番外②:ハッピーちゃんとカレンちゃん
「というわけで! アムルちゃんにはお買い物に行ってもらいました!」
「……どういうわけで?」
眩しい太陽光が部屋に差し込むお昼頃。私は珍しく、ハッピーと二人っきりで家にいた。
ニコニコ笑顔のハッピーが、私を見てニヤニヤしている。
「よくアムルちゃんが私から離れてハッピーちゃんと二人っきりにしてくれたね……」
「はい! 本気で泣きながら土下座しましたから! どうしてもお願いします! って!」
笑いながらそう言うハッピーの額には、泥がめちゃくちゃこびりついていた。
部屋じゃなくて地面で土下座したんだ。私は思わず呆れてため息をつく。
「今回カレンちゃんと二人っきりになった理由はですね……! ジャカジャカジャカジャカ……」
目を輝かせながらジャカジャカ言いながら踊り出すハッピー。私は特にリアクションせずそれを見る。
「ジャカジャカジャン! 私とカレンちゃん! あんま触れ合ってなくない? 問題を解決するためでーす!」
「……ん? ああ確かに」
言われて初めて意識した。そういえば私、あんまりハッピーと関わっていないのかもしれない。
いつもアムルとハッピーが起こす茶番を見ていたからハッピーの事はそれなりに知っているつもりだが、確かにあまり話したことがないかも。
「というわけで話題その一! お互いのことをもっと知りましょうのコーナー!」
いつのまにか取り出したフリップを見せ、大声で読み上げるハッピー。ちょっとうるさい。
「さあカレンちゃん! まずは質問してみてください! 私に!」
「……特に聞きたいこと無いかな」
「ぶぇえ!?」
驚いた顔で、そんな馬鹿なと言う顔で、私を目を丸くして見るハッピー。
正直ハッピーの事で知りたいことなんて無いし、興味もない。
なんか元気でうるさい子。その程度の認識でいいや、と私は思っている。
「何かしてくださいよ質問! しーつーもーんー!」
駄々をこねる子供のように、ジタバタと暴れ出すハッピー。
私はため息をついて、とりあえずパッと考えたことを口に出す。
「じゃあ好きな食べ物は?」
「ハンバーグです!」
「へえー……」
「……」
「……」
元気よく答えたハッピーは、私がテキトーな反応をすると残念そうな顔をして、ほんの少し目を鋭くして私を睨んでくる。
不満そうな、呆れているような、そんな顔。
「……カレンちゃん。私の好物がハンバーグだと聞いて、あなたはハッピーになりましたか?」
「……!」
すぐに察しがついた。これは、恐らくアムルが日頃受けている”ハッピーですか尋問”だ。
ハッピーのハッピー行為に対してテキトーな反応とか、残念そうな反応をすると始まる面倒くさい尋問。アムルが毎回うがああああと叫んでいるのが印象的だ。
「……うん。ハッピーだよ」
「……! そうですか! よかったです!」
でも私はアムルのような素直な子供ではない。ハッピーにはテキトーにハッピーになりました、と言っておけば割と簡単に逃れられる。
大人は嘘をつかないと生きていけないからしょうがない。大人だけじゃないだろうけど。
「それでは私からカレンちゃんに質問しますね! えっと……」
顎に人差し指を添えながら、あざとく首を傾げ、うーんと唸るハッピー。
時計の針の音が大きく聞こえるほどの静寂。数秒後、ハッピーが手をポンと叩き、私をじっと見て言った。
「カレンちゃんは……ハンバーグ、好きですか?」
「まあ……うん」
それなりに長い時間考えていたのに、割と単純な質問だった。
私はそれにテキトーに答える。ハンバーグはまあ、好きな方だし。
「良かったです! じゃあ次の質問! カレンちゃんは……まだ魔法少女なんですか?」
無邪気な笑顔を浮かべながら、首を傾げ、私をじっと見つめるハッピー。
そんな彼女を見て、私は少し笑みを浮かべ、肘を机の上に置き、頬に手を添えて、ハッピーを見ながら口を開く。
「……どう、答えて欲しいの?」
「だってカレンちゃん大人じゃないですか! 魔法少女じゃなくて、魔法女性、じゃないですか?」
「……そーかもね」
ハッピーの質問にまたもテキトーに答え、私は大きなあくびをする。
飽きた。もう、飽きた。
「さあカレンちゃん! 次は私に質問してください!」
目をキラキラさせながら、自らを指差して質問してしてアピールをしてくるハッピー。
私はため息をついて、テキトーに質問を考える。
「じゃあ、今何歳?」
ちなみに私の予想は十六歳。理由は何となく。
「えっと……二十三歳です!」
「……うそ」
予想外の答えが返ってきた。二十三歳? ハッピーが?
私とたったの二歳差だ。こんなにも無邪気で、子供らしいのに、すでに二十歳超え?
でもよく見れば、スタイルは確かに大人らしく見えるし、お肌も私より極端に若い印象は覚えない。綺麗ではあるが。
「ハッピーがまさか……私と二歳差だったとは」
思わず私は呟く。するとハッピーはニヤニヤしながら──
「お酒も飲めますよー? 今度一緒に飲まみしょうね? お姉ちゃん♪ なーんて」
「意外……」
私が小さな声で呟くと同時に、玄関の扉が勢いよく開いた。
「帰ってきたよカレンさん!」
大きな足音を立てながら、袋をシャカシャカ鳴らしながら、アムルは勢いよくこちらに向かってくる。
「変なことしてないよね!? ハッピー!」
「えっへへ……してませんよぉ?」
帰ってくるなりビービー騒ぎ出すアムル。
そういえば彼女は今、何歳なのだろうか。
「ねえねえアムルちゃん。アムルちゃんは今何歳なの?」
私が質問をすると、アムルはハッピーとの言い争いを止め、こちらに振り向いた。
「十六です!」
「……わっか」
思わずそう口に出してしまう私。ハッピーもそれを聞いて──
「若いですねえ」
と、呟く。それを聞いたアムルはキョロキョロと私とハッピーを交互に見て首を傾げた。
「え? ん? 何の話なんですか?」
そんなアムルを見たた私とハッピーは目を合わせ、同時に笑う。
「若いねえ、ハッピーちゃん」
「ねえ、カレンちゃん」
「な、なんか仲良くなってません……!? 何した!? 何をしたの!?」
騒ぎ始めるアムルを見て、私とハッピーは再び目を合わせながら、小さな声で笑った。




