火のない所、煙立つ
魔人。魔族と人の長い歴史の狭間に生まれた奇異な種族。
その肩書のように見た目は人間、異形と様々で人間より強い力回復力を有しているどちらにもよらない特性を持つ種族であった。その中で大きな特徴はそれぞれ特有の力を持った「異能」を持っていた。
星見はその中でも「大地を操る異能」を持っていた。
異能は魔人の中でも桁違いに強くあったが彼女自身抑えなければならない程であった。
『大地の刺客、過激派組織「堕星」に加担か。総合局等に襲撃相次ぐ。』
一面に書かれた新聞を見て星見はため息をつく
彼女は小高い棚に布を敷いた簡易的なベッドの上で寝ころんでいた。
それ以外は物が置けない程に狭くほぼ目の前に戸があった。
「狂信者共と一緒にするな。本家の星屑の方が迷惑だろ。」
毒を吐きながら少女は新聞を丁寧に畳む。
立ち上がろうとしたところ突然咳をする。手で口を必死に覆うが前かがみにゆがめられる。
喉を痛めるような詰まった咳を数度繰り返した。
咳が治まり口から手を放す。唾液の混ざったねばついた血液が手に飛び散っていた。
故郷の島国を抜けてから星見は病気のような咳に悩まされていた。
原因は分からず咳は増すばかりで、戦いの最中でも影響を受けていた。
またかと言わんばかりの嫌悪の視線を向ける。
そして気持ちに切り目をつけ何もなかったように近くにあったガスマスクを装着し戸に手をかける。
戸を引くと日差しが目を差す。深呼吸をゆっくり行い健やかな森の空気を身体に送り込む。
呼吸をした後にガスマスクをつければ良かった。静かに後悔をしながら山を下った。
獣道を滑らないようにゆっくり下る。
相も変わらず坂道は足に負荷がかかる。
周りの景色を妨害する一番の要因に若干の苛立ちを覚えつつ人道にでる。
整理された土に安心感を覚えつつ歩を進める。
二つに結び分けた青髪にガスマスクという奇抜な見た目のせいで外を歩きにくい星見だが、ここら一帯は人気の少なく空き家が多い。そのため日差しが差すような昼間でも気を抜いて歩くことができた。
そんな何もない廃墟帯で星見は通い詰める場所があった。それは奇妙な図書館だった。
結末から言えば異能の図書館。中に住んでいる女魔人の異能であった。
彼女、田代江莉奈はどこでも図書館を展開することができその上この世に個人の生者が生まれ死ぬまで見た内容を本にすることができる星見とは別方向に次元の違う異能の持ち主だった。ひょんなことから彼女を見つけた星見は話しを重ねていく内に彼女と良好な関係を築き図書館を利用できるようになった。勿論その知識を閲覧することができ星見もそれを頼りに知恵をつけていた。
星見はどのジャンルを読むか考えながら前回入った壊れかけた木の戸をノックする。
「私だ。星見だ。」
彼女に分かるよう名前を名乗る。返事が無い。
今まで約束を破るような者であることを知っていた星見は疑問に思う。
身体は貧弱だが弱くない。気まぐれでどっかいったか?
そう思い木の戸を引いた。すんなりと木の戸は開く。
星見は警戒を強めた。図書館の扉はこちらから開くことができないはずだからだ。
ゆっくり歩を進めながら入る。中はいつも通り暗くガラスからの日差しだけで照らされている。
綺麗に棚に敷き詰められていた本棚が縦に並んでた。更に歩を進めいつも田代がいる席に向かった。
「何してんだ。お前。」