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15.んー? そーねー

 バケモノとハッピーが睨み合っている。ハッピーを睨みながらアムルが私に抱きついている。

「ハピィ……!」

「ムギョー……!」

「むぅぅ……!」

 最初に動いたのはバケモノ。目の前にいるハッピー目掛け襲いかかる。

 細い腕を勢いよく鞭のようにしならせるバケモノ。ハッピーはそれを既のところで避けた。

「はっやい!?」

 バケモノが追撃する。アクロバティックに全身を動かし、ハッピーを追いかける。

 左、右、左、右、上、上、下、下。激しい猛攻を避け続ける。ハッピー。

 避けるので精一杯なのか、ハッピーから攻撃を仕掛ける事はない。

「つ、強い強い!」

 ハッピーの頬を冷や汗が伝う。バケモノが力強く拳を地面に叩きつけようとするのを避け、瞬時にこちらまでやってくる。

 バケモノまでこちらに来るのではと危惧したが、地面に突き刺さった自らの拳を引っこ抜こうと必死になっていた。ほんの少しだけ時間を稼ぐために、ハッピーはバケモノの動きを上手く誘導していたらしい。

 時間を稼ぎこちらにやってきたハッピー、笑顔でアムルにサムズアップしながら言う。

「アムルちゃん手伝ってください! 思ってたより強いんですよ!」

「……や」

 蔑むような顔でハッピーを見て、アムルはプイッと顔を逸らした。

 それを見て絶望的な顔をするハッピー。口が見たこともないくらい縦に開いている。

「手伝ってあげれば? アムルちゃん」

 ハッピーは意外にも苦戦していそうだし、二人でやった方が早く終わるだろうし、私はアムルに共闘を提案した。

 不満そうな顔で私を見ながら、ため息をついて抱きついていた両手を離した。

「……カレンさんがそう言うなら」

 私から離れたアムルはアキレス腱を伸ばし、背中を伸ばし、身体全体を伸ばした。

 アムルが臨戦態勢に入る。その瞬間、バケモノがこちらに気付き、叫び声を上げる。

「ムギョー!」

「この程度……私一人で十分」

 私──何故かハッピーも──はアムルと距離を取る。戦いに巻き込まれるのは面倒だから。

 バケモノが勢いよく地面を蹴り、瞬時にアムルの懐へと現れる。勢いそのままに拳を握り細い腕を彼女の顔目掛け突き上げる。

 アムルはその拳が顔に当たる寸前で避け、拳を握りしめ逆にバケモノの顔面に打ち込む。

 そのままバケモノを顔から地面に叩きつけ、呪文のような言葉をぶつぶつ呟き、真っ黒なステッキを空中に作り出した。

 ステッキは細い持ち手と先端についている黒いダイヤのようなもので出来ている。アムルは空中に浮かんでいるステッキを手に取り、再びぶつぶつ呟き始めた。

「これが私の必殺! アムルウルト──」

 アムルが必殺技を叫ぼうとしたその瞬間、急にバケモノは飛び上がり、右足を突き出しながら蹴りをアムルに向かって放った。

「あわわ……!」

 慌ててそれを避けるアムル。形勢逆転、バケモノの猛攻が始まる。

 蜘蛛のような足による猛攻、ワニのような顔で襲ってくる噛みつき攻撃、それらと比べたら派手ではない人間の腕で行われる空手のような動き。

「えっと! えっと! えっと!」

 かなり焦りながらステッキを使いながら攻撃を避けたり、受け流したりするアムル。だが、先程までのハッピー同様、己の身を守ることしか出来ていない。

「ここで登場ハッピーキィィッック!」

 すると突然、ハッピーが現れてバケモノの背中に思いっきり蹴りを入れた。

 すこしふらつき、前のめりになるバケモノ。ハッピーはバケモノの背中を足場にして飛び上がり、くるくると回りながらアムルの隣に降り立った。

「さあやりましょうアムルちゃん! 初めての共同作業ですね!」

「……私、初めてはカレンさんって決めてるんだけど」

「えぇ……」

 ハッピーが残念そうな顔をすると同時にバケモノが体勢を戻し、大きな鳴き声を上げ、ハッピーに襲いかかる。

 バケモノの攻撃をハッピーが受け止める。そして大きな声で──

「今ですアムルちゃん! さっきの必殺技をやっちゃってください!」

「ハッピーがんばれー」

「なんでカレンさんに抱きついてるんですか!?」

 隣には既にアムルがいない事に気づかなかったハッピーは、指示を出したはずなのに共に戦ってくれないアムルに驚いていた。

 ハッピーはその場から離れようとするが、バケモノがそれを許さない。圧倒的な手数でハッピーを追い詰めていく。

 防戦一方。ハッピーはいつもの余裕な感じを出さず、声も出さずに必死に己の身を守っていた。

「……もう! 何やってるのハッピー!」

 心配になったのか、痺れを切らしたのか。アムルは私から離れ、ステッキを再び手に取り、ぶつぶつ呟き始める。

「必殺! アムルウルトラビーム!」

 アムルが必殺技を叫ぶ。すると、ステッキの先端から細く素早い光線が複数放たれた。

 放たれたそれにバケモノは気づくと、巨大に見合わず華麗な動きで余裕を持って避ける。

「ハピィ!?」

「あ、当たっちゃった……」

 バケモノ目掛け放たれたビームは、本来の的を外れ、助けるために放った相手に当たる。情けない悲鳴を上げ真っ黒こげになるハッピー。珍しく怒った顔でアムルを睨みつける。

「……えと、ごめんね?」

「今日、一緒にお風呂の刑ですから!」

「やだー!」

 見た目よりは余裕がありそうなハッピーと、本気で嫌そうな悲鳴を上げるアムル。

(……思っていたよりも、戦いが長い)

 私は思わずあくびをしてしまう。もう少しこう、サクッとお手軽に倒せそうな感じはするのだが。

 仕方がないか、早く帰りたいしね。

 私はなんとか自分が戦う理由を見つけ、ポケットの中に入っている指輪を指に嵌める。

「ん? カレン……さん?」

 私の変化に気づいたのか、気づいてはおらず違和感を感じただけなのか。私に抱きついていたアムルが首を傾げる。

 私はそんな彼女の頭をポンポン叩き、優しく引き離した。

 それと同時に地面を蹴り、全速力でバケモノの元へと向かう。

「ハピ……!?」

 突然目の前に現れた私に驚いたのか、高い鳴き声を出すハッピー。

 彼女を襲う蜘蛛の足攻撃を片手で受け止め、そのまま力強く握り、勢いよく引っ張り千切る。

「ムギョー!?」

 バケモノが悲鳴を上げる。奴の攻撃が収まったその瞬間を逃さず、そのまま顔面を左手を広げ鷲掴み、離さずそのまま地面に叩きつけた。

「ムギョー!」

 ブチギレ状態のバケモノは意外にも素早く立ち上がり、私へ攻撃を仕掛けてくる。

 右腕の拳を避け、複数の足による蹴りを右足で捌き、噛みついきたワニの顔は避けると同時に空いていた右手で鼻の穴に指をツッコミ、顎を指で持ち上げながら強制的に口を閉じる。

 そのまま暇になっている左足でバケモノの腹を穿つ。流石に穴は開かなかったが、大きく凹んだ。

 口を閉じられているせいで悲鳴を上げられないバケモノ。足に力が入っていないし、多分痛みで動けないだろうと推測し、私は奴から離れる。

 なんとなく腹部を思いっきり蹴り、その後バケモノに向け手のひらを向け──

「カレンビーム」

 いつものやつを発射して、バケモノを消滅させた。

「はぁ……じゃあ行こうか、アムルちゃん。ハッピー」

「……アムルちゃん。カレンさんってやっぱり、あのカレンさんなんですね」

「んー? そーねー」

(なんか久しぶりに運動したかも……)

 乱れた髪がこそばゆく、テキトーに髪型を整える。

(髪切ろうかな? でもずっと長くしてたしなぁ……)

「カーレーンさーん! ラブ! デカラブ!」

「うぎぃ……!」

 突然、後ろから抱きつかれた。この声、この力、このノリ、この接し方、この抱きつき方、この非言語コミュニケーション。

 私がゆっくりと振り返ると、キラキラした目で、やはりアムルが私に抱きついてきていた。

「えへ……!」

 上目遣いで笑顔を見せるアムル。可愛いけど、よくわかんない。

 アムルにばかり目がいっていたが、よく見たら奥の方でポカーンと、ハッピーがこちらを見ていた。

 私は手招きしながら、彼女を呼ぶ。

「……ほら、ハッピーも行くよ」

「はーい……じゃなくて、ハッピー」

(別に言い直さなくてもよくない……?)

 とりあえず疲れた。ハッピーには悪いけど、街案内はここで終わりにして、しれっと家路につこう。

 抱きついてるアムルの足を引きずりながら、私とハッピーは歩き始めた。

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