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14.えへへ

「アムルちゃん! 見てくださいあの建物! 倒壊寸前崩壊寸前末期中の末期ですよ!」

「はいはいよかったね……はぁ……」

「ん? ノーハッピーですか? ゆーあーノーハッピー?」

「違いますー、カレンさんいるからハッピーですぅー、ばーかばーか!」

「しかし今のため息は辛く苦しく悩みありげな重いため息でした……」

「……はぁ」

「ほら今ため息ついた! ノーハッピーですよねそのため息!」

「カレンさんいるからハッピーだって言ってんでしょ!」

「いえ……きっとアムルちゃんにはカレンさんだけでは満たせない不満が……」

「無いから。こうやって抱きついて歩いてるだけで私幸せだから」

「では何故……ため息を?」

「……あなたが鬱陶しいから」

「違いますねそれは。私は人をハッピーにさせる存在、故に真逆である不幸不満は与えない魔法少女なんです。アムルちゃん、私たちは友達です! 信用できる仲間なんです! 恥ずかしがらないで言ってみてください……なんでそんなため息を……」

「うぅ……カレンさん助けて!」

(痛い痛い痛い痛い痛い……)

 涙目でアムルが右腕に力強く抱きついてくる。魔法少女だからか否かは不明だが、骨が折れるか心配になるくらいの力で、ポニーテールを揺らしながら抱きついてくる。

 暑くも寒くもない昼過ぎ、私はアムルとハッピーを連れて散歩をしていた。

 もちろん私の発案ではない。ハッピーの発案だ。

 彼女は私はまだこの街に詳しくないから、と私に案内を頼んできた。

 面倒臭いと断ろうとしたが、ならばハッピーを超えた超ハッピー状態にしてやると脅されたので仕方なく引き受けた。

 アムルが居るのは一人で寂しいのと、私と一緒に居たいという理由だそう。ハッピーに比べて甘えてくるので相対的に可愛く見えてくる。ものすごく右腕が痛いから連れてこなければよかった、と思っているけれど。

「ノーハッピーはいませんかー!? ノーハッピーはいませんかあああ!?」

「なるべく静かにねーハッピー」

 わけわからない事を大声で叫びながら歩くハッピーを抑制し、私たちは歩き続ける。

 街を案内すると言っても、正直この街には本当に何もない。

 飲食店とか雑貨屋はあのデパートに全部集まっているし、それ以外の建物は軒並みボロボロの住宅だ。

 時折やばい顔をしたおっさんや、項垂れた女性を見かけるが、それ以外に特に目に入るようなものはない。

「カレンさん……もう帰りません? 何もないですよこの街」

「そうね……帰る?」

 アムルが死んだ顔で私に提案してきた。彼女の言う通り、もう帰った方がいいと思う。

「ダメですよアムルちゃん! 見た目はボロボロ……でも! その内側には想像できないほど綺麗な何かがあるかもしれないじゃないですか!」

「絶対……無い!」

「何故そう言い切れるんですか? アムルちゃん、それはアンチハッピーな考え方です。どれもこれも己の幸せに繋がらないと考えていては、自分に訪れるハッピーから遠ざかってしまうんですよ?」

「……もう、や」

 右腕に抱きついていてアムルちゃんはその手を離し、今度は全身に右側から抱きついてきた。

 先ほどとは違い、弱々しく私を抱きしめるアムル。相当ハッピーに精神をやられているみたいだった。

「カレンさんと二人っきりならいいのに……ぐす……」

 鼻を啜りながらそう言うアムル。私は彼女の頭を撫でてあげる。

 正直、確かにハッピーと話すのは面倒くさそうだが、泣くほどかな、とは思う。

 けれど実際アムルは泣いちゃってるし、それを見過ごせるほど私は人間として終わっていない。と思う。

 だから頭を撫でる。何も言わずに、ひたすら。

「……えへへ」

 まだ少しだけ目に涙を浮かべているが、アムルに笑顔が戻ってくる。

(チョロい……)

「アムルちゃんってチョロいんですね……」

「……うっさい。私がチョロいのはカレンさんにだけだから」

 頬を膨らませながら、ハッピーを睨みつけるアムル。

 プルプル震え始めたので、私はほんの少しだけ、撫でるスピードを上げた。

「見てくださいアムルちゃん! カレンさん! やっべぇの居ますよ!」

 突然、ハッピーが大はしゃぎで何かを見つけたように言う。

 私に抱きついているアムルは首を傾げながら問う。

「……自己紹介?」

 あえてそれにはツッコまず、ハッピーの指差す方を見た。

 そこに居たのは──

(……久しぶりに見たな)

 頭はゆるキャラのようなワニ、身体は細い女性モデルのようで、足だけ蜘蛛。

 誰が見てもわかる通りの化け物だ。この世界には時折、こう言う露骨な化け物が現れる。

 自然に生まれたのか人工的に作られているのか不明だが、とりあえずわかっていることは──

「ムギョー!」

「おっとっと! ハッピー回避! ハピ!」

 あの化け物は軒並み、人を襲う習性があると言うことだけだ。

「ふふふ……化け物さん。私は魔法少女ハッピーですよ?」

 ハッピーが不敵に笑う。それと同時に彼女はどこからともなく取り出した指輪を嵌め、変身。

 身体全体が真っ白な光に包まれ、それが弾け飛ぶとハッピーの服装と髪型が変わっていた。

 ウェディングドレスを思わせるような上品な白のドレスに、高い位置で纏められたポニーテール。まるで別人のように見える。

「あー! 私の髪型と被ったー!」

 アムルが悲鳴にも似た声を出し、私から離れ、彼女も指輪を嵌める。

 するとアムルはハッピーとは対照的に、真っ黒な光に包まれた。当然、その光が弾け飛ぶと彼女の見た目は変わっていた。初めて彼女に会った時の姿そのものに。

「今日はツインテじゃなくてポニテの気分だったのに……!」

 小さい声で怒りの声を上げながら、変身を終えたアムルは私に抱きついてきた。

(……あれ? ハッピーと一緒に戦うんじゃないの?)

 疑問を口には出さず、私はなんとなく首を傾げた。

「ムギョー……!」

「ハピー……!」

「むうぅ……!」

 三者三様、それぞれが鳴き声にも似た声を出す。

 戦いの火蓋が切られようとしていた──

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