36.カレンさん大好き
「そんじゃあ……ぁ! 死になアムル……ぅ!」
「バカ! そんな簡単に負けないって!」
私目掛け鎌を振るい、斬撃を飛ばしてくる女性。
私はそれを最低限の動きで回避し、瞬時にステッキを構え、彼女目掛け光線を放つ。
けれど、想定はしていたけれど、私の攻撃は軽く避けられる。それと同時に彼女は地面を勢いよく蹴り、私の目の前に現れた。
ニヤリと笑いながら、鎌を大振りする女性。私はステッキで鎌の動きを逸らして、体の力を抜いて地面に倒れるようにそれを避け、ステッキは手放しすぐに手を地面に伸ばし自分の体を支え、思いっきり蹴りを放つ。
鎌を振るった後の彼女に出来た僅かな隙を狙い撃つことに成功し、私の蹴りはクリティカルヒット。女性の体勢が崩れる。
そのまま私は追撃。まず空で体を回転させ頭に回し蹴り、そのまま首に足を引っ掛け彼女を顔から地面に向けて落とす。
油断はしない。事前に右手に貯めておいた魔力を一気に彼女に向け解き放ち、それと同時に私は女性から距離を取る。
距離を取りながら再びステッキを作り出し、それを手に持ち呪文を唱える。
そして放たれる無数の光線。それら全ては未だ倒れたままの女性に向かっていく。
「……ワンパターンなんだよな」
小さい声だけど、確かに聞こえた女性の呟く声。
それが聞こえたと同時に、女性は立ち上がり、徒手空拳で私のビームを打ち消す。
ビームを全て打ち消した彼女は瞬時に鎌を自らの手に再び具現化させ、私目掛け一振り。
飛んでくる斬撃、大きな斬撃。けれど距離を取って置いたから、私は余裕を持ってそれを避けれた。
「誰がワンパターンだって……? あなたの方こそ鎌をブンブン振り回すだけじゃない!」
「それが一番シンプルで強え……ぇからに決まってんだろ……ぉ!」
「ふん! じゃあ私もそんな感じの理由でビーム撃ってるから!」
私はそう叫んで、再び彼女目掛けビームを放つ。
すごい速さで彼女に向かっていく光線。だけどやっぱり、それは彼女が軽く振った鎌に打ち消された。
(埒が開かないけど……時間稼ぎにはなってるか……)
息を整えながら、私はじっと女性を見つめる。
多分、彼女も体力を削られている。私と違って、恐らく彼女は全力を出しているはず。故に私よりも体力と魔力の消費が激しいはず。
確証は得られてないけど、確実に追い詰めている。と自信を持たないとやっていられない。
私はもう限界寸前だけど、あくまで限界寸前。まだやりようはある。
いや、やっぱり限界かも。もうずっと疲れが取れない、過労死するかも。
だけど引き伸ばして、引き伸ばして、戦いを引き伸ばして。なるべく私が有利な時に一瞬本気を出せばきっと、勝てる。
「かああぁ……ぁ! アムル……言ったよな……もう終わりだって、もう終わらせようって……ぇ!」
「ッ!?」
「はあ……ぁ! けひふかかかか……か……ぁ!」
突如、唸り声を上げる女性。
そんな彼女の足元から、真っ黒なオーラが湧き出る。やがてそれは彼女の全身を包み始めた。
すごい魔力、ビリビリ来る感じ。カレンさんからも感じたことがない、凶悪で強大な魔力。
もしかして、まだ本気を出してなかった? さっき本気を出すって言ってたのに、嘘をつかれた?
ムカつく。絶望とか恐怖じゃなくて、怒りを感じる。
ズルいって、卑怯だって、叫びたい。けど体力の無駄だからそんなことしない。
じっと見つめる。彼女に何が起きて、何をしようとしているのか、しっかりと見なくちゃ。
「本気の本気だ……ぁ、いい加減終わらせねえとな……ぁ!」
目を閉じながら、静かに、力強く語る女性。
彼女が纏う黒いオーラが暴れ出す。それと同時に彼女の目が見開いて──
「……ははっ……遅えって言ってるんさお前はよ……ぉ!」
「ぐ……っつた!?」
いつの間にか私の目の前に現れた女性。何も見えなかった、気づかなかった。
腕にすごい熱と痛みを感じる。切られた。傷は多分浅いけれど、彼女の攻撃を喰らった。
「メ……ルチ──」
「唱えさせねぇ言わせねぇ死に晒せぇ!」
「う……ッ!?」
私が防御魔法を唱えようとした瞬間、彼女の蹴りが私の腹部を打つ。
内臓が潰れるような感覚。喉まで胃液が上がってくる嫌な感じ。痛みと苦しみが、同時に襲ってくる。
「そんなもんかおい……ぃ!」
私が痛みに耐え、なんとか後退しようとした瞬間、彼女は私の髪を思いっきり掴んできた。
そのまま顔に拳を打つ。鼻が折れたような音、鼻血が出ている感覚。
彼女は一発打ち込んで満足したのか、髪を握ったまま私を放り投げた。
「……くけっ……!」
背中を強打する。私はそのまま、地面にへたり込んでしまった。
立ちあがろうとする、体勢を整えようとする。けれど頭と体がフラフラして、うまく立ち上がれない。
「……ぐす……痛い……ひぐっ……痛い……よ……ぐず……」
思わず泣きそうになる。けれどそれを必死で抑え、涙と鼻血を左腕で拭った。
腕がぐちゃぐちゃのぬちゃぬちゃになってしまった。拭かない方が良かったかも。
「殴打殴打殴打殴打……斬撃斬撃斬撃斬撃……クフフ……柔らかくて軽くてか弱いなアムル……ぅ。罪悪感を覚えるぜ……ぇ」
ニヤニヤしながら、手をバキバキと鳴らしながら私に近づいてくる女性。
あの人、全然本気を出していなかった。本気を出すって言ってたのに、先ほどまでの彼女とはまるで別人のように強い。
もしかして体力も余ってる? まだまだ余裕?
じゃあ私、勝てないじゃん。
「悲しむな……苦しむな……あんたはもう死ぬんだからさ……最後くらいハッピーでいようぜ……ぇ?」
「……私が幸せを感じるのは、カレンさんと一緒にいる時なの」
まだ痛みが引いていない。全身がズキズキと痛い。だけど立たなくちゃ。
「……私がカレンさんと、私が死ぬその時まで一緒じゃないなんて……それこそ解釈違いなの……!」
カレンさんの笑顔、カレンさんの髪、カレンさんのうなじ、カレンさんの胸、カレンさんの手、カレンさんの足、カレンさんの爪、カレンさんの鼻、カレンさんの秘部、カレンさんの背中、カレンさんの二の腕、カレンさんのお尻、カレンさんの声、カレンさんの全てを思い浮かべながら、私は立ち上がる。
大好き、大好き、大好き。
ずっと、大好き。
だから、これかもずっと一緒に──
「見せてあげる……私の本気……!」
「戦闘狂じゃないんでね……ぇ、ぶっちゃけ本気とかどうでもいいんだよ……ぇ!」
女性がそう叫び、地面を蹴り、私に襲いかかってくる。
見える、さっきは見えなかったけど、今は彼女の動きが見える。
私はステッキを強く握りしめ、自身のリミッターを解除する呪文を唱える。
「……カレン」
「ウワフハハッハ……ァ! カレンの名前を呟いてどうなる……ぅ!」
女性が大笑いしながら私に向けて鎌を振るう。私はそれを瞬時にステッキで受け止め、そのまま弾き飛ばす。
「……あぁ?」
隙が出来た。それを逃す私じゃない。これまでも一回も、逃したことはない。
私は瞬時にステッキを両手で握りしめ、槍のように持ち彼女の腹部を思いっきり突く。
「ぐ……ぅ……!?」
そのままステッキを今度は左手だけで持ち、鞭のようにしならせ彼女の顔を打つ。
それと同時に、空いた手に瞬時に貯めた魔力を彼女目掛け放出。
そして呪文を唱え、ステッキから今までのどの光線よりも太く威力のあるビームを彼女に放った。
「……けほ……ッ!」
体力を使いすぎた。意図せず私は血反吐を吐いてしまう。口の中が気持ちわるい。
その時、聞こえないはずの笑い声が聞こえてきた。
「けへっははは……へへ……やるじゃねえか……ァ!」
全身血だらけ傷だらけの女性が、血反吐を吐いた私を笑いながら言った。まだ足りなかったみたい。
私はすぐさま彼女にステッキの先端を向ける。そして呪文を──
「ブツブツ考えながら動いてたら遅い……そう言っただろ……ぉ!」
「……うぐうううぅゥゥ……ゥゥ!?」
呪文を唱えようとした瞬間、女性は私の目の前に現れた。
それと同時に、とんでもない痛みが私を襲う。
熱く、痛く、血が放出されるこの感覚。初めて感じるのに、何が起きたのかある程度察しがついてしまう激痛。
動かない、動かそうとした右手が、動かない。
すぐに右手のある場所に視線をやると、そこにはあるべき私の右手がなかった。
スローモーションで地面に落ちていく右手が見える。錯覚なのかどうか知らないけど、確かにゆっくりと地面に落ちていく。
私の右手、いや──
「カレンさんに貰った……バングル……!」
私は勢いよく地面に向かって倒れ、口を開け、右手に付いたままのバングルを取る。
これだけは私から離れさせたくない。絶対に、誰にもあげないし渡さない。
カレンさんから貰った大切なバングル。
ねだったわけでもないし、お願いしたわけでもない。欲しいなあと言う雰囲気も出してないし、気にもなっていなかったこのバングル。
初めてカレンさんが、カレンさんの意思で選んで、カレンさんからくれた、カレンさんに渡された、大切なプレゼント。
私の命より、いや、カレンさんの次に大切なもの。無論一位はカレンさんなので、私の命は優先順位三番目。
「自分の右手よりバングルだ……ぁ?」
私の行動に疑問を抱きながら首を傾げる女性。
動きが止まった。割とチャンスかも。
「アムルビームバージョンオメガァ!」
「なんだそりゃ……ぁ!?」
私はバングルを咥えたまま器用に叫び、左手から魔力を放出する。
そして私は後退し彼女から距離を取る。
(どこに付けようかな……そだ)
貴重な魔力を使って呪文を唱え、バングルを一旦大きくして私はそれを首に通した。
まるでチョーカーみたい。これなら絶対に落とさない、私の首が落ちない限り。
ついでに防御魔法もバングルに付与しておく。傷付いたら嫌だし。今更過ぎるけど。
「……げほっ! うぅ……」
バングルに魔力を無駄に使ったせいか、一気に体から力が抜け、思わず私は血反吐を吐いた。
喉が痛い。相変わらず口の中が血の匂いでいっぱいで、変に生ぬるくてぺちゃぺちゃしている感じがして、気持ち悪い。
「……ぅ」
吐き気も来た。一瞬えずいてしまう。
頭も少し痛いし、色々な関節が無理な動きをしたから悲鳴を上げている。
「はぁ……はぁ……!」
視界がぼやけてきた。老眼ってこんな感じなのかな? そんな事言ってる場合じゃないか。
私はキョロキョロと辺りを見渡す。どこにいる? あの女は、どこに行った?
「……後ろだぁ!」
「ぁがっ……ッ!?」
私の背後から叫び声が聞こえると同時に、背中に鋭い痛みを感じる。まるで切り裂かれたような、いや、実際に切り裂かれている。
ズキズキと、というよりはズクズクと背中が痛む。肉が避け、傷口からたくさんの血が出ているのを感じる。
「……ふぇ……」
血を流し過ぎたのか、一瞬クラッとなった。
倒れそうになるが、私は必死に地面を踏み──
「うはは……ぁ!」
「……ぐぅうぅうう!?」
今度は蹴られた。背中の傷口に対して的確に、女性の蹴りが私を痛めつける。
ダメだ、この痛みはダメだ。耐えられない。けど──
「……このっ!」
ギリギリのところで踏み止まり、すぐに振り返り左の手のひらを女性に向け、魔力を貯め──
「遅えって……ぇ!」
「……ッ!?」
私が手のひらを向けた瞬間、女性は大きく腕を振り上げる。
左腕が少し軽くなる。先端から、血がドクドクと出て円を描くように広く痛みを感じる。
女性が手に待っているのは彼女お得意の鎌。それを私の左手目掛け振るったって事は当然──
「次は足でも行くか……ぁ!?」
私が痛みの正体を認識しようとした瞬間、女性がまた大きく鎌を振る。
足が、右足が、縦に切られた。切り落とされてはいないけど、真っ直ぐに、パックリと割れる感覚。
力が入らない。いや、入れられるけど、痛過ぎて入れたくない。
私はそのまま、支える手が無いからお尻から受け身も取れずに地面に倒れた。
「長かったな……ぁ、だがもう終わりだアムル……ぅ」
痛い。痛い。身体中が痛い。痛すぎて、痛くて、とても痛くて、どうしようもなく痛くて、何を考えても痛くて、忘れたくても痛くて、消せない痛みが、鋭い痛みが、私を襲い続ける。
涙が出ている。汗もたくさんかいている。血もたくさん出ていて、脱水症状にも似た感覚を覚える。
ダメだ、もう流石に、ダメかも。
痛いんだもん、カレンさんのことを考えられなくなるくらい、痛い。
「……ぐず……まだ……終わってな……」
「終わりだっての」
この戦いの最中、常に笑顔を浮かべていた女性から笑みが消える。
真顔で、私を睨みつけながら、両腕で一つの鎌を持ち、勢いよく私目掛け振るった。
その時、私の脳裏に浮かんだのはカレンさんの笑顔。
私に向けてくれた笑顔、優しい笑顔、可愛らしい笑顔。
「……避けた?」
「ハァ……! ほらまだ終わってない……じゃん……!」
すごい、カレンさんの事を必死に考えたら、思い浮かべたら、体がまだ動いた。
立てる。立てるかも。私は足に力を入れて、ゆっくりと──
「……まだ立てんのかよ」
「ハァ……! ハァ……! 立てるのよ……! ゴホッ……!」
再び血反吐を吐く。目からも血が出ている気がする、鼻の穴からも。
「く……くく……ははははは! 凄えぞアムルお前……ぇ! バケモノかよ……ぉ!」
「ハァ……ぐふっ……ハァ……うるさい……」
私は、今、とてもイラついている。
今まで過ごした人生の中で、最も、イラついている。
コイツ何なの?
なんでこんなに強いの?
カレンさんにわかのくせに。
強過ぎる相手は大嫌い。
私がなんでここで死なないといけないの?
意味わかんない、死にたくない。
まだ私は死ぬべきじゃない。
この女、すごい嫌い。大嫌い。
鎌を振り回すとかバカみたい。
魔法少女の力みたいなの使うくせにやってることが酷過ぎる。
傷が痛すぎる。もう死にかけなんだから苦しくしないでよ。
アドレナリンとか何とかはどうなってるわけ?
ムカつく。
ムカつく。
こんなやつ、カレンさんに会わせたくない。
まだ死にたくない。
カレンさんに会いたい。
カレンさん助けに来てくれなかった。
ハッピーも来てくれなかった。
ハッピーは結局どこに居んの? バカ。
カレンさんも生理痛くらい気合いで耐えてよ。
カレンさんったら……もう。
カレンさん、好き。
カレンさん愛してる。
カレンさんと結婚したい。
まだ結婚できてない。
結婚したかった。もちろんカレンさんと。
何もかも全部この女が悪い。
最悪。
最悪。
最悪。
ムカつく。
カレンさんに……会いたい。
「苦しいだろ……ぉ? 辛いだろ……ぉ? 見ろよこの鎌ご立派だ……ァ! これであんたの首を切ってやんよ……ぉ!」
うるさいバカ。
バカ。
黙ってバカ。
ウルトラバカ。
アホバカ。
ミラクルバカ。
サイテーバカ。
バカバカ。
ハイパーバカ。
ついでにハッピーのバカ。
カレンさんのバカ。
私のバカ。
バカばっか。
「お前が死んで……カレンは成長する……ぅ! 悲劇の英雄としてな……ぁ! そして自暴自棄になった可哀想なカレンを私が討ち取る……ぅ! うへひゃひはははひひふふは……ぁ! 目の前だ……もうすぐだぜその瞬間まで……ぇ!」
もうあの女が何を言っているのかも聞こえなくなってきた。
どうせあの変な喋り方で、私の悪口とかカレンさんの悪口とか言ってるんだ。サイテー。
ムカつく。ムカつく。ムカつく。
私は舌打ちをして、地面を蹴り、女性の元へと向かった。
全身が痛くて、視界もボヤけて、まともに喋れない状態なのに、本気を出した時のように動ける自分に心底驚く。
愛のパワーかな? カレンさんの事を想ったら動けるようになったし。
「……ッ!? テメェまだ動けぐぅ!?」
完全に油断していたらしく、女性の鳩尾に簡単に蹴りを入れられた。
私はそのまま最後の力を使って、両腕を彼女に向ける。
「……ゴホッ……カレンさんへの……遺言は……カッ……カレンさん大好き……伝え……おいてね……伝えられるならだけど……!」
そして全体力を、全魔力を込めて、放つ。
最後の攻撃。カレンさん大好き好き好き好き愛してるありがとビームを。
「ぐ……ぐぎごが……アム……アムル……ゥ!」
私の脳裏に浮かぶのは、色々なカレンさん。
迷子の私に優しく話しかけてくれたカレンさん。
ゲームを一緒に遊んでくれた素敵なカレンさん。
頬を染めながら私にキスをしてきたカレンさん。
真っ暗な部屋で布団の中で愛し合ったカレンさん。
微笑みながら私の頭を撫でてくれたカレンさん。
バングルを恥ずかしそうにくれたカレンさん。
アイスを買ってくれて一緒に食べてくれたカレンさん。
珍しく甘えたがりで膝枕をしてあげた時のカレンさん。
膝枕をしてくれた天使のようなカレンさん。
中々起きないイビキがうるさいカレンさん。
何もしてくれないしゴミもちゃんと片付けないダメ人間なカレンさん。
ずっとずっと抱きつかせてくれた優しいカレンさん。
泣いている私をそっと抱きしめ、撫でてくれたカレンさん。
弱っていて見ていて可哀想だったけど可愛らしかったカレンさん。
カレンさんの匂い、カレンさんの雰囲気、カレンさんの味、カレンさんの立ち振る舞い。
もうあなたのことしか見えない。あなたのことしか覚えていない。あなたのことだけ感じていたい。
細かく覚えている。何もかも思い出せる。何をどう言う顔でどんなイントネーションで喋っていたかさえも。
走馬灯だからかな。なんてね、これは私の愛のメモリー。いつでも思い出せます。
甘えたかった時に甘えさせてくれて、嬉しかった。
再開した時に私を抱いてくれて、今でもちょっと変だなとは思うけどすごく嬉しかった。
私と暮らしてくれて、とても嬉しかった。
私のわがままたくさん聞いてくれて、嬉しかった。
もう悔いはないかも。なんだかんだ言って私、カレンさんととっても幸せな日々を過ごせたんだもん。
でも、でもでもでもでもでも──
やっぱり最後くらい、もう一度、あの優しい腕で、柔らかい手で、凄いテクニックで、抱きしめて欲しかったなあ。
まだ、死にたくないなあ。
会いたいなあ、カレンさんに。
「……カ……レンさ……ん……大好き……」
私は、そう、最後に、つぶ──




