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2.しごと

 午前なのか、午後なのか、曖昧な外の明暗。私は布団から起き上がり、ゆっくりと身体を伸ばした。

 今日は仕事する日か、面倒くさいな、そう思いながら目を擦る。

 その辺に落ちていたクシを手に取り、申し訳程度に髪を整え、テキトーなシャツに着替え、鍵を手に取り、二回ほど戸締りを確認し、家を出る。

 目的の場所、つまり仕事場にゆっくりと歩いて向かう。面倒くさい、つまらない、くだらない、しょうもない、やらなくてはいけない、必要不可欠なこの時間、うざったらしい。

 私の家から数十分ほど歩いたところにある寂れた廃工場、私の職場はそこだ。

 辺りをテキトーに見渡しながら、早くも遅くないテキトーな歩き方で、テキトーな気持ちで向かう。

「……はあ、面倒くさいなあ」

 シャッターが閉まっているので、それを蹴り上げ、中へと入る。

 スイッチを入れて照明を付ける。中にはまだ誰もいない、シャッターが閉まっていたのだから当然だが。

 無駄に広い部屋、無駄なものがなくソファだけの部屋。私はソファに向かって歩き、倒れるようにそれに寝転ぶ。

「……ふう」

 一息ついて、ソファの下に手を伸ばし、そこにあるはずの物を探す。右、左、とテキトーに手を動かし、目当てのものを探し続ける。

「……あった」

 一瞬指先に触れたそれを掴み、勢いよくソファの下から取り出す。ホコリだらけなのでテキトーにパンパンソファに叩きつけ、雑にホコリを取り払った。

 目当てのもの、それは私の愛読書「お前の耳元で囁いてやるよ〜ツンデレ上司に世界最強の大魔王にされた私は世界を滅ぼしつつ地球を征服し全世界のショタを褐色半袖短パン男子にすることにしました〜」だ。

 何が面白いのかよくわかってないけれど、テンポ良く読めてそれなりに笑えるから大好きなのだ。

「よお〜カレン、来たぜぇ〜」

「……来るなよ」

「なんでぇ!?」

 一ページ目を開いたその瞬間、いつもの野郎が来た。タイミングが最悪すぎる。

 髪型モヒカン、無駄にでかい黒サングラス、上半身裸、下半身はダメージ受けすぎジーンズ。いつも同じ格好をしている。

 名前は何だったか忘れたけど、とりあえずウチの常連の人だ。

「今日はほら、三袋だけだぜ。へっへっへ」

 生臭い、大きなゴミ袋を三つ右手に持って笑う男。めっちゃくっちゃ臭い。

「そこ置いて金払ってとっとと出ていって。今からこれ読むんだから」

「……俺、客だよな?」

「だから?」

「……もうちょいこう、接客をだな。して欲しいかな……って」

「ふっ」

「鼻で笑うなよ!?」

 男はほんの少し不機嫌そうに、ゴミ袋をその辺に投げ捨て、ポケットから金を取り出し私に向かって投げる。

 私はそれを片手で全て受け取り、ソファの下に置いてある箱の中に入れた。

「ったく! そんな接客じゃあそのうち客いなくなんぞ!」

「ばーか、需要があるから居なくならねえよ」

 ぶつぶつ文句を言いながら去っていく男。私はそんな彼を一眼も見ずに、本の続きに集中し始める。

 今日はどれくらい集まるかな、そんなことを思いながら私は本の世界に入り込み始めていた。

「……あ、鼻栓付けとかなきゃ」



「午後十一時半……店じまいかな」

 あくびをしながら、私はソファの上で起き上がりながらそう言った。

 今日だけで何回読んだかわからない本を閉じ、ソファの下へ投げ入れ、そのままソファから降りる。

「どれどれ……うーん? 八千袋くらいかな」

 ソファのすぐ近くに大量に置かれたゴミ袋を見ながら、私は一人呟く。

 私の仕事はゴミ収集、とは言っても自分からは集めに行かない。持ってきてもらうゴミ回収業者だ。

 この街にはゴミ収集車は無いし、そもゴミ処理場が無い。だから家も外も店もどこもゴミだらけで困る。じゃあどうするか? 私が集めて処理すればいい。

 何故なら私は、魔法少女なのだから。

(まあ、集めるの面倒くさいから持ってきてもらうんだけど)

 私はポケットに入れておいた指輪を指に通し、大量のゴミ袋に手のひらを向ける。

「カレン、スーパーウルトラハイパーミラクルロマンチックビーム」

 そうボソっと呟くと、私の手のひらからとんでもなく凄いビームが発射され、ゴミ山が一瞬で消え去った。

「一日中寝っ転がって、最後にビーム発射すれば暮らしていけるこの仕事……最高だな」

 ゴミ袋が一つも残っていないことを確認し、私は照明を消してから部屋を出る。

 シャッターを勢いよく下ろし、一応鍵をかけてからその場を離れた。

 家に帰ったらとっとと寝よう、そう思いながら私は帰路に着いた。

(……ちょっと臭いからお風呂入ってからにしよ)



 少し強い風が吹く夜。廃工場の上に立つ人影が、徒爾カレンを見ていた。

 人影は顎に人差し指を当て、徒爾カレンを見ながら呟く。

「流石は……あのカレンさんね。あんなビーム撃てるのは彼女しかいないもの」

 ニヤリ、と笑う人影。もう一度強い風が吹くと、それは消えていた。

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