43.魔法少女カレン ③
私とハルカが出会ってから、あっという間に一ヶ月が経った。
「ねーねーカレン。明後日の土曜はどうする? 何して遊ぶ?」
「えー……そうだなぁ」
私たちは横並びに歩くきながら、会話をしてながら次の授業の教室へと向かっていた。
ふと思う。いつの間にか私、ハルカにちゃんと心を開けているな、と。
恥ずかしくて、まだあまり踏み込めなくて、遠慮がちに話していた一カ月前と違って、自然な感じでハルカと会話が出来ている。気がする。
これが友達なのかな。これがハルカの言う親友なのかな。
「また二人っきりで遊ぶのか? 俺もたまには誘ってくりゃいいのにさ……」
ふと、後ろから私たちに誰かが話しかけてきた。
私はこの声を、知っている。
「キロくん……」
彼の名前を呼びながら私は振り返る。そこには、友達のキロくんが立っていた。
彼ともこの数週間で仲良くなれた。普通にキロくんと呼べるようになったし、キロくんも若井さんからカレン呼びになっている。
「いや別に誘ってもいいんだけどさ……キロ、誘っても断ること多いじゃん?」
すると、ハルカが振り返りながら、キロくんを挑発するように言った。
「いや、ま、そうだけど……」
キロくんが、呆れたようにそう言う。
ハルカはキロくんをイジるのが好きだった。いつもイジってる。それで私を撫でてくる。
「ほーら! だから最初から誘わないの! 私たち二人っきりでデートしようね!」
と、言いいながら早速抱きしめてきた。
ちょっと痛い。
私はキロくんの怒りで爆発しそうな顔と、嬉しそうなハルカの顔を交互に見て──
「う、うん……」
と、小さく頷いき、なんとなくハルカに同意した。
どちらかといえば、私はハルカの方が好きだし。
やっぱりキロくんと関わるのには少し勇気がいる。男の子だからかな? よくわからない羞恥心が私を襲うの。
「……もー、しょうがないなぁ。素直じゃないなあキロは」
すると、ハルカが私の元から離れ、キロくんの元へと向かった。
そして、持っていたノートで腹部をペシペシ叩き始める。
「そんな悲しい顔しないの! 今度キロが暇な時に三人で遊ぼ!」
ハルカがそう笑顔で言うと、キロくんはそんな彼女を驚いた顔をしながら見て──
「……お前。急にどうした?」
と、つぶやいた。
(ハルカって……意外とキロくん好きだよね)
そんな光景を見て、私は少し笑ってしまった。
しかし、キロくんは唖然とした顔でハルカを見る。
するとハルカはバカにされたと思ったのか、笑顔から一転、頬を膨らませながら怒ったような顔になりながら──
「たまに優しくしたらその反応か……! ったく、行こっ! カレン!」
「えと、じゃあまた後でねキロくん……!」
ハルカはわざとらしく、大きく足音を立てながら私の手を引っ張ってくる。
そのまま私は引っ張られ始める。いつもの事なので抵抗はせず、とりあえずキロくんに手を振りながら別れを告げた。
「全くもう……キロったら、カレンに甘いくせに!」
「え、そうなのかな……?」
プンスカ怒りながら、キロくんの文句を言うハルカ。
キロくんが私に甘い? そんな印象を覚えたことはない。
ていうかハルカの方が私に甘いような気がする。なんでも褒めてくれるし。
「キロってさ……絶対カレンのこと好きだよね」
「……ぴえ?」
突然のハルカの挑発に、私は脳が止まる。
今、なんて、言ったの?
「なんてね! まあでも私よりはカレンのこと好きだよね……カレン渡したくないなぁ……目の前でカレンにキスすれば諦めるかな……?」
「……キス? キス!?」
うまく頭が回らなくて、ちゃんと聞き取れなくて、変なところしか聞こえてこなかった。
今、キスって言った? 誰と誰が? キスをするの?
「カレン……なんでそんな顔真っ赤なの? まさか冗談を本気と捉えて……かーわーいーい! ハルカ抱きつき!」
「わぁ!?」
考え事をしていると、急に全身が圧迫感に襲われる。
気づいた時には、目の前にハルカの顔。
彼女が真正面から、私に抱きついてきていた。
「ハルカ……恥ずかしいからやめて……!」
「えー? 全くもう……カレンったら恥ずかしがり屋なんだから」
不満を口にしながら、ハルカは私からゆっくりと離れていった。
最近、ハルカは意外と素直に離れてくれるようになった。
嬉しいような、寂しいような。誰もいないところなら、いくら抱きついてきてもいいんだけど。
「ねえねえカレン──」
ハルカが私に話しかけようとしたその瞬間、チャイムの大きな音が廊下に鳴り響いた。
「あ、やば! 急ご! カレン!」
「う、うん!」
それを聞いた私たちは、慌てて早歩きで教室へと向かった。
*
放課後、私は珍しく一人で下校していた。
ここ一ヶ月、毎日ハルカと帰っていたから、少し寂しい。
(全く……ハルカったら。宿題くらいちゃんとやればいいのに)
補習から逃げようとして、担任の森先生に捕まったハルカの姿を思い出しながら、私はため息をついた。
辺りを見回しながら、私は歩き続ける。
何も考えることがなく、暇つぶしもできないから、私はボーっと、ボーっと歩き続けた。
ひたすら歩き続ける。何も考えずに、歩き続ける。
「よっ、カレン。ハルカはどーした?」
と、私に誰かが後ろから話しかけてきた。
いや、誰かじゃない。この声を私は知っている。
少し前までは苗字で呼んでいたのに、今は名前で呼んでくるその声。聞き覚えのある声。
私は、彼の名前を呼びながら後ろに振り返った。
「……キロくん」
笑みを浮かべながら、手を挙げているキロくん。
何故か少し、戸惑ったような顔をしている。
「ハルカいないと元気ないな、カレンは」
「ん? そんなこと……あるかも」
確かにそうなのかも、そうなっているのかもしれない。
実際、暇でつまんなかったし。
「……よっと」
すると、キロくんは一歩前に出て、私の横に立った。そして、そのまま歩き続ける
私もそれに合わせて、歩き始めた。
流れるのは沈黙。静寂。
会話がない。気まずいわけではないのだけれど、会話がない。
(私から話を振るべきなのかな……)
私は思わず、首を傾げた。
でも結局私から話を振ることはなくて、そのままお互い何も喋らずに、歩き続けた。
「きゃー!」
その時だった。私たちの後ろから甲高い悲鳴が聞こえてきた。
私とキロくんはほぼ同時に振り返る。
そこに居たのは、ゆるキャラの太ったカエルのような、大きな謎の生物。
(うぇっ……私カエル苦手……)
そしてその傍に、フードを深く被った少年がいた。
「えと……?」
私は思わず首を傾げた。
これは敵なのか、バケモノなのか、全然わからない。判別できない。
普段、私の前に現れるのは、明らかに見た目がヤバい一目でバケモノとわかる生物ばかり。
しかし今回は違う。私の見たことのないバケモノらしきもの。
そして、不思議な雰囲気を纏っているフードの少年。
私は一瞬だけ辺りを見回す。今更気づいたけれど、さっき悲鳴を上げたと思われる人がいない。見かけない。
急いで逃げたのかな?
「やあ、魔法少女……」
と、その時。フードの少年が私に話しかけてきた。
それを聞いて、私は思わず身構えた。
今、私を魔法少女って呼んだよね?
バケモノを連れて、私を見て、魔法少女って呼んだ? もしかして、漫画とかアニメでよく見る敵対組織?
私たち魔法少女って、何かの組織と戦っている立場なのかな? ある程度詳しい人に一度説明してもらいたい気分だ。
魔法少女友達の青柳さんも、なんで魔法少女になったのかよくわからないって言ってたし。
「なあカレン……アイツらって、敵なのか?」
キロくんが心配そうに話しかけてきた。私はとりあえず頷き、答える。
「えと……よくわかんないけど、そうかも」
私は、相手にバレないようにカバンの中を漁り、指輪を手に持った。
これでいつでも変身できる。戦える。
そしてジッと、フードの少年とカエルを見つめた。
「魔法少女カレンちゃん……だよね? 僕たちの挑戦、受けてくれるかな?」
フードの少年がそう呟く。
(やっぱり敵!?)
その瞬間、カエルが大きく口を開けて、大きな舌を私に向けて勢いよく放ってきた。
(きも……っ!)
苦手なカエルに襲われて、私一瞬たじろいでしまった。
私のすぐ目の前にやってくるカエルの舌。冷や汗をかきいているのがわかる。逃げないと!
(……っ!)
すぐに避けようとしたけれど、身体がうまく動かない。
突然すぎて、反応できていない。
私はぎゅっと目を閉じる。
怖い。痛いの嫌だ。気持ち悪い。来ないで。
そう脳内で叫んだ瞬間、私の身体は、何か強い力に弾き飛ばされた。
「きゃっ……!?」
そのまま姿勢を崩し、お尻から落ちて地面に座り込んでしまう。
(うぅ……! お尻いたぃ……! って! そんなこと言ってる場合じゃない!)
私はすぐに目を開ける。すると、目の前にはカエルの舌に捕まったキロくん。
「あっ……!」
キロくんが、捕まっている。捕まっている?
どうして? なんで?
(もしかして……さっき私を助けて!?)
また? またなの? また私は助けられたの? 助けられないの?
私は必死に、彼へと手を差し伸ばす。けれどそれは届かなくて──
カエルがキロくんを、キロくんを、キロくんを──
丸呑みに、してしまった。
「……あ、ああ……」
姿が見えない。キロくんの姿が。代わりに見えるのは、満足そうな顔をしたカエル。
「うそ……でしょ……?」
嘘に決まってる。
「嘘だよね……?」
嘘のはず。
「返して……!」
返して欲しい。
「返してよ……!」
返せ。
「……ッ!」
私は指輪を嵌めて変身する。それと同時に、地面を蹴った。
目の前にはいつの間にか大きな舌。キロくんを食べた忌まわしい舌。
「ふざけないでよ……!」
私はそれを渾身の力で、強く握りしめた拳で打ち砕く。
「ゲコォォォオオン!?」
甲高い叫び声を挙げ、短い手で口を押さえようとするカエル。
アイツが、アイツが、キロくんを食べたんだ。
「返してよキロくんを……キロくんは関係ないでしょ……返してって……キロを……!」
許せない。
どうして?
なんで食べたの?
私と戦うんじゃなかったの?
私の友達を──
私を助けてくれた人を──
私の好きな人を──
「……ん?」
カエルに向かって歩いていると、何かが足にぶつかった。
私は瞬時に足元を見る。するとそこには──
「ッ! キロくん……!」
緑色の液体にまみれたキロくんが、力なさげに倒れていた。
胸が上下に動いている。ピクピクと身体が動いている。それってつまり、息をしていて、死んでいないってことで──
「よかった……!」
私は思わず、彼を抱きしめた。
力を入れすぎないように、壊れないように、優しく彼を抱えた。
「……ゲコォ」
その瞬間、弱ったカエルの鳴き声が聞こえた。
私はそれが妙にイラついて、ムカついて、声のした方を睨みつける。
「消えて……!」
そう叫びながら、私はカエルに手のひらを向け──
「ゲ……コォ……!?」
いつものように必殺技名を叫ばずに、そこからピンク色の光線を放ち、カエルを消し去った。
「……キロくん。キロくん? キロくん!」
カエルなんてどうでもいい。今はキロくんだ。
私はキロのくんの身体を必死に揺らし、彼の名前を必死に呼ぶ。
ゆらゆらと、ぐらぐらと、必死に揺らした。
起きて。目を開けて。そう願いながら──
「ぐ……ゴホッ……!」
すると、キロくんが口から緑色の液体を吐き出し、目を開けた。
「……かはっ……! はぁ……死ぬかと思った……!」
「キロくん……! うぇ……よかったよぉ……!」
キロくんが目を覚ました。
安堵して、安心して、ホッとして。私は思いっきり彼に抱きついく。
「うわ!? ちょ!? カレン……!?」
「よかったぁ……無事そうでよかったよキロくん……!」
「だ……抱きつくな! ハルカじゃないんだから……!」
すると、強い力で彼から引き離された。
私は思わず首を傾げる。目の前には、顔を真っ赤にしたキロくん。
そんな彼を見て、私は自分のしていたことを思い出し、熱い熱を帯びる頬を両手で押さえた。
「あ……あぅ……ごめんキロくん……!」
顔を真っ赤にしながら、お互い顔を背ける。
私たちは黙り込んで、互いを一瞥したり、口を開いたり閉じたりしている。
やがて、キロくんが立ち上がって、自分の体にまとわりつく緑色の粘液を払いう。
「……ありがとう、カレン。助かった」
突然話しかけられ、私は思わずピクッとなってしまった。
(あぅ……恥ずかしいけど……けど……!)
私はゆっくりとキロくんの方へ向き、自身も立ち上がりながら、笑みを浮かべて──
「ううん……私の方こそありがと……助けてくれて……」
心から、彼へ感謝を伝えた。
情けない私を、役に立たない私を、ダメダメな私を、二度も助けてくれた彼に。
「……おう」
ジッと、私たちは見つめ合う。
キロくんは顔が真っ赤だ。多分、私も真っ赤。
何も言わずに、何も喋らずに、じっと、ただじっと私たちは──
「あー! なんかイチャイチャしてる! ちょっとカレン!? キロ!? なにロマンティクスしてるの!? わああああ!」
「ハルカ!?」
「ハルカ……!?」
その場に突然、大声で叫びながらハルカが現れた。
息を切らし、汗だくで、はぁはぁ言いながら私たちを睨みつけている。
そして彼女は顔を真っ赤にしながら、目尻に涙を浮かべながら、ドスドスと足音を立てながら、私たちの元へと向かってきた。
「私が……私が森センに怒られている中……二人はイチャイチャちゅっちゅ!? むぅぅぅぅ……!」
そして、私の元へと辿り着くと、ハルカは私をぎゅっと抱きしめてきた。
痛い。
「そういうのは家に帰ってからやってよね!」
私抱きしめながら、ハルカはビシィとキロくんを指で差す。
「ご、ごめんなさい……」
勢いに押されたのか、何も悪いことをしていないのに、キロくんは頭を下げて謝った。
「ていうか……なんか二人ともベタベタしてない? 私の家近いし寄ってく? シャワー浴びてった方がいいと思うよ? キモイよ?」
と、突然真っ赤にしていた顔を白い肌に戻し、首を傾げながらハルカが言う。
確かに、今更気づいたけれど私たちベタベタだ。
あのカエルの気持ち悪い粘液で全身ねちょねちょで気持ち悪い。最悪。カエルの体液というのがさらに最悪。
一刻も早くそれを落としたい。本当に気持ち悪い。
「いいの……? じゃあお邪魔しようかな……」
私は少し照れ臭くそう答える。そんな私を見て、何故かハルカは満足げに頷き──
「キロはどーするの?」
次に、キロくんをジッと見つめ、ハルカはそう言った。
問われたキロくんは一瞬、遠くを見つめ──
「えと……俺は……いいかな」
と、答えた。
そんなキロくんを見て、何故かハルカは笑みを浮かべ、ニヤニヤとしながら彼を指で突く。
「恥ずかしがってるんでしょ? 女の子の家に行くのを! カレンと同じお風呂に入るのを!」
「ふえ!?」
い、今なんて言った?
一緒にお風呂? へ? キロくんと? 私が? 水道代節約のため? ガス代節約のため? え? キロくんと? 私が? ランデブー? 入浴? ニューヨーク?
「ふぇ……え……えと……ぅえ……え……えぇ……」
一緒にお風呂ってタオルは使うよね? 見られちゃうの? 胸も? 乳首も? 大事なところも? 生まれたままの姿を? 裸の付き合いとして? 一緒にお風呂に入って? へ? なんで? わ? え?
「えぇうぇ……」
恥ずかしい。
「あらら……顔真っ赤。おーい、カレーン?」
恥ずかしい。
「もしもーし? ノックしてもしもーし?」
恥ずかしい。
「ちょ……お、起きろー!」
恥ずかしい。
「くっ……こうなったらアーちゃん直伝のあの技で……!」
恥ずかしい。
けど。
キロくんなら私は──
「ペチッ!」
「あぅ!」
突然、誰かに頭を叩かれた。
それで私は我に帰る。顔が真っ赤に熱っている感覚。私はなんて恥ずかしいことを考えていたのだろう。
辺りを見回す。すると、呆れた顔をしたハルカが横に立っていた。
「あれ……キロくんは……?」
いくら見回しても、キロくんはいない。
私の近くにいるのはハルカだけ。そんな彼女はため息をついてから、何故か私をペチっと叩いた。アーちゃんのように。
「あぅ」
「カレンが変な妄想している間に帰っちゃったよ? 全くもう……冗談で言っただけなのに本気にしちゃうんだから」
「うぇえ……だって……」
私は思わず、泣きそうになる。
恥ずかしいところを見られたから。恥ずかしすぎて、泣きたくなったのだ。
「ほらほら泣かない! じゃあ行こっか! 私の家に!」
*
「……はふぅ」
湯船に浸かり、お湯に揺られながら、私はため息をついた。
気持ちいい。お風呂大好き。愛してる。
「おっまたせー! カレン!」
すると突然、ドアを勢いよく開けて、真っ裸のハルカが入ってきた。
「……へぇ!? ハ、ハルカも入るの!?」
私はつい驚きの声を上げる。自身の身体を一切隠さずにハルカはドヤ顔で言う。
「ふんふん……意外といい身体してるじゃんカレン!」
そう言いながら、無理矢理ハルカは湯船に入ってきた。
(せ……狭い……)
足が絡まる。柔らかい大切なところが足に当たる。顔がすぐ目の前にある。
女の子同士、女の子同士なのに。なんだかとても恥ずかしかった。
「あはは……ごめんねカレン。無理矢理入ってきて」
湯船に浸かり終えると、ハルカは今更申し訳なさそうに謝る。
そんな彼女に対し、私は左右に首を振った。
「ううん……別にいいよ」
「えへ……そう言ってくれると思った」
首を傾げながら、ニコッと笑うハルカ。
それがとても可愛くて、私はついきゅんっとなる。
「……ねえ、カレン」
「なに?」
儚げな表情をしながら、ハルカが話しかけてくる。
彼女がするには珍しいその表情に、私は思わず首を傾げた。
「お風呂とか、下校とか。些細なことでもいいからさ……私、もっとカレンと色々な思い出、作りたいなぁ」
囁くようにそう呟くハルカ。そして彼女ははにかみながら──
「私と友達になってくれてありがとう、カレン」
と、言ってくれた。
私はなんだか恥ずかしくなって、顔を湯に埋める。
ちょっとブクブクさせてから、顔を上げて──
「私も……そう思ってるよハルカ……」
と、素直な気持ちを伝えた。
するとハルカは笑顔を浮かべながら、立ち上がった。
「よーし! じゃあこれからはキロなんかより! 私と一緒に帰ろうね!」
サムズアップをしながらそう叫ぶハルカ。私はそんな彼女を見ながらため息をついて呟く。
「じゃあちゃんと、宿題やって補習無くしてね」
「あぅ……カレンの意地悪……」
*
家に帰ってから、私は制服を着たまま、ベッドに寝転んだ。
「……はあ」
今日の出来事を思い返す。
ハルカとのお風呂、意外と楽しかったなぁ。
もう一回くらいは、一緒に入りたいかも。
あとは、キロくんとの──
「……はぅ」
キロくんとの会話を思い出そうとしたら、急に顔が熱くなってきた。
胸が切なくなるような、きゅっと冷たい何かで心臓を掴まれたような、そんな感覚。
「あはは……恥ずかしかったぁ」
あの時はつい、抱きついてしまった。嬉しくて嬉しくて仕方がなかったから。
その時のキロくんの真っ赤な顔を思い出す。そして改めて、自分がすごい大胆な行動に出たことを思い出し、枕に顔を伏した。
「……もうっ」
私はそう呟く。
そして、今日はもう疲れたから寝ようと思って、ゆっくりと目を閉じた。




