4.私はカレンさんと一緒に
M法3
「ぐー! ぐー!」
「んん……」
「ぐー! ぐー!」
「んぇえ……うるひゃい……」
謎の騒音に襲われ、私は目を覚ました。
部屋は真っ暗、外も恐らく真っ暗、つまり真夜中。眠いし頭ぼやぼやだし、とりあえず朝ではないはず。
「一体何の音……」
騒音の正体を探るべく、私は辺りを見渡す。
「ぐー! ぐー!」
「……あっ」
探すまでもなかった。
この音、この寝息は、私の隣で寝ている人が出しているものだった。
「……カレンさんかぁ。意外だなあ」
私に抱きつきながら、迷惑極まりない大寝息を立てているのは憧れの人カレンさん。
色々と事情があって、私は彼女と寝ていたの思い出した。
──色々な意味で憧れの人と寝てしまった。
「お、思い出すと死ぬほど恥ずかしい……! 死ぬー! 死ぬー!」
しっかりと覚えている。何もかも覚えているし、なんなら感覚すら残っている。
カレンさんの吐息、カレンさんの匂い、カレンさんの体温、カレンさんの唾液、カレンさんの声、カレンさんの髪、カレンさんの目、カレンさんの唇、カレンさんの耳、カレンさんのお尻、カレンさんの秘部。
「う……うぅ、なんで急にあんなことを……カレンさん……!」
頬が、身体が、耳が、真っ赤になっているのを感じる。身体全体が熱っている感じだ。
恥ずかしい、思い出すだけで本当に恥ずかしい。けれど思い出さずにはいられない。
困惑と、快楽と、悦楽に、興奮。色々な感情が混ざり合ったら艶やかで激しい行為、忘れられるはずがない。
私はそっと、自分の唇を人差し指で触れながら思い出す。
(……柔らかかったなあ、というより、しっとりと──)
触れた時の感覚、絡み合わせた時の味、それを思い出した瞬間、自然と首を横に動かし、どうしようも出来なく身体全体を使って、私は静かに暴れ出した。
(キモ! キモ! 私何考えてんのマジキモい……!)
両手で頭を押さえながら、声を出さないように私は発狂する。
無限に襲いかかってくる羞恥心、どうすれば逃れられるのだろう。
「……はぁ、はぁ」
意外なことに、ほんの少し暴れたら一気に熱が冷めた。
私は抱きついてきているカレンさんを優しく、丁寧に、起こさないように引き離し、少し離れたところに私は座った。
「……どうしようかな」
魔法少女になって、色々頑張って、ようやくあのカレンさんと出会えたら、まさかの事態になってしまった。
カレンさんのとこは大好きだし、そういう意識が一ミリもなかったと言えば嘘になる。私とカレンさんで愛し合う妄想なんて何回もしたことはある。
いや、いいか。もう何も考えなくていいや。
とりあえず私はカレンさんと一緒に、正義の味方魔法少女が出来ればいいのだ。
それさえ叶うのならば、身体をどう使われたって構わない。別に嫌と言うわけでもないし。
「……ただちょっと、魔法少女らしくはないよねえ」
それだけが不満だ。魔法少女同士の恋愛なんて同人誌でしか見たことないし。
もっとこう、キラキラした関係が良かったなあ、とは思う。最高の相棒みたいな、二人で最強みたいな、無敵のコンビみたいな。それこそ魔法少女タッグトーナメントで優勝できてしまうな。
けれどまあいいや。これ以上深くは考えないようにしよう。
私はカレンさんと一緒にいられれば、それで充分なのだから。
あの日あの時からずっと追いかけてきた彼女と、ようやく同じ立ち位置で分かり合えるチャンスなのだから。
余計なことはせず、余計なことは言わず、余計な考えは持たず、余計なストレスを溜めず、余計な心配はさせずに、余計な揉め事は無しに。
ただただ今起きている状況を私なりに受け止めて、そのまま流されて生きていけば、私は幸せになれるはずだ。
(……だーもう! 余計なことは考えるなって考えてるのに……! いや考えるなって考えるってどう言うこと!? 違うそうじゃなくて! どわー!)
変に物事を真面目風に考えるせいで、頭がどんどん痛くなってきた。
わけわかんなくなってくる、考えないようにしようとするほど考えてしまう。
(……寝よう! もう寝よう!)
私はもう何も考えないように、考えられないように、布団に潜って目をギュッと閉じた。
(……あんま眠くない)




