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24.心配なんだからね

「楽しみですね! カレンさん!」

 すっかり暗くなった祭りの夜。私とカレンさん、それからハッピーは多種多様な人々に混じって、地面に腰を下ろしていた。右が私、真ん中がカレンさん、左にハッピー。川の字に並んでいる。

 カレンさん曰く、祭りの最後には大きな花火が上がるらしい。私はそれがとても楽しみだった。

 だって、なんだかロマンチックじゃない? 大好きな人と大きな花火を見るなんて。

 これでハッピーが居なくて、カレンさんと二人きりならもっと良かったのだけれど。別にハッピーが嫌いというわけではなくて、雰囲気的に。

(私とカレンさんの娘と思えばワンチャン……?)

 そう思い、私はなんとなくハッピーの頭を撫でてみた。

「ハピィ!? 急にどうしたんですかアムルちゃん!?」

 ものすごく驚いた顔で私を見るハッピー。なんだか、大声で驚かされた子犬みたいに見える。つまり、彼女は何故か私を怯えた目で見てる。

「……アムルちゃんが私を撫でるなんて。嬉しいですけど……嬉しいですけど……」

(嬉しいなら素直に喜べばいいのに……)

 ハッピーの腑に落ちていなさそうな雰囲気に、思わず私はイラッとする。

「なんか……ちょっと怖いです……天変地異が起きるかも……」

 そう呟きながら、ハッピーは隣にいたカレンさんに抱きついた。

 抱きついたぁ!?

「ダメでしょ!」

 私は思わず立ち上がり、ハッピーの頭をペチンと叩いた。

「ハピィ!?」

 そのまま彼女を引き剥がし、代わりにカレンさんには私が抱きついた。

「カレンさんは私のなんだから!」

 私は大声で宣言する。ハッピーにだけではなく、周りにいる有象無象に対しても。

「べ、別に抱きつくくらいいいんじゃないかな……アムルちゃん」

 すると、カレンさんが少し困惑した声色でそう言った。

 私は思わず頬を膨らませてしまった。言ってることは多分正しいんだろうけど、私じゃなくてハッピー側に立ったのが嫌だ。ハッピーに嫉妬してしまう。

「とにかく! 私がいる時はカレンさんに抱きついちゃだめ!」 

 ハッピーを指差し、私はビシッと言う。

 少し悲しそうな顔をするハッピー。しかし、一秒後には笑顔に変わり、何かを思いついたように手のひらを握った拳でポンっと叩く。

「カレンちゃんに抱きついちゃダメなら……アムルちゃんに抱きつきます!」

 そう言ってハッピーは立ち上がり、私の横にやって来て、しゃがみ込んでじっと見つめてくる。

「いいですよね! アムルちゃん!」

 辺りは暗くもう夜なのに、ここだけ昼間だと勘違いしそうになるほどの、輝く笑顔を見せるハッピー。

「……う」

 しかし、私が何も答えずにいると、徐々に輝きが失われていき、ハッピーは少し涙目になって──

「……ハピ」

 と、赤ちゃんワンコのように小さく鳴いた。泣いた? 鳴いた? どっちだろう。

「……いいよもう。抱きつきたければ抱きつけば」

 そんなハッピーの顔を見るのは耐えられず、私は許可を出してしまった。

 それと同時に物凄い勢いでハッピーが私に抱きついてくる。重い、お腹が痛い、人肌が熱い、ぶっちゃけ邪魔。

(……カレンさんもこんな風に思っているのかな?)

 ハッピーに抱きつかれた感想を思い浮かべるたびに、私もこう思われているんじゃないかと考えてしまい、不安になる。

 抱きつきは控えようかな? ううん、そんなの絶対無理。だって私、カレンさん大好きなんだもの。

「会場の皆さま! お待たせ致しました! もうすぐ! もうすぐです! もうすぐ花火が上がりますよ!」

 と、突然、そこら辺に置かれているスピーカーから男の人の声が聞こえた。

 誰だっけこの人。まあいいや。そう思いながら私はカレンに抱きつく。

「見辛くないの……? アムルちゃん、ハッピーちゃん」

 すると、カレンさんが振り返り、私たちを見ながらそう言った。

「大丈夫です! 無問題!」

 私は頷く。振り返るとハッピーも頷いていた。

 確かに花火は見づらいかもだけど、花火が目当てなんじゃなくて、カレンさんと花火を見るのが楽しみなのだ。

 だからこれでいい。カレンさんに抱きつきながら、ロマンティクス出来ればそれでいい。

「あ、来そうですよアムルちゃん! カレンちゃん!」

 ハッピーがそう言うと、それとほぼ同時にひゅーという情けない音が鳴った。

 上を見ると、思っていた以上に太い光の玉が残像を残しながら空へ向かっていた。

 そのまま上がり、上がり、上がり続け──

「わあ……!」

 勢いよく弾け飛んで、まるで惑星を破壊した時のような、大きくて綺麗な花火が打ち上がった。

「……へえ」

 カレンさんが呟く。

「ハピィィィィィ!」

 ハッピーが叫ぶ。

「綺麗……」

 そして私が呟く。

 周りにいた人たちも様々な感想を漏らしている。綺麗だとか、凄かったとか、語彙力のない至極単純だけど、聞いていて楽しくなる感想を。

 花火はたったの一発。それでも大きな拍手が起こる。私もそれに合わせて一所懸命に拍手をする。

 数分経つと、座っていた人たちが徐々に立ち上がり始める。

「これにて太郎フェスティバル終了! 閉幕! 来年会えたらまた会いましょう! グッバイバカども!」

 スピーカーから、お祭りが終わったことを知らせるアナウンスが流れる。それを聞いたカレンさんが立ちあがろうとしたので、私は一旦彼女から離れ、一緒に立ち上がった。

「……あれ? ハッピーは?」

 やけにすんなり立ち上がれた、と思ったら私に抱きついていたはずのハッピーがいつの間にか離れていた。

 急いで後ろを振り向くと、上の空で立っているハッピーが居た。

 私は少し安心する。またノーハッピーがなんとかかんとか言って、勝手にどこかへ行って迷子になっているのかと思った。

「じゃあ、帰ろうか。アムルちゃん、ハッピーちゃん」

「はい!」

 カレンさんからの帰宅宣言。私は元気よく返事をする。

 しかし、何故かハッピーは返事をしない。さっきからずっと、ぼーっとしている。

「ハッピー……?」

 私は思わず彼女の肩を掴む。それと同時にハッピーはビクッとなり、ゆっくりとこちらに振り返った。

「だ、大丈夫?」

「……えと、あはは……」

 乾いた笑い。いつものハッピーじゃない。

 私は思わず首を傾げる。あんなに元気だったのに、急に元気がなくなっている。

「ハッピーちゃん、大丈夫なの?」

 カレンさんも心配するようにハッピーに聞いた。それに対しても、ハッピーは無理矢理笑う感じで──

「……はい。もう帰るんですよね、行きましょうか」

 そう言って、歩き始めた。

 私とカレンさんは思わず目を合わせてしまった。

「なんかおかしいよね? ハッピーちゃん……」

「はい……大丈夫なのかな」

 カレンさんと話していると、いつの間にかハッピーが私たちから離れていた。

 一人で歩いてどんどん先に進もうとするハッピー。私とカレンさんは急いで彼女を追いかける。

 追いつくと、勢いそのままに私はハッピーの手を掴んだ。彼女が離れないように、がっしりと。

「また迷子になるでしょ? 手、繋いであげる」

 そう言うと、ハッピーは笑みを浮かべながら──

「あはは……なんだかんだ言ってアムルちゃん、私のこと好きですよね? ツンデレってやつですか!?」

 と、いつもの勢いで私をバカにしてきた。

 私は思わず彼女の頭を軽く叩く。

「ハピィ!?」

「……もうっ」

 心配して損した。多分、ハッピーハッピー言いすぎてさっきは疲れが出ちゃっていたんだろう。と私は解釈する。

 振り返ると、カレンさんも安心したよな顔をして私たちを見ていた。

「今日はもうノーハッピーいませんよね? いないはずです! あんなに綺麗な花火を見たんですから!」

 すっかりいつも通りのハッピー。そんな彼女を見て、私は思わずため息をつく。

「全く……」

 でもよかった。安心した。何事もなさそうで。

 本当に、よかった。



 アムルちゃんと手を繋ぎながら帰る夜道。

 会話はない。アムルちゃんは時折あくびをしながら、カレンちゃんは目を閉じたまま歩いている。

 そんな夜道を歩きながら、私は考えていた。

 花火が打ち上がったあの瞬間、確かに見えたあのバケモノ、一体なんだったのだろう。

 頭がとんぼで──

「……ハピ」

「ん? ハッピー、しゃっくり?」

「え? あはは……そんなものです、多分」

 思い出そうとすると頭が痛くなる。まるで、何かを警告するように。

 バケモノだけじゃない。私の脳裏から離れないのは。

 あの女性。頭痛による幻覚で見たあの女性。

 何故か、彼女の姿がずっと頭から離れない。

「──ゃん」

「ハピ?」

 誰かに呼ばれた気がした。振り返るとそこにいたのはカレンちゃん。

 彼女が呼んだのかな? でも、こくりこくりと首を上下に動かして眠りかけている彼女が、急に私の名前を呼ぶとは思えない。

「──ゆちゃん」

 もう一度呼ばれた。思わず辺りを見渡す。

 誰もいない。何もない。わからない。

「ハッピー?」

 挙動不審な私を見てか、アムルちゃんが心配そうな顔をして首を傾げる。

「あ、いや! ノーハッピーはいないかなーと心配でして!」

 私は急いで誤魔化す。すると、アムルちゃんは少し不満そうな顔をしながら──

「自分で今日はもういないって言ってたじゃん」

 と、呆れるように言った。

 その時だった。

「私も幸せにしてほしかったな──」

「ハピ……!?」

 はっきりと聞こえた。私に、私による幸せを求める言葉を。

「ごめんなさいアムルちゃん! ちょっと私行ってきます! ハッピーを求める声が聞こえたので!」

 私はアムルの手を振り払い、走り出──

「待って!」

 走り出そうとしたが、瞬時に手を掴まれ、アムルちゃんから離れる事ができなかった。

「……どうしたの?」

 アムルちゃんの大声を聞いて、カレンちゃんが目を見開く。

「何も聞こえなかったって! 気のせいだって! だから今日は帰ろ?」

 私を心配するように、本気で心配しているような顔をして、私を必死に止めようとするアムルちゃん。

 けれど私には聞こえた。ハッピーを求める声が──

 何も言わずに、そのまままた手を振り払おうとすると──

「うぅ……もう! バカハッピー!」

 アムルちゃんはぎゅっと私の手を掴み、大声で叫んだ。

「ノーハッピーは居ないって自分で言ったじゃん! こんな事言いたくないけど……今日は私、カレンさんとハッピーと三人でいたいの!」

 何故か涙目で、そう訴えるアムルちゃん。

 私は何も言えず、彼女を見る。

「最近のハッピー凄い変だよ! あの日倒れて以来ずっと変! 四六時中ノーハッピーを探してるし……最近帰ってくるの遅いし! 私、本当に心配してるんだからね……! これ以上心配かけさせるなら……私がノーハッピーになるから!」

「アムルちゃん……」

 ノーハッピーになる。そう言われたら私は、彼女から離れるわけにはいかない。

 やっぱり私の聞き違いだったのだろうか? 一度しか聞こえてこなかったし、そうなのかも。

「……わかりました。今日はちゃんと、アムルちゃんとカレンちゃんと一緒にいます」

 私がそう言うと、アムルちゃんは涙を拭いながら笑顔になった。

「……ごめんねハッピー。私のわがままかもしれないけど、本当に心配なの。あなたが」

 しおらしい顔で謝ってくるアムルちゃん。そんな彼女に私は微笑みながら──

「心配させてすみません……よし! じゃあアムルちゃんが珍しくデレてくれましたし! 歌でも歌いたいいい気分なので歌いながら帰りましょうか! 最高にハッピーってやつです!」

 ハッピーになれる最高のハッピー行動を提案した。

「……それは恥ずかしいからヤダ」

「なんで!?」

 口を尖らせながら、プイッとアムルちゃんはそっぽを向いた。

「私も歌いながらはやだかな……」

「カレンちゃんもですか……!」

 何故か二人に断られてしまった。二人ともハッピーになりたいんじゃなかったの……?

 腑に落ちない気分で、私は、私たちはそのまま家路に着いた。

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