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9.ハッピーハッピーうるせぇ

暗い空、独特な匂いがする街、騒めく辺り。

 目の前には化け物、周りには子供、戦うは私。

「がんばれー魔法少女ー!」

「やっちまえー魔法少女ー!」

「殴って蹴って抉って引きちぎって喚かせ泣かせて絶望のどん底に落とし、この世に生を貰い受けた事を後悔させてやれー魔法少女ー!」

 私は魔法少女、魔法少女ハッピー。

 訳あってこの街に来たのだけれど、迷子になっていたらいつのまにかこんな状況になっていました。

 客観的に見て醜い化け物であるあの人が子供を襲っていたので、流れで私が助けることになったのです。

「ギョピー! ギョピー!」

 化け物が変な鳴き声で私を威嚇しながら、こちらに向かってきた。

 私はそんな彼に、彼が私にたどり着くよりも早く、彼の元に向かうために地面を蹴る。

「ギョピー!?」

「遅かったですね。もう少し鍛えてから子供を襲いましょう! ハッピーウルトラミラクルハッピービームハッピー!」

 握った右手に魔力を集中させ、私は化け物の目の前で手を広げ、ハッピー魔法を放った。

 私が放ったハッピー魔法はその名の通りハッピーなビーム。綺麗なお花がこの世の悪である醜い化け物を消し去るすごい技だ。

 それを食らった化け物は当然、私の説明通り消え去ってしまった。

「すげえぞー魔法少女ー!」

「技名長すぎだぞー魔法少女ー!」

「ハッピーハッピーうるせぇ!」

「あはは……みんな大丈夫だった?」

 化け物に襲われていた、私が助けた子供たちは笑顔で私によくわからない事を言ってくる。

 とりあえず元気そうで良かった。それから、ハッピーそうで良かった。

 子供たちに別れを告げ、私はとりあえずこの場から離れることにした。

 しばらく歩いていると、二人組の女の子が前から歩いてきた。

「カレンさん……本当にこのまま家に帰るんですか?」

「帰るよ? カレンちゃんセット貰ったし、買い物終わったでしょ?」

「……そうですね」

(あれ……もしかして?)

 会話の内容は聞いていないが、すれ違った瞬間分かった。わかってしまった。

 何が? 何故なら? それは彼女たちが私と同じ人間だから。

(あの二人……魔法少女だ。特に大人っぽい方……もしかして)

 少し気になることができた。街の探索を終えて、特にやることがなかったら彼女たちと話をしようと思う。

 特に、大きな袋を持っている髪ボサボサでダサい服装の女性に私は、不思議と惹かれたから。

(……あのカレンさん、だったりしてね)



「ふわぁ……眠い。けど起きよう」

 アムルとの買い物を終えた私は、家に帰ったとほぼ同時に眠りについた。

 そして今目覚めた。時計を見ると午前八時半。とっても早起きだ。

(昨日寝たのは確か午後五時五十五分くらいだったから……何時間経ったんだ? よくわかんないや)

 とりあえず布団から抜け出し、立ち上がって身体を伸ばす。

 たくさん寝たし、寝る前にお酒も飲まなかったから、やけに頭がスッキリしている。

 健康って素敵だな、そう思いながら私は寝室から出ようと歩き始める。

「みぴー!」

「あ、ごめんアムルちゃん……」

 途中、アムルを踏む事故も起きたが、特に気にせず私は洗面所へと向かう。

 水を流して、それで顔洗って、テキトーに歯磨きして、うがいして、終わり。

 洗面所を出て、リビングに向か──

「ピンポーン!」

「……ピンポーン?」

 玄関のチャイムが鳴ると同時に、大きくて元気そうな声でピンポーンと聞こえた。ダブルピンポーンだ。意味がわからない。

「ピンポーン!」

「……やべぇ奴が来たか?」

 二度ある事は三度あるかもしれないし、うるさいので私はちょっと早歩きで玄関へと向かう。

 鍵を外して、ノブを捻って、少し勢いつけて私はドアを開けた。

「ピンポー……あ、開いた」

 扉を開けると、目の前にいたのは可憐な少女。

 髪は丸みがかったショートヘア、あどけなさを残しながらも確かに大人の女性を思わせる美人と言っても良い整った顔立ち。白いワンピースと透き通るほどの白い肌がこの汚い街に似合わない。

 そんな少女が私の目の前にいた。

「……だれぇぇえ?」

「ハッピーでぇぇえええす!」

 満面の笑顔でそう言い放つトリップ女。私は薬だけはやりたくないので、すぐにドアを閉める。

 相手に聞こえるように勢いよく鍵を閉め、ついでにドアチェーンも付けた。

「え!? ちょ!? あ、開けてください! 名前言っただけじゃないですか! なんでぇ!?」

「私、薬だけはやらないんで……」

「魔法ですよ! 薬じゃなくて魔法! 中毒性も無ければ値段も高くないどころか無料!」

「……魔法?」

 ドアを閉めて、小さい声で呟いただけなのに私の声が聞こえているのは置いといて、今彼女は確かに魔法と言った。

 相当酷い症状なのか、それとも──

「また魔法少女……?」

「あ、そうです! 魔法少女です! 愛と正義とハッピー振り撒くウルトラミラクルキューティーマジカル魔法少女ハッピーです! だからさっきハッピーですって言ったんです!」

 いや、まだ信用できない。明らかに目がヤバかったし。

 それに、自称魔法少女なんてこの街にはいくらでもいる。この前は小太りのおじさんが戦隊モノの格好をしながら魔法少女を名乗っていた。ベルトも付けて武器も剣で仮面をかぶっていたのに魔法少女を名乗っていた。

「洗脳搾取ハッピーパンチィィ!」

「うわぁ!?」

 突然、ドアのど真ん中をぶち抜ける可憐な拳。

 私は瞬時にドアから距離を取り、臨戦態勢に入る。

「ん〜……ドアノブ……ドアノブ……」

 自称魔法少女は、自ら開けた穴から手を伸ばし、ドアノブに触れ鍵を開けた。

 そしてそのままドアを開け、ニコニコ笑顔で私を見つめてくる。

「改めまして、魔法少女ハッピーです! 今日からお世話になります! 扉は直します! よろしくお願いします!」

「め、めちゃくちゃすぎない……?」

 私のツッコミを無視し、自称魔法少女ハッピーは魔法を使い、ドアを直し始める。

 確かにあれは、私やアムルと同じ、魔法少女が使う魔法だ。めちゃくちゃ便利なやつ。

 それじゃあ彼女は自称魔法少女ではなく、実際魔法少女という事なのか。

 魔法少女ハッピー、魔法の質を見るに中々実力が高そうだが、一回も名前を聞いたことがない。

「まあ、いいか……」

 面倒くさくなってきたので、私はかんがえるのをやめた。

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