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1.カレンちゃんとーじょー

 晴天、快晴、良いお天気。

 賑やかな人々の駄弁り、時折辺りを彷徨く小さな虫、勢いがあったりなかったりする車たち。

(いつも通りの通学路だなー……)

 現在時刻午前七時半、私と同じ中学生の皆々様が、私と同じ場所を目指して登校している。

 私と同じ道を、私と同じ年齢の子たちが、私と同じ時間に、私と同じようなことを思いながら、私と同じ中学校へと向かっているのだ。

 今日の授業嫌だな、とか。早くあの人と会ってあの話題で喋りたい、とか。宿題忘れた、とか。朝練無くてラッキー、とか。

 兎にも角にもなんだかんだで色々考えながら、されど頭を回していると認識はせずに、毎日同じように違うことを考えながら歩いている。

 私たち中学生はみんなそうだ。

(……いや、私だけか?)

 そんなどうでもいい事を考えながら歩く、歩き続ける。

「きゃー! 変なバケモノみたいなのがいるー!」

「……へ?」

 突然、甲高い女性の悲鳴が聞こえた。

 辺りがざわつく、どこだどこだと首を動かす。私も周りの人同様キョロキョロし始める。

「もにょにょにょ〜!」

「バケモノー!」

(後ろか!)

 ようやく声の出自がわかった。私は右足を軸に、勢いよく半回転して、少しカッコつけながら後ろへ振り向く。

 そこにいたのは私と同じ制服を着た女の子と、全身真っ黒でほんの少し筋肉質な体型、茶色い触手がたくさん生えていてそれでいて何故か顔がゆるキャラのクマみたいなプリティーフェイスを持つバケモノがいた。

「変なバケモノみたいなのだ……!」

 助けなきゃ、私はそう思い急いで人気のない場所を探す。

 けれどここは普通の歩道、しかも不審者の出にくい見晴らしのいい道路。割とそこら辺に人がいる。

 仕方なく私は全力ダッシュ。路地裏っぽい所を求め走り出す。

(ぜ、全然無い……仕方ない!)

 私はすぐ近くにあったコンビニに、トイレ借りますと言いながら入り、瞬時に個室トイレへと向かう。

 勢いよく、けれど丁寧に扉を開閉。荷物を荷物掛けに投げ、ポケットから小さな指輪を取り出す。

「変身……!」

 小さくも、力強くそう呟き、それと同時に私は指輪を嵌める。

 すると、ピンク色の光が私を包み始めた。

 そして、なんかわーとなって、ひゃーっとなったら、変身完了。

 ピンク色のフリフリドレスが似合う、王道魔法使いの誕生だ。

「人の目なんて枝葉末節、中途半端な年齢の魔法少女カレン、登場」

 外に聞こえないよう呟き、狭いトイレなので壁に当たらないよう気をつけながらポーズを決めた。

 そう、私は実は、この世界の平和を守る魔法少女なのだ。いえい。

 ポーズを決め終えた私は荷物を手に取り、誰にも見られないよう全力を出して、凄まじいスピードでトイレとコンビニを出た。

 勢いそのままに、私はバケモノが現れた場所へと向かう。

「ひー! バケモノー! バケモノー!」

「もにょにょ〜」

「ま、間に合った……!」

 かなり急いだおかげか、女の子は傷ひとつなく無事だ。

 バケモノと少女の周りには意外なことに人だらけ。バケモノ騒ぎでみんな逃げ出すと思っていたのに何故か野次馬が多い。あのバケモノが怖くないのだろうか。

 ていうか私が変身している間、みんな見ているだけだったのか。

 人間の愚かさがちょっと見えた気がする。

「もにょ〜もにょ〜」

「ひー! ひー!」

(あのバケモノ……女の子襲わずに威嚇してばっか)

 とりあえず私は、拳を強く握り締め、バケモノ目掛け地面を蹴って走り出す。

「もにょ〜?」

「魔法少女カレン奥義、カレンパンチ!」

 バケモノが私に気づいたその瞬間、間髪入れずに思いっきり拳を打ち込む。

 効果は抜群、バケモノの顔が少し凹み、体勢を崩す。

 勢いそのままに私は地面に瞬時に降り立ち、バケモノの足を脚で薙ぎ払い、地面に倒した。

「もにょ〜!」

「させないって!」

 変な鳴き声と共に奴が立ち上がろうとする。私は瞬時に奴に馬乗り、そして両の拳にそれぞれ思いっきり力を込め、顔面目掛け振るう。

「魔法少女パンチ! 魔法少女パンチ!」

「もにょ! もにょ! もにょ! もにょ!」

 薄紫色の液体を吐き出しながら、変な鳴き声を出しながら、徐々に弱っていくバケモノ。

 もう動けないだろう、そう判断し私は奴から降りた。

「おー、魔法少女が勝ったっぽいぞー」

「たまには魔法使え〜」

「汗くさ〜い」

(うるさいなあもう……)

 民衆の野次を聞き流し、私はテキトーに手を振ってその場で飛び上がり、元いた場所を離れる。

 テキトーに屋根の上を歩きながら、誰も見てなさそうなタイミングで変身を解いた。

「……学校行かなきゃ」

 すぐに屋根から飛び降り、私は駆け足でいつもの通学路へと戻った。





(……ん?)

 目が覚めた。どうやら私は寝ていたらしい。

(……中学生の頃の夢見るなんて、珍しい。10年前くらいかな……私が中学生だったのって)

 乱れた髪を掻きながら、ゆっくりと私は起き上がる。

 絶妙に薄暗く、中心部に大きなベッドが一つ、そしてタバコ臭い、人によっては嫌な部屋。

 そんな部屋に私は、徒爾カレンは名前も知らぬ男と裸でベッドに横たわっていた。

「あ、起きた?」

 同時に起きたのか、ずっと起きていたのか、私の目が覚めたことに気づいた男が話しかけてくる。

「……寝てたんだね、私」

「いやー……よかったねぇ。久しぶりに心から気持ちいいと思えたよ。俺と君、身体の相性良いんじゃない?」

 タバコ片手にニヤつきながら男は言う。私は心の中だけでため息をつき、小さな声で呟いた。

「そうかもね……」

「特に二回戦目のアレは痺れたなあ。あんなの初めてだったよ!」

 男のくだらない喋りは止まらない。私の返事や反応などどうでもよく、自分の喋りたいことを自分の好きなように喋っているようだ。

 私は、ちゃんと彼に聞こえるようにため息をつき、それと同時に立ち上がった。

「私、ピロートークは好きじゃないの。シャワー浴びて帰るね」

「ふーん……はいはいおつかれさーん」

 財布を手に取り、脱ぎ捨てられた下着を回収。そのままシャワールームへ向かう。

 脱衣室に着いたら下着をその辺に投げ捨て、扉を開けシャワールームに入室。ボタンを押してシャワーを出し、テキトーに浴びる。

 男の汗、唾液、性液を洗い流し、備え付けのシャンプーとボディーソープで自らを清める。

 ビチョビチョのままシャワールームを出て、備え付けのタオルを目もくれず手に取り、これまたテキトーに身体を拭う。

 ある程度水滴を拭き取れたら、先程投げ捨てた下着を回収し着用。一応カゴに入れておいた私服にも着替え、財布片手に脱衣室を出る。

 男は変わらずタバコを吸っていた。私は彼に目を合わせずテキトーに手を振って、部屋を出た。

 廊下を歩き、階段を降りて、施設から外へ。

 太陽が眩しく、当然だが冷房が効いていないので暑い。

 私はため息をつきながら、自宅へと向かい歩き始めた。

 今日はこれから何をしようか、明日は何をしようか、ていうか家帰ってから何をしようか、色々と考えながら歩き続ける。

 寝るのも良し、テキトーに本を読むのも良し、なんかゴロゴロするだけなのも良し。

 どうせしょうもないくだらないつまらないしがない意味がない人生なのだ。テキトーに過ごしてテキトーに生きてテキトーに死ぬのに限る。

(……それにしても、廃墟みたいな建物ばかりで汚いなあこの街)

 何も考えることが無くなり、いつも感じているどうでもいい感想を敢えて、言ってみたりする。

 私が住んでいるこの街は最低な街だ。建物は全部ボロボロ、住人は私含めどいつもこいつもロクでなし。死人は毎日たくさん出てくるし、バケモノもよく現れて暴れている。

 それではなぜ、こんな最低だと自ら答える街にに住んでいるのか? そう問われたなら私はこう答えるだろう。

 なんとなく、と。

「べぎょろんばー、べぎょろんばー」

「……ああ?」

 テキトーに道を歩いていると、シンプルに気持ち悪い鳴き声が聞こえてきた。

 鳴き声のした方へ視線を向けると、そこには鳴き声よろしく気持ち悪い見た目のバケモノ。

 オウムを極限まで醜くしたような顔に、縞縞模様が可愛らしい猫みたいな身体、そして蚊みたいな足とセミみたいな羽。

「べぎょろんばー」

「……なに? 喧嘩売ってんの?」

 バケモノは私に気づいたらしく、じっとこちらを見つめてくる。

 何も言わず、一歩も動かず、視線をずらさず、私をじっと見つめてくる。

「……うざっ」

 私はポケットに手を突っ込み、中に入っている小さな指輪を薬指に嵌める。

 その瞬間、一瞬だけ身体全体が光った。

 衣装とかは変わってないし、顔も体型も変わっていない。単純に光っただけだ。

 ただ、身体能力だけは格段に上がっている。

 私は軽く一歩踏みだす、と同時にバケモノの目の前に到着。そのまま何も言わず、奴の大きな腹を思いっきり右足で蹴り込んだ。

 バケモノが腹を抑えながら前のめりになる。奴の苦しそうな顔を一目見て、私はその表情を作り出した顔を思いっきり左手で掴み、そのまま地面に叩きつける。

「べぎょー!」

 大きな悲鳴を上げるバケモノ。私は地面に倒れた彼に手のひらを向け、力を込めた。

「カレンビーム」

 私がそう呟くと同時に、真っ黒な形容し難いビーム的な何かが手のひらから放出される。

 やがてそれはバケモノの身体を覆い、ゆっくりと奴の身体を消し去った。

「……なんか臭い」

 バケモノが元いた場所には真っ黒な謎の液体が水溜まりを作っていた。恐らく、そこから嫌な匂いがするのだろう。

 奴らを倒すといつもそんな感じだ。生ゴミの入ったゴミ袋の五倍くらい臭い。

「……家帰ったら何食べよっかな」

 私はその場からすぐに離れ、ゆったりとした歩きでいつもの帰路に戻った。

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