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 3、思い出したくない過去って?

「え……えと、僕はその…まだ事態がーー」

 紅道萌の突然の問いに、僕は即応できずにもたついた。

 そこに、青野香澄が口を開く。

「ね、もう授業が始まる。教室に戻らないと、話しは放課後で」

「あーーあそこで倒れてる生徒は?」

 僕は気になって、ハサミムシだった男子生徒を指さした。博子先生が笑顔で答える。

「大丈夫、わたしが保健室に連れていくから」

 あ、なるほど。職権ですな。


 授業が始まる寸前で教室に戻った僕に、後ろを振り返った八木が睨む。

「おい、新平、お前どこ行ってたんだよ」

「いや、ちょっとーー」

 説明できるか。

「ほらそこ、喋るな!」

 教師の注意を受けて、僕たちは首をすくめた。

 授業が始まったが……僕の意識はそんな事に集中できる状態じゃなかった。

 だって、目の前で怪物が現れて、美少女二人が目の前で変身して戦ったんだぞ? こんな驚愕の事態あるか?


 けど、思い出してみると、彼女たちの変身後の姿は、特撮オタクの僕を昂ぶらせるのに十分な外観だった。…いや、せっかくの女性チームなら、もっと露出があっても良かったんじゃ? なんかがっちり手も脚も覆われてたな。フルフェイスじゃなかったから、口元と髪は見えてたけど。

 …ミトラスター、とか言ってたっけ。『光の戦使』って。うん、『光戦使団ミトラスターズ』ってとこか、いいじゃないか。え? それで、僕を何故だか知らないが、そこに勧誘してるわけだろ? 僕も変身して彼女たちと一緒に戦うわけか? おいおい参っちゃうな、男として頼られたらどうしよう!

 …そこまで考えて、僕のウキウキした気分は反転した。

“そうよ。ホント、痛いんだから”

 あの娘――紅道萌は言っていたな。痛い、って…

 痛み、という事とともに、僕に思い出したくもない記憶が甦ってきた。


   *  *


「おい、ナメた態度とってくれたな」

 一年前、そう言って僕を連れ出したのは、鬼沢剛という奴だった。普段から素行の良くない鬼沢には三人の仲間がいて、放課後に僕はその仲間に囲まれ、いや応なしに公園に連れてこられたのだった。

「別にナメたわけじゃない。…彼女が嫌がってると言っただけだ」

 僕の言葉を聞いて、鬼沢は細い目つきをさらに細くした。と、突然、僕の腹部に衝撃が加わった。

「うっ」

「それが余計だっつんだよっ!」

 近寄ってきた鬼沢が、いきなり僕にボディパンチをくわえたのだ。腹部に重い痛みが溜まり、僕はうずくまろうとした。が、その両脇を背後の仲間たちが支え、僕は無理に立たされた。


「ムカつくぜ、こいつの顔」

 鬼沢がそう言うと、心底、怒りに満ちた顔で僕の頬を殴った。

 顔が横に飛ばされる。殴られるって、こんな状態になって、こんな痛いものなのか?

 それから両手を拘束された僕を鬼沢は殴ったり蹴ったりし、倒れたところで今度は仲間たちも僕を蹴り出した。

 しばらく僕は、ただ体を小さくして痛みに耐えていた。その顔が上から踏まれる。地面の土砂が僕の頬に押し付けられる。その靴が僕の頬に乗せられた状態で、鬼沢の声が上からした。

「おい、てめぇが悪かったって謝れよ。そしたら許してやるぜ」

 なんで僕が? 悪いのはお前だろ。


「おい、聴いてんのか? ごめんなさいって、謝れって言ってんだろ!」

 そう言うと、鬼沢は思いきり僕の右手を踏みつけた。

「ぐあっーー」

「謝るのか、謝らねえのか? どうなんだっ!」

 鬼沢が僕の手をぐりぐりと踏みつけた。全部の指が軋んで痛む。僕は口を開いた。

「ご……ごめんなさい」

「あぁ? 聴こえねえぞっ?」

 また痛みが走る。悲鳴をあげると、涙が出てきた。


 指の痛みだけじゃない。指も痛かったけど、もっと胸が締め付けらるように苦しかった。

「ごめんなさい、僕が悪かったです……」

 僕は泣きながら言った。涙が止まらなかった。

 僕の手から足が離れると、鬼沢の声がした。

「弱ぇくせにイキがるんじゃねえぞ」

 それだけ言うと、鬼沢と仲間たちは笑いながら去っていった。


    *  *


 放課後、僕は保健室へと向かった。既に白川先生と、紅道萌、そして青野香澄が既に待っていた。

 少女二人はベッドに並んで腰かけ、先生は椅子に座っている。先生は僕に、対面するもう一つの椅子を勧めた。

 座った僕に、白川先生が口を笑顔で開く。

「突然のことで驚いたわよね。まず戦ってる敵のことだけど、敵の勢力は『闇の深淵アングラム』。そしてわたしたちは『光の趨勢アフラ・マズディア』」

「アングラムに、アフラ・マズディア…は、いいですけど、つまるところ何なんですか、それは? 異世界の敵? それとも宇宙からの侵略者?」

「そうね、宇宙からの侵略者、というのが一番判りやすい言い方ね。アングラムは悪の意志を膨張させて、多くの星を滅びに導いてきた。次はこの地球が狙われてるってわけ」


 笑顔の白川先生に対し、僕は驚きを抑えて訊ねた。

「という事は、先生は異星人?」

「まあ、それに類するものだと思ってもらって構わないわ」

 ああ! 何という事だ! このナイスバディの美人先生が、まさかの異星人! …いや、案外、悪くないか。

僕は二人の少女に向き直った。

「――で、君たちはどうして『光戦使団ミトラスターズ』なわけ?」

「なに、その…戦使団って?」

「いや、僕が考えた名前だけど」

 僕の特撮センスに感心してくれるかと思いきや、紅道萌は怪訝な顔で口を開いた。


「あたしは偶然、先生と敵が戦ってるのを見かけたのよ。その時、グラモットは人を傷つけて街を破壊してた」

「あの時はまだ、バーティカル・ディメンジョンを開発してなかったからね」

 先生は苦笑しながら言った。そうだったのか。

「二ヶ月前、街で爆発事故があったって報道があったでしょ?」

 青野香澄が言い添える。

「あ、そう言えば、そんなニュースがあったような…」

「……その時、先生は街の人を庇おうとしてた。あたしは手を貸そうとして、逆に先生に助けられた。その後、あたしにミトラス因子があるのが判って、ミトラスターになったのよ」

 萌がそう言った後で、香澄が口を開く。


「私は元から萌の友達。萌の様子がおかしいのに気づいた後、私にもミトラス因子があるのが判り、仲間になったのよ」

「その…ミトラス因子って何ですか?」

 今度は白川先生が説明を始める。

「宇宙線って、今も宇宙から降り注いで建物やわたしたちの身体を通過してる。ミトラス因子はそういう微粒子みたいなもので、意志の力に呼応する因子」

 白川先生が、不意に真顔で僕の眼を見つめた。

「そもそも、ただの物質の塊であるわたしたちに、自由意志があるのは何故か? 考えたことない?」

「いや……ちょっと、そんなとこまでは…」


「物質は物理法則に従って、重力に寄せられたりエントロピーを増大させたりしてるだけ。けど、自由意志はその物理法則を無視して、物を下から上に上げたり、散らばるものをまとめたりしてる。その意志の根源は? その意志の根源、と思われるものがミトラス因子」

 先生の説明は判ったが、話しが大きすぎて理解できない。戸惑う僕を見て、先生は話を続ける。

「ミトラス因子を身体に蓄積できる人が稀にいて、その人はミトラス因子によって色んな力を発揮できる。その姿がミトラスター。ミトラスターの能力は、意志とイメージ力に大きく左右される。そのミトラス因子を、あなたも持ってる、というわけ」

「それで……僕を、仲間にしようと思ってるわけですか?」

「そうよ。どうかしら?」

 先生の問いに、僕は動機が激しくなった。俯いて心を落ち着かせようとする。僕は、声を絞り出した。

「……悪いけど…僕には無理です…」

 僕は痛切な思いで、そう伝えた。


『僕ピン』メモ


桃井新平ももいしんぺい…名浪高校一年C組。特撮オタクで特撮研究部員。父親はサラリーマンで母はパートタイマー。二歳下の妹の佳子けいこは、兄を気持ち悪がっている。


紅道萌あかみちもえ…一年A組。剣道部に大会の際には呼ばれるが、普段は警察道場で稽古している。


青野香澄あおのかすみ…一年A組。検事で合気道家の父に習い、合気道を心得ている。


白川博子…名浪高校の保険医。脚が長いナイスボディの持ち主だが、萌たちミトラスターを導いてきた異星人。光の趨勢アフラ・マズディアの使者で、地球を闇の深淵アングラムから守ろうとしている。


八木直行…一年C組。新平の友人。美少女アニメ、美少女ゲーム、美少女漫画のオタク。悪い奴ではない。


ミトラスター…宇宙線のように降り注ぐミトラス因子を体内に蓄積できる者が変身した姿。ミトラス因子は、ただの物質であるものに『意志』が宿る原因となった神秘因子。宇宙の創生と関わるという説もある。ミトラス因子は意志に共鳴するため、本人の意思とイメージ力に大きく影響を受ける。





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