があります。しかし蟻は私を通してはくれないようで顎を大きく開きこちらに液体を噴射してきました。

 私は後ろにステップして躱そうとしましたが避け切れず、その液体がスカートの裾にかかり白煙を上げ始めました。どうやら酸だったようです。


「……攻撃してくるというのなら容赦は致しません」



 私はこぶしを握って大きく振りかぶり蟻の顔に向かって叩きつけました。ぐちゃり、と鈍い音がして蟻の顔がひしゃげ、蟻は動かなくなりました。

 あまり心地の良いものではないですし、蟻を攻撃した方の手がヒリヒリします。


「体液も酸性なのでしょうか?この程度であれば数分で治るでしょうが素手での攻撃は今後控えましょう。汚れてしまいますし」


 私は傷んでしまったスカートを捨ててリュックから取り出した新しいものに着替えようとしましたが動かなくなった蟻の向こう側から聞き覚えのあるギチギチとした音が大量に響いてきました。

 そうでした、蟻は群れを作って生活しているのです。お母さまに与えられた図鑑で読んだことがあります。彼らも私を通してはくれないのでしょう。私はぎゅっと手に力を込めました。




 数十匹程度を返り討ちにすると蟻達は恐れをなしたのか逃げ出していきました。しかし、いつの間にか嚙まれてしまっていたようで腕が少し赤くなってしまいました。それに蟻の酸のせいで服もボロボロになって少し着心地が悪いです。まぁ、着替えは後で良いでしょう、どうせ今着替えても身体中蟻の体液まみれで服が痛むのは目に見えていますから。


 それにしても武器になりそうなものを何も持っていないというのはかなり不味いのではないでしょうか。この蟻の体液が私の身体を溶かすほどのものだったらと思うと少しゾッとします。

 そこで私は倒れた蟻の一体から牙を引っこ抜いて武器としていただくことにしました。思ったよりも脆そうですが素手で戦うよりはよほど良いでしょう。


 私は再び細道を上へ上へと進み始めました。



 一時間ほど歩いて細道を抜け、少し広くなった道を歩いていると視界の端に湖のようなものが見えました。ずっと身体を洗いたかったので好都合です。


 湖はとても透明度が高く水底まではっきり見え、底のほうには甲殻類らしき生き物が数匹見ることができます。


 浅瀬の方でカピカピになってしまった蟻の体液を落としたのでお昼休憩をとることにしました。この辺りはほかの場所と比べれば見晴らしも良いですし、何より先ほどの蟻のような相手が出てくればせっかくお母さまが持たせてくれたお弁当がぐちゃぐちゃになって食べられなくなってしまうかもしれません。お母さまが『腕によりをかけて作るよ』とおっしゃっていた初めてのお弁当です、食べられなくなってしまうなんてことがあれば悲しさのあまりしょんぼりしてしまうでしょう。


「では、いただきます。……わぁ!」


 早速二段になっている弁当箱を開けると上段のほうには緑色のペーストと黄色のペーストが、下段の方には棒状に成形された白色の固形携帯食が詰まっていました。

 どれも私が初めてお母さまと初めて食事をしたときにいただいたもので、私の好物なのです。


 私は早速(さじ)で緑色のペーストを掬い口に含むと、途端にピリリとした辛さと微かな青臭さが口の中に広がり、鼻を抜けていきました。

 お次は黄色のペーストです。こちらは緑色のペーストとは打って変わって酸味の中に下にこびりつくような苦みが混じっていて飲み込むころには喉の奥まで黄色のペーストの味に変わりました。

 最後の白色の固形携帯食には味はありません。しかし、一度かじればその真価を文字通り味わうことができるのです。口にふくんだ携帯食は唾液と混じることで、更にシュワシュワと音を立てて溶けてしまうのです。


「お母さまの料理はいつ食べても面白い(・・・)ですね」


 お母さまの料理はどれも面白いのですが今食べた三種は別格です。何度食べても胃の辺りがひっくり返るような感覚がしますし、舌の裏側の辺りがビリビリと痺れるのです。片付けや掃除があまり得意とは言えず、私に任せきりになっていたお母さまですが料理に関しては自分で行っていましたし何かを作るという点で魔導具作りに通ずるものがあるのでしょう。

 しかし、これを食べきってしまうと次にお母さまの料理を食べられるのはいつになるのでしょう。……少し家に帰りたくなってきました。


「全部食べるのはもったいないでしょうか?……残りは外に出た時の楽しみにしておきましょう」


 私はもう少しだけ食べたいという思いを抑えて半分ほど残した弁当箱をリュックにしまい、再び出口を目指して歩き始めました。

この蟻は口側から酸とかを飛ばせる種だということで納得ください。


それと話のストックは作っていないので三話以降の更新は日が開くと思います。

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― 新着の感想 ―
身体を洗ったあと、服を着た描写がないということは裸(わくわく) 料理を食べた後のその隊内の状況、人間の食べる料理として大丈夫なのだろうか。
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