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48.勇往邁進

 見渡す限りの廃墟。

 道ゆく人はみんな、目が死んでいる。

 散らかっている生ゴミ。

 漂う腐臭。

 私はそんな街を、キョロキョロと見回しながら歩く。

 私を視姦する、目がイッちゃっているバカな男。

 はだけた服で己の肌を見せびらかしながら、口から煙を吐く女。

 変身ベルトを付けたまま、自らを魔法少女と名乗る謎のおじさん。

 見た目が美しく服装もおしゃれな、この街に似つかわしくない女性。

 私はそんな街を、キョロキョロと見回しながら歩く。

 ぐちゃぐちゃになった何かの肉を奪い合う、犬。

 お魚を咥えた、ドラ猫。

 今にも襲いかかってきそうな、カラスの群れ。

 私はそんな街を、キョロキョロと見回しながら歩く。

 首のない、人間の死体。

 雑に切り裂かれた、謎の生物。

 首だけになっても息をしている、バケモノ。

 私はそんな街を、キョロキョロと見回しながら歩く。

 女の喘ぐ声が聞こえてくる、廃墟で出来た住宅街。

 男の怒号が聞こえてくる、廃墟で出来た住宅街。

 性別不詳の奇声が聞こえてくる、住宅街。

 私はそんな街を、キョロキョロと見回しながら歩いている。

 人の気配がしない、大きな十字路。

 人の気配を感じる、狭い路地裏。

 道路に倒れる男性、廃車の上でダラける女性、光を灯さない信号機に捕まって腰を振っている老人。

 私はそんな街を、キョロキョロと見回しながら歩いている。

 窓が全て割れ、校庭の至る所に椅子が落ちている、廃校。

 たくさんの腐った死体が大雑把に捨てられている、廃病院。

 枯れた落ち葉で道を埋め尽くされ、ありとあらゆる遊具が錆びた、公園。

「……はあ」

 私は、目的地である公園にたどり着いたと同時にその場で佇み、ため息をついた。

 懐かしい公園。幼い頃、ここでよく遊んでいた。

 懐かしい公園。思い出したくない記憶が、私を傷つける。

 懐かしい公園。今もなお、彼らの顔が思い浮かぶ。

「……いるんでしょ、ここに」

 私は呟きながら、歩き始める。

「……ハルカ」

 呟く。一緒にいた時間は短いながらも、一番の親友であった彼女の名を。

「……キロくん」

 呟く。恋人らしいことは何も出来なかった、初めての彼氏の名を。

「……ハッピーちゃん」

 呟く。突然現れ、突然いなくなった。嵐のような存在であった、ノーハッピーを許さない少女の名を。

「……アムルちゃん」

 呟く。何もかもどうでもよくなって、生きる意味も死ぬ意味も失っていた私に、ほんの少しだけ希望を、存在意義を持たせてくれた。私を愛してくれた少女の名を。

「……もう終わらせる」

 呟く。

「……もう、全部終わらせる」

 呟く。

「私のくだらない人生も……あんたのクソみたいな人生も……今日で終わらせる……」

 呟く。呟きながら、歩き続ける。

「それは楽しみだね」

 聞こえた。例の声、この世で最も憎らしく悍ましい声。

 私は声のした方へと振り向いた。そこにいたのは当然、フードを深く被った少年。

 彼を見るだけで、私の脳は焼き切れそうになる。

 無意識に全身へ力が入る。

 血が出るほど唇を噛んで、血が流れるほど拳を握りしめて、鼻から血が垂れるほど脳を沸騰させて──

「……今度こそ、殺してあげる」

 と、私は彼に、自身の抱える負の感情全てを込めて言った。

「ふふ……期待してるよ、カレン」

 ニヤつくな。

 笑うな。

 地面を踏み締め、フードの少年を睨みつけ、歯軋りをしながら、私は勢いよく指輪を嵌めた

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