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異世界転移で知識無双できなかった

作者: 鬼らしく

 ある程度勉強して大学を出た田中六郎は就活に悩んでいた。

 これから社会人として社会を生き抜かなくてはならない。親の庇護から離れて独り立ちし、生活をしていく。

 ごく当たり前のことだが、今後定年までひたすら働き続けなければならないということを考えると大人としての一歩を踏み出すことにワクワクするというより、ため息しか出ない。

 

「40年近く働くのか……はぁ、そう考えるとうちの親はすげぇな……どうやったらそんな長い期間働けるんだよ」

 思わず独り言が漏れてしまう。ましてや不景気からずっと脱却できずにいる日本である。政治もグダグダでアホな老人どもが権力を握り、10年後の未来のことなんて考えず既得権益に拘り税金を取ることしか脳のない政治家どもだ。


 老人を馬鹿にするわけではないが日本を動かす政治家の中でも権力をもっている年齢が60歳から80歳の国なんて世界を見渡してもそんなにあるわけではない。

 

 未来に希望が持てず、自分は寿命まで生き残ること出来るのかと不安と疑問でいっぱいだ。一応将来に備えてそれなりのスキルと資格は獲得した。


 スキルに関しては英会話を学び、いざという時に日本から離れられるように準備を整え、資格に関しては車の免許を取ったと同時にフォークリフトの免許なども取得した。不動産関連の資格も手に入れたし、公認会計士は無理だったが税理士の資格もとった。

 他にも大小様々な資格や知識を手に入れて、あとは実務経験さえ手に入れれば食うに困ることはないだろうと大学在籍中に頑張ったのだ。


 一流企業などの面接も受けたし、ベンチャー企業やスタートアップ事業で人手を欲しがっている会社などの面接も受けた。

 いくつかの会社から好感触の手応えを感じて就職浪人することはないだろうと一先ず安堵して、パソコンで経済状況など見ながらいつのまにか寝てしまっていた。


 ふと、寒気を感じて六郎は目を覚ました。


「どこだよここ……」


 あたり一面を見回すと木々に囲まれていた。背の高い木が日差しを遮り、鳥の鳴き声などがそこかしこから聞こえてくる。


「……どゆこと? 酒は飲んでないよな。夢遊病なんてなかったし」

 とりあえずポケットを確認するとスマホがありアプリを開き現在地を確認しようとしたが、電波がなく困惑する。


「えぇ……なにこれ……」

 状況がわからず困惑し、周りを見渡すがやはりジャングルである。


「誰かいませんかーーー!!」

 とりあえず大声を出すが、その声の響きは木々に吸い込まれ消えていく。


「誰かいますかーーーー!!」

 もう一度大きな声を出すが、やはり反応はない。


「どうしようか……」

 遭難した時の鉄則はその場から動かないことだが、はたしてその鉄則は現在の状況で通用するのか甚だ疑問である。


 大きなため息と共にとりあえず空を見上げる太陽の位置で方角がわかるかなーとなんとなくではあるが、さすがにそんなスキルは身につけていない。


 と、そこへ何かの気配を感じ、目を向ける。

 木々の間から出てきたのはAIで作り込まれたかのようなビジュアルをもつ長身の女性であった。


「あ……」

 いきなり現れた絶世の美女とも言える相手に思わず言葉を失う。


「何も言わなくてもわかってますよ。えーとどちらの国から来られました? 見た感じアジア圏の方と見受けますけど。あ、日本語でいいのかな? 北京語のほうがわかるかな?」

 いきなりまくしたてられ、脳内の処理が追いつかない。

「おーい? 聞いてます? 日本語じゃないほうが良かったかな?」

「あ、いえ日本人です。はい」


 脳が起動をしたのか、なんとか受け答えすることが出来たが、混乱はやはりまだ治らない。


「よかった。まあ日本からが多いから一応日本語で話しかけてみたけど正解だったね」

「えっと」

「説明するのめんどくさいけど、一応説明するね。ここは異世界。あなたが住んでいた地球とは別世界だよ。よーするに異世界転移ってやつね。ほらあたしの耳、見覚えない?」

 そういうと美女は美しいブランドの髪をかきあげ耳を見せる。


「エルフ……」

「うんうん、あなたの世界ではそう呼ばれてるみたいね」

「えっとまって、脳の処理が追いつかない……」

「いいよ、ゆっくり落ち着いて考えて最初はそんなものだから」

 そういわれて六郎は冷静になるように努めて、今まで言われたことを反芻する。

 ゆっくりと一つ一つ。


 そうしてしばらく時間をかけてようやく脳の処理が追いついた。


「とりあえず理解はできたよ。なんで俺は転移したの?」

「さあ? あたしに聞かれてもわからないわよ。あなたの国にある神隠しってよくあるじゃない? そういうのに巻き込まれたんじゃない?」

「日本語もそうだけど、なんでそんなに詳しいの?」

「だってあなたが初めてじゃないしね」

 あっけらかんとエルフの美女は言う。


「え?」


「あなたの国から色々転移したり、転生したりしてる人多くてねー。あ、正確にはあなたの星からといったほうが正解かな」


「ふぁーー??」

 新たな情報に再び脳が混乱する。


「まあそういうことね」

 再び時間を置きようやく飲み込む。


「はぁ、まあ転移したのは仕方ないかー。こう言う場合なんかすごい力とか貰えてそうだし」

「え? あるわけないじゃんそんなの」

 あっさりと否定される。


「いやだってここって地球にはいないモンスターとかうじゃうじゃしてるんでしょ? そう言う力ないと詰むじゃん?」

「まあ努力したら得られるかもだけど、都合よくいきなり手に入るわけないでしょ?バカなの?」

 痛烈な言葉に思わずショックを受ける。


「じゃ、じゃあほら地球の知識で無双とか!」


「あたしの説明聞いてた? あなたが初めてじゃないんだよ? そもそも無双できるほど知識あるの? スマホの作り方とかわかるの? パソコンをゼロからあたし達の村にある資源を使って作り出せるの? 農耕の知識は?」


 エルフの口からスマホだのパソコンだのという単語が飛び出したよ。このほんとに異世界なの? この子コスプレしてるだけなんじゃないの? 思わず心の中でツッコミを入れる。


「い、いや、じゃあほら政治とかさ」

「あのね、あたしの村にはすでに何人もいるの? その中には劉秀や李世民、などがいるわよ」

「はぁーーーー!?」


 驚愕の事実に思わず叫んでしまう。

 劉秀とは中華の歴史において史上最高の皇帝と言われた人物である。光武帝とも呼ばれておりわかりやすく言うと三国志で有名な後漢を作り上げた皇帝だ。

 

 一度滅びそうになった国を建て直し、その後の治世においても飛び抜けた力で国を治め、戦略及び政治において力を発揮した皇帝である。


 この劉秀のすごいところは優秀な部下はいたが、劉秀が凄すぎて他の部下が全く目立つことなく、ほぼ全て劉秀の優秀さで歴史に名を残したことであろう。

 長い中華の歴史において素晴らしい功績を残した皇帝はたくさんいるがその中でも最高の皇帝と評価されている人物である。


 また李世民も同じく中華の皇帝であり、唐の二代目の皇帝だ。唐を建国した父が亡くなり、そのあとを引き継いで貞観の治とよばれる安定した政治をもたらしたことで歴史にその名を残している。

 政治だけでなくこちらも文武両道で、戦いにおいては無類の強さを発揮する人物だ。

 劉秀と違うのは本人の優秀さはあるが部下もまた非常にレベルが高く、そうした人達を使いこなした人物である。

 

 要約すると頭がおかしいチートレベルの人物だ。


「まあ政治に関してはこの二人に任せておけば大丈夫よね。最近うち村、すごく豊かになってさ他のところから狙われているのよね。あ、でも前線指揮官としてはシモ・ヘイヘや島津豊久やレオニダスがいるし」


 レオニダスは古代スパルタの王でわずか300人で大軍を撃退した猛者である。数万の軍勢を相手に奮闘し自身も討ち死にしたが、この戦いでスパルタが討ち取った敵の兵は2万近くと言われている。

 もはや意味不明の数字だ。


 シモ・ヘイヘに関しては第二次世界大戦においてスナイパーとして活躍した兵士だ。殺傷した公式な人数は700人と言われているが実際はそれ以上とも言われている。

 第二次世界大戦のソ連の進行を阻み、ソ連はシモ・ヘイヘ一人を恐れフィンランドを諦めざるを得なかったとも言われてる人物だ。


 そして島津豊久は関ヶ原の戦いで有名な島津の退き口と言われている撤退戦で殿をつとめ、徳川四天王の一人に重傷をおわせ、見事に味方の撤退を成功させた猛者だ。この戦いで豊久は討ち死にしたが、その武力は群を抜いている。


「おいーーーー!?」

 次々と出てくるビックネームに六郎は叫ぶことしかできない。


「いざ戦いとなると総司令のハンニバルやアレクサンダーもいるからねぇ。あの癖の強い奴らをよくまとめてくれてるわよ。でもアレクは総司令の一人のくせに突っ込むのやめてほしいけど……」


「えーと……ほ、ほら科学知識で! これでも結構勉強してきたんだ!」


「え? あなた、ニコラ・テスラより頭いいの? それなら期待しちゃおうかな! レオナルドやアインシュタインや平賀源内とわけのわからないことばっかりいっててさ、あたし達には理解不能なのよね」


「勘弁してください……ってレオナルド?」


「うん、レオナルド・ダ・ヴィンチ。あなたの星の有名人だと思うけどしらない? どうしたの涙流して?」


「か、環境のことなら! ほら生態系とかさ!」

「ダーウィンやシートンがいるけど? なんか目を輝かせていろんな魔物を観察してるわよ?」

「数学!!」

「アルキメデスやフェルマーの会話理解できる? それなら……あ、でもフェルマーは生粋の数学者ってわけじゃないか……」

 

「あんたらこの世界で世界征服するつもりかよ!」



 いきなり異世界に放り出されて不安だった気持ちはもはやない。

 なんだこのチートの集まりはと思わず天を仰ぐ。


「いやねー、世界征服なんて。まあ色んな人が何故かあたしの村にあつまってるからさ、そうそうスマホに変わる新しい情報端末なんか出た? ニコラが嬉々として分析するわよ。もしそういうの持ってたらうちの村でだいぶ優遇されるけど」


「……ありません」


「あらら……ま、まあ、いまニコラ達が地球とこの世界を繋ぐ研究してるからそのうち帰れるわよ」


「帰ったところで、就職がだめになるじゃん!」

「んーまあ、ここの人たちから色々教わってから帰れば? あたしはよくわからないけどそういうのって向こうの世界で強みにならないの?」


 強みになりすぎるが、アインシュタインやニコラテスラから教わったといって向こうの世界で誰が信じるのか……ともかく、なんかもうどうでもいいやと言う心境になり彼女の村へと足を運ぶことにした。


 もうなんのためにこの世界に来たのかと心の中で涙を流す六郎であった。

 


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