30.甘えたいモード
「……むぅ。嬉しいけど……むぅ」
お昼を少しすぎた頃、おやつの時間。つまり午後三時。私はカレンさんを膝に乗せていた。
なんか、今日はよくわからないけれど、カレンさんがすごく甘えてきた。
いつもは私が抱きつくのに、今日はカレンさんから。
いつもは私が膝枕をしてもらうのに、今日はカレンさんが。
いつもは私を撫でてくれるのに、今日は私が撫でている。
嬉しい。とても嬉しい。可愛いカレンさんが見れて幸せだ。
頭を撫でると、ほんの少しだけ目を細め、気付かないほど小さく笑みを浮かべる姿が可愛い。
息を吸うたびに上下する胸の動き、口から吐かれる甘い吐息。ほんのりと温かい頬、綺麗なまつ毛、すべすべなお肌。
何もかもが愛おしい。大好き。大好き好きすぎて死んじゃうんじゃないかってくらい大好き。
胸の鼓動が早まる。カレンさん可愛いと早鐘を打っている。
髪の一本一本が艶やかで、芯があって、美しい。
少し濡れた唇は、一切ガサついていなくて、触れたらきっとプリンのようにプルプルだ。
脇の匂いを嗅いでみたい。汗で蒸れやすいその場所、カレンさんの恥ずかしい場所。
やっぱり好きだ。大好き。本当に大好き。
着ている服はヨレヨレのシャツ。色褪せている。きっとカレンさんと長年暮らしてきたのだろう。カレンの色々なものが染み付いていそうで、顔を埋めたい。
パンツはシンプル。まるでジャージのような素材。汗をよく吸収しそうで、少し吸ってみたい。
僅かに見える下着。シンプルすぎるピンク単色のぱっと見安物なブラ。でも、そこがいい。
カレンさんの着ているものを見るだけで、私は沸る。
好き。好き。好き。好き。
可愛い。可愛い。可愛い。可愛い。
愛してる。大好き。ラブ。
このままずっと甘やかしたい。私の胸に顔を埋め、ぐりぐりして欲しい。
私に抱きついて、髪に顔を埋め、うなじの近くでフーっと息をかけて欲しい。
涙目で、上目遣いで、口をキュッと閉じて、何かを訴えるような目で、ずっと見つめられたい。
欲しいものをなんでも買ってあげたい。
好きなだけ眠らせてあげたい。
必要なものはすぐに取ってあげて、頼まれたものは瞬時に買ってきて、彼女のそっけない笑顔を見たい。
ずっと、ずっと、ずっと、私に甘えていて欲しい。
可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛いカレンさんを、延々と感じていたい。
(……あは、気持ち悪っ。私)
自分の気持ち悪さに苦笑して、私はため息をつく。
だって好きなんだもん。愛しているんだもん。仕方がないじゃん。
でも本当は、本当は──
(……カレンさん)
「……すー……ん……」
私は、珍しくイビキをかかずに、可愛らしい寝息を立てているカレンさんの髪に顔を埋める。
シャンプーでは出せなさそうな、不思議な匂い。女の子らしさを感じさせる甘い匂いと、ほんの少し匂う汗臭さ。
この匂い、カレンさんの匂い大好き。
(カレンさん……)
私はカレンさんの髪の匂いを堪能し、顔をそこから離す。
そして、静かにため息をつく。
(……本当は、私が甘えたいのに)
カレンさんが私に甘えてくれるのは嬉しい。本当に、心の底から嬉しく感じる。
でも違う。やっぱり私は、カレンさんに甘えたい。
側から見たら十分甘えているように見えるかもだけど、私はもっと、もっともっともっともっともっともっと甘えたい。
ぎゅっとずっと抱きしめて、頬をお腹にスリスリして、指を甘噛みして、髪の毛を咥えて、耳の穴を舐めたり、耳たぶを唇だけで噛んだり、胸の谷間に顔を埋めたり、背中から身体全体を使って巻き付くように抱きついたり──
髪の毛をとかしてもらったり、爪のお手入れをしてもらったり、お古を貰ってみたり、一緒にお風呂に入って洗ってもらったり、髪の毛が抜け落ちるくらい頭を撫でてもらったり、自ら胸に私を押し付けてもらったり──
甘えたい。
(カレンさん……)
甘えたい。
(カレンさん……)
もっと──
「……レンさん……っ」
もっと──
「……っ……」
もっともっともっと──
「……カレンさん……っ……」
甘えたい──
「……っ……はぁ」
自分の気持ち悪さに、また私はため息をついた。
「……すー……はー……」
私は乱れた息が整うよう、大きく深呼吸をする。
疲れた。とても疲れた。全体力を使った感じ。
「うぅ……恥ずかしい……興奮しすぎたかも……」
頬が真っ赤に染まって、熱を帯びているのを感じ、思わず両手で押さえる。
すっかり妄想の世界に入ってしまっていた。
妄想の中の私はカレンさんとイチャイチャしていて、めちゃくちゃイチャイチャしていて、イチャイチャしていた。
簡単に言えば、ラブラブちゅっちゅっ、って感じ。
「……もうっ」
私の気持ちなんて知らないであろうカレンさんは、今も私の膝枕で幸せそうに寝ている。
カレンさんばかり甘えてズルい。嬉しいけれど、ズルい。
「本当はもっと甘えたい……甘えたいモードなんですよ私……カレンさん……」
そう呟きながら、私はカレンさんの頭を撫でた。




